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佐々木、イン、マイマインの感想(ネタバレあり)

MOVIX京都、前回「ぼちぼち来るの厳しいかな、、、」みたいな事を書いてしまったけど、あまりに今作の評判が良いので我慢できずに結局来てしまったし、評判通り素晴らし過ぎたので翌週にまた鑑賞してしまった。

2回とも1日1回の上映しかなかったので結構混んでた。

愛すべきくだらない日々

くだらない様で、実は振り返ってみると自分の人生を決定づけるきっかけになった日々があって、それを今の生き方のルーツである事を認め、向き合い、覚悟を決める事で人生を前に進める、冒頭のタイトルが出た所がある意味ラストシーンでもあるのだけど、主人公が演じる舞台と人生の幕が上がる瞬間の切れ味が後から振り返るとめちゃくちゃ感動してしまう。

でも映画としてのラストはそこじゃなく、怒涛の熱量で描かれる霊柩車から飛び出してくる佐々木に登場人物たちが佐々木コールを送る所で終わる。

彼はしっかり彼らの胸の中で生きている事を映画だから描ける希望としてこちらに語りかけてくる様で自分でもよく分からない位号泣してしまった。映画を観た誰もに佐々木コールが刻み込まれる。

現実と地続きな佐々木像

佐々木役の細川岳さんの実際の友人の話をモデルに作られた物語らしく、悠二の方が細川さんを投影した役で俳優業をやめようか迷っていた中でこの作品を残さなければ、という思いに駆られ作った映画なそうな。


佐々木役を別の人をしてもらうのではなく、自分が佐々木役をするというのが自らモデルになった友人を演じる事で、断念しようとしていた俳優業ともう一度向き合う形になっているのが映画内の悠二ともシンクロしていて二重に感動がくる。

登場人物

悠二

現在の彼がしている「役者」や「ボクシング」、前は行っていたらしい「バッティングセンター」、本人が意識的なのかは分からないが東京での生活は佐々木との日々による影響が大きいのだけど、どれも中途半端になり、好きな元カノとの関係も終わってるのにズルズルと引きずりながら死んだ目で日々を過ごしている。

そんな彼が戯曲のロンググッドバイの脚本を読む事で佐々木との日々を思い出す、もう一度刻み込んでいく。佐々木の死のタイミングも映画的な偶然だけど最後まで彼の背中を押してるみたいで胸を打たれる。

特に語られる訳じゃないけど両親は出てこず、高校時代の祖母との暮らしの窮屈さが観ていてなかなか辛い。
佐々木に比べたら普通の生活環境にいるけど家族に対する孤独感で通じ合っているみたいだった。

赤ん坊を抱いて泣き出す所は高校時代の象の赤ちゃんが生まれたニュースを思い出したんだと思った。
その時佐々木が言っていた大人の象のコミニュケーションの話に連なる様に「彼女に想いを今すぐ伝えなきゃ」と走り出す流れが凄く鮮やかに感じた。

高校時代の祖母や現在の多田等の「大人」に何度も言われ続けていた「大事な事を後回しにしない」という事を泣いた子供を抱く事で受け入れ「大人」になる事を選び取る瞬間が感動的。

ロンググッドバイの戯曲のセリフに自分にしか出来ない佐々木の想いを乗せた言葉を吐き出しながら線路沿いを走っていく所は、この映画の構想を温め続けてきた佐々木役の細川さんの友人に対する想いと繋がって「表現する事」が映画内と現実とを結びつけたみたいでとてもエモーションがあった。

佐々木

高校時代から漠然と自分にはまともな未来がないと分かっている感じ。
パチプロでお金も稼いでるし、貧困とかそういう類の絶望ではなく「自分は他の人の様に生きれない」という生き辛さを抱えている様に見えた。


高校で「お前なんか好きになる女はいない」と言われ多田に勝負を挑んでいた彼が、時が経ちパチンコ屋で悠二に自虐的に女性と縁が無い事を呟くシーンは人生の可能性がもう閉じてしまっているのを示しているみたいで切ない。故にカラオケでのやりとりがとても感動的。

しかし中島みゆきはやっぱり偉大だよ。改めて時代を超えた全ての生きる人の応援歌。

僕も中島みゆきは好きで「化粧」は10代の時聴きまくっていたし、凄まじく親近感。
自分の人生をある意味諦めていた佐々木にとってカラオケであれを歌うのが数少ない救いになっていたのかと思うと胸が締め付けられる。
「流れるな涙、心で止まれ」というフレーズが佐々木の生き様そのものみたいだ。

だからこそそれを共有できた苗村さんとの繋がりが彼にとって「ナンパ」という言葉で片付けられない切実な光だったんだと思う。
カラオケ屋の出会いのくだりはコミカルではあるのだけど思わず涙が出てくる位、暖かいシーンに感じた。

ラストのバッティングセンターで高校時代バットに玉が当たる事もなかったのに、ホームラン一位の彼の名前を見つける所では閉じた世界の中でもそれでもしっかり前に進んでいた事を示す様で涙が出てきた。
人知れず描いている絵もそうだけどどんな環境でも死ぬまで自己表現を諦めないなかった彼の生き様がやっぱりとても好きになってしまう。

パンフレットの最後に細川さんが書いた「できるからやるんじゃないだろ、できないからやるんだろ。」の言葉がこ映画を観たこちらへの最高のエールを送ってくれてるみたいで泣けた。

ユキ

パンフレットの脚本の所で「ユキを女神にしない」という走り書きがあったのが印象的だった。
悠二の想いをただ受け入れるのではなく、彼女にもずるい所はしっかりあって悠二と共に成長して映画が終わっていくのが凄く良かった。
出番としては少ないけど、しっかり生身の人間として描かれている。

萩原みのりさんは去年の終わりから出る映画は全部良かったけど(特にお嬢ちゃんが好き)、今回も素晴らしかった。来年の「街の上で」早く観たい。

多田

仲良し4人組の中で一番器用だし、一番大人に見える。
一回目の鑑賞の時は観ながら少し心無さを感じたけど、二回目でかなり印象が変わった。

高校内のヒエラルキーがかなり高く、佐々木とは一番距離感が遠い人なのに、ヘラヘラしながらもかなり気遣いをしながらあのグループ内にいる感じがした。
佐々木や悠二の様な寂しさは抱えていないので温度差はあるけど彼にとってもあそこは居心地が良かったのだと思う。
彼が死んだ佐々木に最後の別れをして玄関から出てきた時に蹲って涙を流す所を観てから振り返ると、実は悠二と同じく彼の中でも高校時代の佐々木の存在はめちゃくちゃ大きかった事が分かってすごくグッとくる。

木村

登場人物の中で一番「普通」の優しい人。
だからこそ多田と同じく佐々木や悠二との対比としてもとても重要な人。
「普通」とは言いつつ「普通」に生きていく事の堅実なぶれない強さも感じるとても優しい佇まいで森優作さんが演じきっていた。
学校1番の美人と付き合っている描写も全く過程は描かれないのに凄い説得力があった。

苗村さん
どういう人物像なのか殆ど描かれないけど、カラオケ屋で一人「プカプカ」歌っているのを見るだけでなんとなく孤独感が伝わってくるし、カラオケの後の笑顔で、彼女にも悠二達と同じ様に佐々木によって救われている様に見えて胸がいっぱいになった。

佐々木にとっておそらく人生の中で一番親しかった女性だと思うのだけど、彼女の「友達」という言い方で彼らしい不器用さが伝わってきて切なかった。



あと鈴木卓爾のフワフワした存在感も佐々木の父親として説得力抜群だったし、藤原季節と共演している所を久々に観れたカトウシンスケも「ケンとカズ」と関係性全然違って笑った。
その他出ている人みんな良かった。
監督さんの役者への演出力の高さが窺える。

僕個人として学生時代に佐々木の様な友人はいなかったし鮮やか思い出も無いのだけど、佐々木や悠二が迷い、それでも前を向いていく生き様を通してこちらの胸をも騒つかせる凄まじい力のある作品だと思った。
まるで映画を観たこちらも彼らが近くにいた様な錯覚してしまう位、この映画を好きになってしまった。

今年は「ハンド全力」や「君が世界のはじまり」など青春映画豊作の年だったけど年末にド級の傑作が来た感じ。素晴らしかった。

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