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「くれなずめ」の感想(ネタバレあり)

MOVIX京都で鑑賞。
土曜日に観たけど京都はここしかやってないのもあり、かなり多かった。
僕は見ていないけど最終回を迎えた「おちょやん」のキャストが多いのとかも影響してんのかなぁ、知らないけど。

今は亡き友人をそれぞれの記憶から、何でもない(と思っていた)日々を愛おしく思い出す構図は今回も出てる高良健吾主演の「横道世之介」を思い出すし、そんな過去を演劇と絡めて表現してケジメをつけていくシーンとかは藤原季節も出てる「佐々木、イン、マイマイン」を思い出す。

天国で出会う吉尾は結婚式の事など知らず、それまで現在の時間軸に出てくる吉尾は彼らが作り出した吉尾像でしかなかったり、複雑な語り口になっているのだけど、僕はさらに未来から友の死を作品として高良健吾演じる欽一が舞台の台本に落とし込んだものを映画として観せられているという気がした。

そしてそれは松井監督自身がモデルになった友達への想いを舞台で表現して今映画にしている目線と多重的に交わってくる様な感動がある。

ウルフルズ

松井大吾監督は「君が君で君だ」で尾崎豊の「僕が僕であるために」が印象的に使われていたというか、ある意味で曲の映像化みたいな映画だったけど、今回はウルフルズの「それが答えだ!」の歌詞がとても重要な意味を持っていた。

ラストに流れる「ゾウはネズミ色」が「それが答えだ!」への数十年ぶりのアンサーソングになっていて、「若さ」や「馬鹿さ」を肯定してた日々を振り返り、もう戻れないけど忘れないで前を向いていく様な物語との交わり方がとても素晴らしい。

主題歌センスというか、なじみのある曲の使い方が松井監督は毎回とても上手くて、まさか今更ウルフルズの「それが答えだ!」をダウンロードして聴きながら涙を流すとは思わなかった。

登場人物

吉尾

あのグループ内では「佐々木、イン、マイマイン」の佐々木や、「横道世之介」の世之介の様な変わった人ではなく、険悪になると潤滑油の様に6人の仲を取り持っている役割が大きい、それ故にいなくなった時、より寂しさが増す人。

彼がミキエに告白するシーンがとても好きで、一生懸命に言葉にしているのを観てるだけで涙腺を刺激された。本当に好きだったんだなぁと伝わってくる成田凌の名演。

最後のみんなで吉尾との別れをやり直す場面は本当は言いたかった言葉を言うとかではなく、実際の別れと同じ事しか言えないけどそれぞれが惜しみながらこれが最期の時だと胸に刻みこんで演じ直す。
傍から観るとコミカルさも漂うのだけど、変えようのない現実を物語として表現する事で気持ちにケリをつけるという行為自体が映画や舞台劇がある事そのものを肯定しているみたいで涙が出てきた。

ラストのくれなずみを眺めながら五人でしゃべっている内容が途中の吉尾を無視するジョークをしていた所と同じで、ここも実際はこんななんでもないシーンだったのかなと思わせるのだけど、映画の終わりにちゃんと楽しい思い出から現実に戻ってきた様な大人な締め方がとても好き。

欽一

この映画全体が彼が吉尾に捧げる為に書いた台本みたいで、松井監督自身の目線に一番近い人だと思う。

終盤の畑で心臓取り出して吉尾が不死鳥になって天国に行くシーンはコントの中では吉尾は永遠に生き続ける事が出来るのを表現しているみたいで、シーンとしては馬鹿馬鹿しいのに感動してしまう。

高良健吾はさすがヘラヘラした演技はお手の物なのだけど、そのヘラヘラこそに彼の意地があるのが分かるシーンで切なくなる。

明石

別に彼が電話に出たから何がどう変わった訳ではないのだけど、最後に話せなかった事をずっと後悔していて、実は一番吉尾の死に囚われているのは彼なんじゃないかなぁと思った。

最初のカラオケ屋での手を洗うタイミングの詰め寄り方が怖い。

しかし若葉竜也はこないだの「街の上で」のイメージが強くて今後何を観てものほほんとした青にしか見えなくなりそうだと思ってたけど、今作はやっぱ全然違う人だった。役者って凄いな、、、(馬鹿みたいな感想だ)


ネジ

地元に残ってネジ工場で働いてる。
個人的には未だ地元にいる僕からすると1番感情移入した。ただ1人地元にいるので待っているしかない人の哀愁。地元離れたメンバーと彼とでは時間の流れ方が違うんじゃないのかな、、、。

吉尾に返せなかったCDを大事に持っているのが観ていて切なくなった。

大成

後輩感は出しつつ実は誰のことも尊敬してなさそうな太々しさ、冒頭のワンショットの所からピリピリしていて、こういう嫌な感じの出し方はさすが藤原季節。

大学時代にネジと吉尾が泊まってじゃれあっていたシーンの後で、吉尾の三回忌(かな?)のもうお互い大人になった2人の会話がとてつもなく切ない。

ソース

高校時代にジャイアン城田優に対して言い返した一番根性がある人。それが分かっているので機転を利かせて(?)吉尾がビールに彼の金玉付ける所はしょうもないけどカタルシスがあるし、後から振り返るとここで出来た絆がかけがえのないものに思える。

吉尾が亡くなった連絡を受ける時に横にいる奥さんが内田理央なのとか絶妙で思わずしゃがみ込む彼にかける「風邪ひくよ」って言葉が泣けた。

しかしこの6人が全員ならワイワイ出来るけど、いざ人数が別れると組み合わせによって全然話が盛り上がらないのは友達描写としてとてもリアルだ。
何年仲良くても話の距離感が掴めない友達関係ってあるし、こういう空気感をリアルに描いた映画って意外に少ない気がする

その他サプライズゲスト的に入ってくる役者さんの豪華さに笑う。

おでん屋の滝藤賢一の「お前かよ」感とか、城田優がジャイアン役やると若い時の安岡力也みたいだ。

松井監督自身がインタビューで答えていた通り、モデルになった友達に捧げる作品で個人的な映画に思えるし、賛否分かれそうな気もするけど、僕はそのヘンテコさがとても愛おしく思えた。

松井監督の前作の「#ハンド全力」も好きだったけど、全然違う味わいで今作も大好きな作品だった。

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