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第15号(2023年12月15日)ボトムアップ型軍事革命を体現するウクライナ及びロシア(11月期)

 皆さんこんにちは。明くる年もあと少しといったところですが、いかがお過ごしでしょうか?今号は11月期の話題と論文についてご紹介します。



米陸軍にドローン戦シフトの動き

概要
Defense One が10月4日投稿( 記事本文
原題:Army moves ahead on Ukraine-style bomber drones

要旨
 
軍応用研究所のポートフォリオマネージャー、ダン・ヒルティ氏によると、8~12か月以内に2社は40mmや60mmグレネード弾など、軍が容易に入手できる弾薬の一部を投下するためのペイロードメカニズムを実証する予定だという。ヒルティ氏によると、さらに2社が兵士に小型無人機を装備させ、より高度な兵器を装備する能力を開発しているという。 2機のうち1機は、精密誘導ミサイルを発射できる重さ55ポンド未満のドローンのデモも行っている。
 陸軍応用研究所はウクライナとロシアがホビー用レーシングドローン(FPVドローン)をDIY自爆ドローンに変えたのと同じように、徘徊兵器に転用できるドローンの研究も行っている。この研究は致死性ドローンを陸軍歩兵部隊に導入しようとする陸軍の推進の中で行われた。
 8月、陸軍は兵士に携行可能な徘徊弾薬を提供する低高度追跡打撃兵器プロジェクト(LASSO)を発表している。 陸軍はどの企業が弾薬を提供するかは発表していないが、2024年には歩兵旅団戦闘チーム全体にこの兵器が配備されると予想している。
 米軍のこうした動きにおける懸念事項はコストだ。米国内で開発中の兵士向けキットはウクライナで使用されているものの約30倍といわれており、より多くの兵士に訓練するためにはコスト削減が重要な要素になるとされている。

コメント
 
ウクライナ戦争は軍事におけるボトムアップ型のイノベーションを巻き起こした(後述の【論文】「負け犬の真似事」の大戦果―ロシア・ウクライナ戦争における 戦術ドローンを参照)と言われていますが、この戦果を米軍も取り入れようとしています。しかしながら米軍の適応の仕方はトップダウンのゼロベース開発であるため、ウクライナ軍と比較して大幅なコスト高は否めないでしょう。「持てる国」だからこそ出来る大規模開発とも言えると思います。
 しかし米軍の研究開発によって、間違いなく小型ドローンとミサイル・弾薬の組み合わせによる戦術は洗練されてくると考えられます。現在各国が追い付け追い越せでドローン戦術について研究を重ねている所、今後の研究成果に注目です。 (以上S)

米海軍第5艦隊が無人船からの初の実弾射撃訓練を実施

概要
BREAKING DEFENSE が10月23日発表(記事本文
原題 "With Middle East ‘deterrence’ in mind, US 5th Fleet conducts first unmanned live fire test"

要旨
 
米海軍は中東で初めて無人水上艦から実弾を発射したと発表した。米海軍中央司令部(NAVCENT)は10月23日に実施されたデジタル・タロン演習でこれを実施したと述べた。
 演習においては、無人機の運用を主とした第5艦隊TF59所属の無人プラットフォームが有人艦船とペアを組んで実施された。MARTAC T38 Devil Ray USV(無人水上艦艇)に搭載されたミサイルシステムは、TF59ロボティクス・オペレーション・センターにいる人間のオペレーターが交戦の判断を下しながら、複数の直撃弾を命中させることに成功した。

米海軍が公開した実験映像

 既に第5艦隊は海上での状況認識を目的として無人アセットを訓練・実運用に組み込んでおり、今回の演習では無人アセットからの攻撃と一歩踏み込んだ形となった。キネティックな海上作戦への無人アセットによる貢献を拡大するという第5艦隊の決定の裏には、NAVCENTの無人アセット任務遂行能力への自信の高まり、ハマスによるイスラエル攻撃のような地域の安全保障上の差し迫った必要性があると専門家は指摘する。

コメント
 
以前、米中央軍が熱いとコメントしたが、やっぱり熱い!
 ドローンがいかに軍事組織によって運用されているかの最前線はウクライナだけでなく、中東にもある。記事にもあるように、米海軍の無人アセット運用は、今まで海上ISR任務のようなノンキネティックな任務に限定されていた。しかし今回は水上アセットからのミサイル発射というキネティックな任務が付与されており、この一歩は大きい。
 無人アセットからも攻撃できるようになれば今ある船を大きく改造することなく、艦隊全体の打撃能力の向上させることができる。記事でも指摘されていたように、これからはキネティックな任務に従事する無人アセットが演習で多く見られることになるだろう。(以上NK)

 USVの制御はUAVよりも考慮する点が多いことは、以前の号で取り扱ったところです。しかし今後ノンキネティックな領域にUSV艦隊が出現することにより、艦隊での戦い方も進化していくのではないかと思います。特に日本は島嶼部が多く、場所によっては大型艦船では不利な状況に置かれる可能性も否定できません。また、艦船不足が叫ばれている一方で、乗組員たる自衛官はより厳しい状況に置かれています。厳しい現状に適応し、選択肢を増やしていくことは急務でしょう。(以上S)

ハマスのような非国家主体が、ドローンを使って正規軍並みに活動する方法

概要
Bulletin of the Atomic Scientists が11月1日に発表( 記事本文
原題 "How Hamas innovated with drones to operate like an army"

要旨
 最近のハマスによるイスラエルへの攻撃は複数のドメイン間で連携して行われた。その中でもドローンは、初動においてイスラエルの監視インフラの無力化、戦車や兵士に対する空爆などに使われた。また、「ズアリ」と名付けられた独自の偵察用ドローンの投入も観測された。
 こうした戦争におけるドローンの使用というと昨今のロシアによるウクライナ侵攻が想起されるが、それよりも前にイスラム国といった非国家主体が先例としてある。筆者らはハマスがロシアやウクライナからドローンの使い方を学んだのではなく、ロシアやウクライナが非国家主体から小型ドローンの使い方を学んだのだと指摘する。
 今回においてもハマスは従来の非国家主体と同様に小型ドローンを使用しているが、2つの面で変化が見られる。第一にハマスは大量の小型民生用ドローンを使用して、量で質をカバーしている。粗雑ではあるが大規模な空軍を持ってハマスは、イスラエルと戦争をしている。第二にハマスはドローンと他の戦力と組み合わせて一つの戦闘システムとして運用している。異なる能力を持つ兵器同士を組み合わせることにより、攻撃の威力を増すことができる。ハマスは、ドローンを通常戦力や他のプラットフォームと組み合わせることで、複数のドメインにおいてイスラエルと戦うことができている。
 今回のハマスによるドローンの活用は、テロリストのような非国家主体におけるドローン作戦の威力を示した。これを他の非国家主体が見逃すはずがなく、非正規戦において非国家主体はドローンの活用を進めていくに違いない。米軍のよう非正規戦を繰り広げる正規軍としては、勝利がまた遠のくような、耳の痛い話である。

コメント
 非国家主体でもドローンを使ったマルチドメイン作戦が行えることをいみじくもハマスは証明した。いわんや非国家主体でもできるなら、国家主体にできないはずはないのでないかと思う。またハマスがドローンを物理的破壊だけでなく、宣伝戦においても使用していることが、旧Twitterで流れてくる動画を見ているとわかる。
 非正規戦で国家主体が経済力と技術力をもって無人機から空爆できた時代は、恐らく2016年頃のイスラム国のドローン攻撃開始(まだ注目されていなかったが、彼らは既にドローンで空爆していた)により終焉したところであったが、それが遠い昔のことであると、改めて思い知らされた。非正規戦を戦う国家主体は、陸ではIEDに怯えていたが、今後はドローン空軍に怯えることになるだろう。正規戦だろうが非正規戦だろうか、相手は空軍を持っている時代になったのだ。非正規戦の未来はさらに暗い。(以上NK)

 わが同盟国は世界最大規模の軍事力が無尽蔵にあるかの如く、非正規戦に対するほぼ孤独な戦いを続けています。
 正直、非正規戦は兵力が正面からぶつからない戦いなので、正規戦的なアプローチには無理がある(まるであらゆる対策を講じても私の部屋に蜘蛛が現れる…ような?)と思っています。じゃあどうするの?!といっても結構難しいところではありますが、本当はやられる前に生み出すべきではなくて、結局命を賭してもテロ行為が無意味なものだと認識しなければ何人死のうが彼らの聖戦は続くのだろうなと考える所です。そこにドローンが普及してしまったことで、今後は更に正規軍的な戦い方が通用しなくなると思います。かつての日本のテロリストたちは内ゲバでほとんど消えましたが、非正規戦はこの辺にヒントがあるのではないでしょうか?最新の高価なテクノロジーも使えそうですが。(以上S)

ウクライナ軍が駆使するAIツール「グリセルダ」

概要
ウクライナ副首相兼DX大臣ミハイルフェドロフ氏 公式Xアカウントが10月23日に投稿( 記事本文

要旨
 フェドロフ副首相は、AIツール「グリセルダ」が、軍が質の高いインテリジェンス・データを入手するのに役立っていると述べた。このシステムは、衛星、ドローン、ソーシャルネットワーク、メディア、敵のデータベースなどからの何千ものメッセージを処理するもので、すでにDelta、Kropyva、GisArtaなどと統合されて能力を発揮している。
 このAIツールは 公式サイトを持ち、サービス紹介と兵士からのフィードバック、賛同者からの支援を募っている。 同名の部隊のほか、 BRAVE1 がサポートしている。サイバー領域における防衛戦の様相はBBCの こちら の記事に紹介されている。およそ軍事のイメージからはかけ離れていた「Geek」たちが、兵士を導く光となっているのだ。

コメント
 
画像や文章だけでなく、動画ですら常に「フェイクかも?」という疑念が頭に浮かぶ状況ですが、このツールは膨大な情報を精査し、兵士に必要な情報をデリバリーすることができるという大変優れたものです。
 ただでさえ極限に近い状態での戦いを余儀なくされているなかで、ネットの海を飛び交う有象無象の情報から必要なものをピックアップするという活動は、兵士のリソースを占有してしまいます。また、残念ながら偽情報に惑わされてしまう兵士も少なくないでしょう。なんでも情報情報、という世の中になりましたが、人間の脳みそが外部化され膨張し続ける情報量に追い付かなくなっているのは、言うまでもありません。
 また、恐らくウクライナ軍は自衛隊の教育部隊のような「きちんとした教育」を十分することが出来ずに訓練されていない兵士を投入せざるを得ない環境で活動しているものと考えられます。彼らが生き延び、作戦行動を行うにはこうしたツールが大変効力を発揮すると思います。
 もちろん意思決定をAIに任せるということは現実的ではありません。しかし、少しでも兵士の負担を減らし、兵士の能力を支援し、効果的な戦闘を継続させる上で、こうしたDXがアジャイル的に進められることは大きな推進力になると思います。(以上S)

【論文】「負け犬の真似事」の大戦果―ロシア・ウクライナ戦争における戦術ドローン

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