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おふろ日記/どろどろの土に還る

一週間以上も毎日、雨が降り続いている。

雨音を聞きながら、暮らしているようだ。

朝、目覚める瞬間に、
夜、眠りに落ちていく、あいまいなまどろみに、

雨がしとしとと、静かに降りてくる。

庭の土はどろどろになって、
あちこちに水たまりができた。
板張りのエントランスで、息子が雨に滑って転んだ。

夫は、一か月先まで旅行に出ていていない。
ダイニングも、リビングも、
火の気はなく、静まり返っている。

赤いソファーのそばの、観葉植物たちは、灰色がかって見える。

家中の明かりを灯してもそうなのだ。

飽和した水量が、
私のカラダの中にも、
沈んで、
沈んで、
深く入り込みながら、
同時に何かが、浮かびあがってくる。

そんな何かを、間違っても掴んではいけない。

だからこんな雨が続く日々に、
何かを書くものじゃないと、私はどこかで知っていて、
それなのに、
雨の終わりを待ちきれずに、ベッドの上で、スマホの画面に向かってしまった。

ほらね、

やっぱり書くんじゃなかった。

永久下書き決定の文章を書きあげて、私は憂鬱になる。

「自分」は、
何を考えているのだろう、
どう感じているのだろう、
本当はどうしたいのだろう、

「自分」というものに足首を引っぱられて、
何かを解決しなければならないような気にさせられる。
このままではいけないと言われているような気がする。

特に年明けから長引く風邪を引いて、
10日近くも、ベッドの上で過ごした。

雨音を聞きながら暮らすのは、贅沢なことだった。

雨音が私ぜんたいを侵食して、
どろどろの土に還っていく。

そう、お日様が出るまで、そうしていればいい。


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