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バリュエーションを「先送り」?!(4)

前回のnoteはこちら。

さて、前回のnoteで、新株予約権付社債を使うとバリュエーションを先送りできる理屈を説明してきました。

ところが、ここで、ひとつ大きな疑問が生まれます。

「これって投資家に旨味あるの?」という疑問です(実際、前回のnoteを読んだ方からもまさしくその指摘がありました笑)。

前回の事例をもう一度つかって、この疑問に答えていきます。

例)
2020年8月 A社、投資家Xに新株予約権付社債1000万円を発行。この時点でのA社のバリュエーションは5000万円から2億円まで、評価によって様々であり、議論が紛糾してしまった。
2021年3月 A社、シリーズAに成功。5億円のバリュエーションで、一株1万円で投資家Yから5000万円を調達。
→ 投資家Xのもつ1000万円分の新株予約権(付社債)が、1000株(=1000万円÷1万円)のA社株式に(その代わり社債は消滅)。

ご存知のとおり、スタートアップに投資をするエンジェル投資家やベンチャーキャピタルといった人たちは、ハイリスク・ハイリターンを狙っています。

シードで投資をした場合と、シリーズAで投資をした場合とで、リターンが同じであれば、シードで投資をする「旨味」がなくなってしまいます。

上記の例のままだと、たしかに、投資家Xは2021年3月のシリーズAから参加すればいいんじゃないの?と思えてしまいます。

そこで、新株予約権付社債の発行にあたっては、投資家に早期に参加する「旨味」を与えるために、いくつかのしかけを準備しています。

ディスカウント

ひとつめの仕掛けはディスカウント、すなわち、次回資金調達ラウンドにおける発行価額よりも●%分お安く株を取得できるという条項を、新株予約権付社債の発行要領に入れておく方法です。

たとえば、上記の例では、シリーズAから参加した投資家Yは、一株を1万円で購入しています。

もし、新株予約権付社債の発行要領に、10%のディスカウントをすると記載があれば、シードから参加していた投資家Xは、1万円*(1.00-0.1)=9,000円でA社の株を取得することができるわけです。

バリュエーションキャップ

もう一つの仕掛け、バリュエーションキャップは、少し複雑です。

これは、次回資金調達時のバリュエーションが高くなりすぎていた場合に有効なものです。

たとえば、上記の事例で、2020年8月から2021年3月までの間に、A社のエンジニアが天才的な発明をして、その評価によってA社のバリュエーションが想定をはるかに超えて、シリーズAのときに50億円(一株10万円)まで上昇してしまったらどうなるでしょうか?

投資家Xのもつ1000万円分の新株予約権付社債では、1000万円÷10万円で、たったの100株しかもらえません。

このような事態を回避するために、「次回資金調達でバリュエーションがうなぎのぼりになっても、おれにはこの上限額のバリュエーションしか適用されないからな!」というルールが、バリュエーションキャップです。

たとえばバリュエーションキャップが5億円だとしたら、A社のバリュエーションが50億円(一株10万円)になっていたとしても、投資家Xだけはバリュエーション5億円と仮定した場合の株価(一株1万円)で1,000株を取得できるわけです。

以上のような仕組みを組み込めば、特にシード、アーリー段階で資金を出す投資家にとって、新株予約権付社債による投資は、一定のインセンティブを持つことになります。

この話はまだまだ続きます。

今日も1万回の失敗と挑戦を繰り返す起業家・スタートアップを応援しています。

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