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クリスマスの思い出—循環する豊かさ

子供たちが小さいとき、オフグリッドの山暮らしをしていた私たちは、最小限のお金の流れの中で暮らしていました。

バブル時代を日本で過ごした私たちは、少ないモノ、少ない予算の中、シンプルで昔ながらの暮らしを楽しんでもいたのです。それにそもそも、山での暮らしなんて大してお金が必要なわけでもありません。

ですから 当時、大工をしていた夫は、現金がなくなれば山を下りて、町で友達の大工仕事を手伝う、ということをしていました。

彼は普段は山道を直したり、畑をしたり、冬の薪の準備をしたりと山での暮らしを整えていました。私は子供の世話や家事。山暮らしは晴耕雨読。薪でお風呂を沸かし、川でお洗濯、冬は掘り炬燵、という世界です。

毎日の暮らしは、ただ「暮らす」ためだけにありました。お金はなかったけれど、そうした環境での、家族との暮らしは、当時の私たちにとっては、何よりの豊かさだったのです。

ある日、夫が、同じ山暮らしをしていたミュージシャンのカップルと町に出て、ストリートで音楽をやるお手伝いをしていました。
すると、演奏を気に入ってくれた老夫婦が 終わった後で彼ら3人をウオルマートへ連れて行ったのです。(3人とも見るからにお金がなさそうだったのでしょうか!? 笑)

クリスマス前だったのです。

「ここで何でも買いたまえ!」

老夫婦は、あまりの展開に戸惑っている夫のショッピングカートに、子供たちへのおもちゃや、お菓子をどんどん入れてくれたのだそうです。

夫が持ち帰ったたくさんのプレゼントを見たとき、私たちは何て素敵な世界に住んでいるんだろう、と胸が躍りました。まるでお話の中の出来事のようだと思ったのです。そして夫から話を聞くうちに、その老夫婦がしてくれたことを 自分もいつか誰かにしてあげられるようになりたい、と願ったのです。25年前のことです。

メインストリームから外れて、お金には頓着のない暮らしでしたが、お金があると、こんなふうに誰かを喜ばせることができるんだ、そうリアルに気付いたのです。

プレゼントの中に、何とまあ、ガーフィルドのイラストのついた便座をみつけました。
夫に尋ねると、
「何でも欲しいものを買いなさい、って言われても 別に思いつかなくて。でも、そういえば便座が壊れてることを思い出したんだ。ガーフィールドならトイレのたびに、子供たちが喜ぶだろうと思って、これを買ってもらったんだよ」と、言うではありませんか。

老夫婦もびっくりのクリスマスプレゼントだったろうと想像すると、可笑しくてなりませんでした。

私は夫から話を聞いただけなので、その老夫婦の顔は知りません。もちろん彼らの名前さえ、誰も知らないのです。

けれど、クリスマスの時期になると、いつもそのことを思い出します。私の想像の中の彼らの笑顔が、温かな愛と豊かさのエネルギーを放射して、今もなお、私の世界を明るく照らしてくれるのです。

25年前に私たちに与えてくれた、あなた方のスピリットはちゃんと引き継がれています、ありがとう、と、まるで天使に語りかけるように 澄み切った星空に向かって今年も話しかけています。

Merry Christmas!



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