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「プロミシング・ヤング・ウーマン」の感想(ネタバレあり)

久しぶりのTOHOシネマズ二条のプレミアムスクリーンで座席を倒して観た。快適。

重さとエンターテイメント力

いわゆるレイプリベンジモノみたいなジャンルには入るのかもしれないけど、そういう映画の大半は女性側が復活を遂げたヒーローの様に記号的に描かれ気味だし、男性側を過剰に残酷に殺したりして、結局ジャンル映画的な味わいになっている事が多い気がする。

ただ今作の主人公の復讐はそういう映画とは違って、冒頭の家に連れて帰る男に対して与える罰からそうなのだけど、決して暴力的な事はしない。
あくまで言葉で男性側に「お前らが当たり前にやっているそれはおかしい」と言葉で訴える。

彼女のキャラクターも全然記号的ではなく、かなり人間臭い。
夜な夜な男達を自滅に導く姿を鮮やかに描きつつ、彼女自身の人生の時間は止まったままで、部屋の雰囲気を見るだに少女時代のままだ。

彼女自身が強姦された訳ではなく、むしろ自分が蚊帳の外にいたという事に罪の意識を持っている。
直接の被害者であるニーナだけではなく、大切に思っている周りの人間をも不幸にしてしまう感じが辛い。

しかしそういう重さも感じつつ、エンターテイメント的に先が読めないサスペンスとしてしっかり面白くて、アカデミー賞受賞も納得の脚本がめちゃくちゃ上手い。作品としてのクオリティも高いのが凄い。

キャシー

彼女が自分の人生がどうでもよくなり、両親が微妙な距離感で彼女を立ち直れそうにしている様子が振り返ると切実なのだけど、観ている間はコミカルなのが面白いし、部屋の装飾で彼女の精神的な孤独や幼さを表す美術などもとても素晴らしい。

ライアンとの関係がきっかけでニーナの事件の関係者に復讐していくのだけど、同時に彼との関係によって自分の人生をもう一度生き直す救いにもなっていて、だからこそ彼の過去が明らかになる所は地獄。
そこから自分の命を捨ててまで、というか命を捨てないと彼らに罰を与える事が出来ないのが辛い。

演じたキャリー・マリガン、言われてみれば少女っぽい佇まいの作品が多かった気もするけど、個人的にはインサイド・ルーウィン・デイヴィスのこれでもかとオスカー・アイザックを罵倒する役が一番印象的なので、今回の役柄はめちゃくちゃしっくりきた。

ライアン

ライアン役のボー・バーナムも絶妙なキャスティング。
こないだのエイス・グレードでは14歳女子の機微を丁寧に切り取り、監督として見事な手腕を発揮してたけど、「エイスグレードを撮った人」という目線で観ると前半は「この作品の中で唯一彼女の気持ちを受け止めてくれる男性」として説得力があった。
それだけに後半から彼もまた強姦事件の関係者だと分かる所の衝撃。
しかも彼の外からヘラヘラ笑っている傍観者であるという点が観ていて男としてとても居心地が悪くなってくる。

彼だけじゃなく男性の登場人物のほとんどは「僕は悪い人間じゃない」と主張しているのだけど、「お酒が入っていたから」「あの時は若かったから」というのが改めて全く理由になってない。
そして観ながら、あそこまで酷くないにしても過去に女性をモノの様に性の対象としか見ない男性ノリに同調してヘラヘラしてた人は居心地が悪くなるのではないだろうか。僕もあまり無関係では無くてかなりしんどかった。

という感じで、映画としての面白さと同時に自分が持ち帰るモノも多い作品だった。見逃さなくて良かった。

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