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食堂かたつむり

小川糸さんの、私にとって3冊目の本。

登場人物がとってもポップです!

物語のトーンは、これまでの糸さんのストーリーにあるように、静かで内省的ですが、家財道具一切合切をもって消えた、同棲していたインド人の元恋人、るりこ御殿のおかん、白馬に乗ったネオコン、お妾さん、手作り酵母パンが朝食のエルメスという豚が この物語に鮮やかな色をぶちまけてくれます。

主人公は、食堂かたつむりのオーナーシェフとしてすべてを仕切っています。事前にお客様とミーティングをしてから、自分なりに得た情報で献立を考え、その季節にしか味わえない海のもの、山のものを自分で集めてきて作る、本当の「ご馳走」を出す食堂。このあり方にうっとりします。

あの、ちいさな空間をランドセルみたいに背中にせおって、私はこれからゆっくりと前に進んでいくのだ。私と食堂は一心同体。一度殻の中に入ってしまえば、そこは私にとっての「安住の地」以外のなにものでもない。

こんなふうに思って、主人公は自分の食堂を「かたつむり」とつけますが、食材を自分で集めてきて、それを丁寧に丁寧に心をこめて、相手を思って作りあげていく、スロウフードだからこそ、「かたつむり」の名前がふさわしいとも思いました。

あり得なさそうな極彩の登場人物とそのエピソードの中に、しっかりと地に足のついた食への情熱をもつ主人公。ここでもまた、彼女の癒しと再生が静かに起こっていくのです。

読後、一晩たった今も、それぞれのキャラクターが私の中で生き生きと蘇り、この本を終わらせてはくれません。

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