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その笑顔が、ますます輝きを増すように。

サーバーとしてのトレーニングを受けていた、若い女性が、ついに独り立ち。
溢れる笑顔で、お客様を接待する姿がたのもしい。

ところが初日、年配女性の、ふだんからクレームの多いお客様に当たってしまった!

クレーム好きのお客様、というのは存在する。
そして、そんな姿勢は、当の本人にますます小さな不都合を引き寄せる。
頼んだものが、品切れだったり、お水のお代わりが遅かったり、というような。
(何故?と思うのは、それでも来店して下さる、ということ。)

そんなお客様が、ほんの少数だけれど、存在する反面、長く来てくれるお客様の中には、「ここでの食事も、サービスもはずれたことがない。」と言って下さる人も多くいる。

この差はやはり、一人一人の引き寄せなのか、と思うこともある。
(そういったお客様に当たる、スタッフの引き寄せ、ということもあるかも)。


もちろん、お店の、どんな些細なミスでも、お客様側のせいにするわけでは決してない。
どんなタイプのお客様が来店しようとも、びくともしないサービスを目指している。

何かが起これば、それを追跡して、原因を調べ、同じミスが起こらないための仕組みを作り、スタッフに実践してもらう。

その繰り返しで今日まできた。

先ほどの新人サーバーのシェリーは、彼女の最善を尽くしながらも、最後の会計で、誤ったレシートを渡したものだから、そのお客様の不機嫌は頂点に。

私が、テーブルに行って、誤るも、不機嫌を選び続けるお客様。
連れの女性はやれやれ、といった具合に私に目配せして笑顔を向けてくれるのでほっとする。


さて、いきなりこんな、学びの体験をしてしまったシェリー。
後で、他のスタッフに、頑固で、不機嫌な女性客について愚痴っていたのを耳にした。彼女には、無理もないことだったろう。


営業が終わったあとで、シェリーに
「大変だったわね」、とねぎらった。

「彼女、私が前にいたレストランにもよく来てた。いつもあんな感じだったの」、と彼女。

私は言った。

「そうね、お店には色んな人が来るからね、

どんなことが起きても個人的に取らないことよ。

ただ、起こったことに対して、やるべきことを、いつも誠意をもってやるだけ。それでも、だめだったらそれは仕方ないことよね。あなたは悪くないよ。ベストを尽くしたのだもの。

でも、いつでも、私たちはプロフェッショナルでいないといけないよ。絶対に、お客様への文句を、楽屋で言ってはいけないの。

やることをやったら、何事も個人的に受け取らず、次へ進むの。そういう姿勢でなければ、この仕事は、とても大変で、複雑な仕事になってしまうからね。」

ものごとを個人的に受け取れば、そのことが気になって夜も眠れずに、
出来事を引きずってしまうたちの、スタッフが過去にいた。
その日の、お客様への対応のひとつひとつを夜な夜な吟味して、そのストーリーの中でぐるぐるしてしまうのだ。

反省はしても、後悔はしない。
すべて自分の実になっていく体験だから。
そういった潔さを身につけなければ。

それは、私自身が学んだことでもある。

そして、私が彼女にプロフェッショナルでありなさい、と言った意味を彼女はちゃんと受け止めてくれただろうか?

「絶対に、お客様への文句を、楽屋で言ってはいけないの。」

お客様の前で表した自分の笑顔、真心からの行為を、舞台裏で台無しにしてしまうような言動は、自分の心に嘘をついたことにし、自分を汚してしまう気がするのだ。

そのことは、私には、とても大切なことに思われる。

そして、どんな言葉で、それを彼女に言って表そうかと思ったとき、自然に口から、「プロフェッショナル」という言葉が出てきたのだった。


私は、彼女の美しい笑顔が、この仕事によって、ますます輝きを増していきますように、

そう祈っている。


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