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エジプトでパスポートを紛失してから日本に帰るまでの話②

2024/1/1(月) ルクソール
パスポート紛失から1日目(前半)

絶望からの新年

結局のところ宴会場に戻る気力もなくなり,ベッドの中でふて寝し,新年を迎えた。宿で知り合った日本人と,新年に盛り上がるルクソールの街を観光する予定であったが,そんな気力もなくなり,ベッドの中で寝込んでいた。

誘っていただいた方々には申し訳なく思うが,パスポートを無くしたという事実が受け止めきれなかった。

日本に帰れないのではないか,仕事始め1/9(火)までに間に合うのか,パスポートが悪用されているのではないか,とかなり追い詰められていた。しかも,今回はツアーではなくひとり旅である。エジプトで頼れるのは自分自身しかいない。2024年は絶望から幕開けた。

一人で思い詰めても仕方ないと発起し,朝食会場である屋上へと向かった。そこに50歳ぐらいのMさんという貫禄のある日本人の方がいらっしゃった。

パスポート紛失という事実を一人で背負うには重すぎることもあり,開口一番「パスポートを紛失しました」とカミングアウト。

初対面の男からいきなりそんなことを聞かされるのだから,困ったと思われていたと思うが,それだけ心にゆとりがなかった。誰かに話さなくては,精神が保てなかった。

そんなMさんは実体験を踏まえて,この経験は後で振り返った時に良い経験になるよと,励ましてくれた(これに限らず,出会った日本人の方々には,多くの慰めや励ましをいただき,大変に救われた)。

日本に帰国する方法

しぶしぶながらパスポート紛失という事実を受け止め,どうすれば帰ることができるのか,在エジプト日本大使館のホームページや過去のパスポート紛失の体験談などの情報を集めた。

・在エジプト日本大使館ホームページ

https://www.eg.emb-japan.go.jp/itpr_ja/about_us.html

・参考にしたブログ

これらの情報によると,パスポートを紛失した場合「帰国のための渡航書」という物を日本大使館に作成してもらえれば,緊急で帰国の手続きが進められるようだ。
 ただ,その手続きには以下の書類が必要となる。
・渡航書発給申請書(大使館で入手できる)
・証明写真
・日本国籍を証明する書類(戸籍謄本など)
・当地警察からの盗難又は紛失届(ポリスレポート)
・航空券または旅行代理店等作成のフライト・スケジュール
・手数料
参考:https://www.eg.emb-japan.go.jp/itpr_ja/r_passport.html#return

この中で持っていないのは,①ポリスレポート,②証明写真,③戸籍謄本であった。自分が入手しなければならないのは,①②であるが,③戸籍謄本は日本にいる家族にお願いしなければならない。

家族に心配させるのも嫌だし,地元の役場の営業日を調べる限り,1/8(月・祝)まで閉まっていた。日本への帰国が延びそうで,頭を悩ませた。

というのは,帰りのフライトは1/4(木)の深夜の便で取っており,そこから1/8の戸籍謄本を入手すると,最低でも4日はエジプトに滞在しなければならない。

そうなると仕事始めの1/9(火)には戻れないようと思われ,会社に迷惑をかけることになる。そもそも1人で,エジプトで4日間もすることがない。

暗澹たる気持ちを抱えながら,戸籍謄本なしでどうにか1/4の深夜の便で帰れないだろうかと思い,大使館のホームページにメールアドレスが掲載されていたので,わらにもすがる思いで,そこにメールした。

年末年始の大使館の営業日も1/4(木)のみであり,このメールすら返ってくるかわからない。すべてが絶望であった。

取り敢えずルクソールの地で必ずしなければならないのは,警察署へ赴きポリスレポートを入手することである。

ただ,今日は元旦。警察署すらやっているか怪しい。行かないことにはわからないので,望みをかけ警察署へと足を運んだ。

カオスな警察署

幸いにも警察署はやっていた。しかし,そこはカオスであった。中に入ると,10人ぐらいのエジプト人が手錠で1列に繋がれており,警棒を持った警察官が目を光らせている。

人が手錠に繋がれているところを初めて見た。早く日本に帰りたいと思った。ただ,何としてもポリスレポートを入手しなければ帰れない。

気持ちは塞ぎ込んでいたが,日本に帰るためにも出会った警察官には手当たり次第,「I lost my passport, I want police report!」と伝える。

しかし,現地の警察官は英語が得意な人はほとんどいない。手錠で繋がれた受刑者の1人が,英語が得意だから言うので,その受刑者に英語で説明し,警察官にアラビア語で翻訳する場面があった。カオスだった。

2階の奥の部屋に連れられて署長らしき人と話したり,そのほかの役員らしき人と話すことで,何とか理解が得られたのか「ここで座ってろ」と言われ,地上階の受付奥の3人がけのベンチを指差す。

あぁこれでポリスレポートが入手できると,ホッとする。しかし,20分経っても,30分経っても何も起こらない。

忘れられている? と思い,周りの警察官に「ポリスレポートを作成しているのか?」と聞く。しかし英語が通じない。

そこで,Google翻訳を使ってポリスレポートが欲しいことを伝える。すると1人の警察官が「大丈夫,心配しないで,私が必ず何とかします。愛しい人よ」とGoogle翻訳で返信してくれた。男性であったが,好きになりそうだった。

そこから15分ぐらいその警察官があらゆる警察官にアラビア語で説明してくれているが,一向に進展がない。

どういうことなのだ? そうこうしていると,ふとエジプト大使館からメールの返信が入っていることに気づいた。それには,ポリスレポートはツーリストポリスに行って入手してくださいということと,ツーリストポリスの場所が書かれた地図が添付されていた。

その地図を見ると,明らかに今いる場所ではなかった。そう,警察は警察でも,今いるのは地元の悪い人が集められる本当の警察署(ポリスステーション)であり,ポリスレポートを発行してもらうにはツーリストポリスに行かなければならないのだ。

周囲の警察官,特にGoogle翻訳で会話した警察官にはお詫びし,急ぎツーリストポリスに向かうことにした。その警察官の顔の困惑した表情は,今でも忘れられない。

ポリスステーションには,結局3時間ぐらいいた。アラビア語が飛び交う落ち着かない環境,たまに受刑者と警察官の取っ組み合いが起こったり,そして慣れない英語での懸命な説明などで,心身ともに疲労した。

ツーリストポリスでも同じような大変さが待っているのだろうか。不安を抱えながら,ツーリストポリスへと向かった。

つづく


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