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「ファーザー」の感想(ネタバレあり)

TOHO シネマズ二条で鑑賞。
緊急事態宣言でBIVIの他の店舗が殆どやってなくて、時間を潰すのが大変。

主観的で巧みな語り口

めちゃくちゃ起きてる出来事を大雑把に言うと「年老いた父親は心配だけど娘は自分の人生を生きる為に離れていく」というどこの家族でも共感出来るし小津映画とかとも通じる普遍的な家族の物語なのだけど、今作は父親の主観性に焦点を絞っているのが唯一無二の作品になっている。

冒頭から時間が飛び、場所も飛び、急に人が現れたり消えたり、娘だと思っていた人物の顔が変わる。
これまでも認知症の人を描く映画は何度も観てきたけど、ここまで主観的に情報の波を処理できない事の苦しさを描いた作品は観たことがなくて、ただただ圧倒される。
彼に接する周りの人達が混乱してしまう気持ちにも痛い程共感してしまうのだけど、本人視点の自我を保つことが出来ない恐怖が本当に恐ろしい。

でもそういう主観視点だけで映画が進むのかと思いきや、娘側の視点もしっかり入ってきて、献身的に尽くしてもなかなか報われない辛さ、それでも時々「いつもありがとう」という言葉が出たりする父親の本質的な優しさも知っているから、見捨てる事も出来ない辛さも描ききっていて、本当語り口の塩梅が巧みすぎる。

あと事故で亡くなったらしいもう一人の娘さんの情報などは台詞で説明されないけど、父娘名優二人の凄い演技とさりげないやりとりだけで、その輪郭が浮き出てくるような感覚になるのは、とても映画的だと思う。凄い。

部屋

部屋に置いてある物がどう変わっていくのかという部分もとても重要で、明らかに最初の部屋から違う部屋には変わっているので違和感はあるのだけど、画角の取り方とかが同じで、アンソニーが違和感なく受け入れているのにも共感できてしまう。

そして場所が変わる度に次はどこに連れていかれるのか?という不安が付きまとう、さっきと何かが変わっているんじゃないかと画面の隅々にまで意識がいき神経がすり減ってきて、上映時間が長い映画ではないのに観終わったときの疲労感がなかなか凄い。

後、単純に部屋の色合いや中にある小さな小物など全てが計算され尽くしていて映画的に美しく眼福。美術スタッフの仕事が凄まじいし撮影も素晴らしかった。

アンソニー

父親としての威厳に縛られ、それが自分の中からどんどん失われていき、最終的に全てが剥がれ落ちて子供になってしまい求めるものが自分の母親からの愛というのが、何とも切ない。

何となく認知症によって忘れてた記憶が後からサスペンス的に甦り、見てるこちらも胸が締めつけられる切なさがやってくる語り口の部分は、こないだTBSでやってた「俺の家の話」とかを連想した。

時世が行ったり来たりするだけではなく、ずっと昔の記憶や、ただ想像した事等がごちゃごちゃに混ざり合って映画は進むので、物語的なパズルで繋がる様なものではないのが、観ていてとても混乱する。何て言うか正気を保ったまま夢を見ている様な感覚。

その都度、驚いたり、深く考える事を諦めたりする感じが認知症の恐怖そのものでもあるんだろうなぁ、辛い。

演じたアンソニー・ホプキンス、言わずと知れた名優だけどアカデミー賞主演男優賞も納得の名演だったと思う。途中のあえてピエロ的に陽気な病気のおじいちゃんを演じた後、冷たく突き放すシーンは思わずゾクッとした。

アン

こないだの「女王陛下のお気に入り」での演技も圧巻だったけど(そういや今回も役名アンなんだ、、、)、やっぱめちゃくちゃ凄い。
この映画は登場人物の顔のアップが多いのだけど、彼女の色んなモノを溜め込んだ表情の変化に釘付けになる。
特に度々父親が亡くなった妹の話題を出す時のピリつく顔が凄くて、なんの事情も知らなくても「あ、この話題ダメ」ってわかる。
妹との関係性等は詳しく語られないけどめちゃくちゃ色々あったんだろうな、、、。


という感じで、物語の語り口、映像的な見応え、役者の演技、等等全てが一級でレベルが高い大傑作だと思う。
素晴らしかった。

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