見出し画像

第12号(2023年11月3日)ロボット犬が戦車を吹き飛ばし、軍艦を修理する実験が始まる(9月期)

皆さんこんにちは。第12号では引き続き9月期の話題と論考についてご紹介します。



双発輸送用ドローンが英海軍空母に着艦

概要
Defence News に9月8日掲載(記事本文
原題 ” Britain tests transport drone’s ability to land, take off from ship”

要旨
 英海軍は9月7日の発表でHCMCと呼ばれる無人機が、英海軍の空母HMSプリンス・オブ・ウェールズに着艦したと述べた。この無人機には最大100kgのペイロードを持ち、最大1000kmの行動範囲を持つ。また機体には自動操縦システムが組み込まれており、遠隔操作なしでも飛行可能である。以前にも空母から無人機が運用されたことはあったが、今回使用された機体は一番大型の無人機であった。
 こうした実験を通じて、英海軍は将来的には空母打撃群に無人機を配備して物品を艦艇間でやり取りすることを目指しているとのことだ。

コメント
 
英海軍は以前お伝えしたように空母でのドローン運用に力を入れているが、今回の実験もそうした動きをさらに強めるものである。
 ヘリコプター型だけでなく、双発固定翼タイプのドローンまで運用できるようになれば無人機でやれることはさらに広がることになる。
 また今回の実験は、プリンス・オブ・ウェールズがGeneral Atomics社の 重武装ドローン”モハビ”を搭載して訓練を行うためにアメリカ東海岸に向かう途中で行われた模様である。モハビを搭載しての実験はどのような結果になるのだろうか、これからも注目していきたい。(以上NK)

対戦車ヘリを超える重武装と不整地での離着陸能力が注目されてい”モハビ”

 英海軍は本格的な無人機の艦載運用を進めているということが明らかになった記事です。特に固定翼無人機でこれだけ大型のものを搭載して運用できるとなれば、作戦の柔軟性は大幅に向上すると思われます。(以上S)

シリアで自爆FPVドローンが初確認

概要
Clash Report が9月28日投稿(記事本文

要旨
 
TBG-7V弾を搭載したFPV自爆ドローンがシリアで初めて確認された。このドローンはアサド政権軍が使用したもので、本機は目標に自爆する前に墜落したもののようだ。

コメント
 
ウクライナだけでなくシリアのような場所においてもFPV自爆ドローンが飛ぶ時代になりました。
 高い応用性を持ちながら数万円程度で調達でき、相手に高いコストを支払わせるFPVドローンは、こうした状況の国家に浸透しやすいのかもしれません。恐らく部品等もどこかからの横流し品なのではないかと推測されます。
 シリアは10年以上にわたりほぼ無政府状態の状況が続いていますが、イスラエルとハマスの大規模衝突が中東情勢に大きく波及しており、ドローンの登場によって何が変化していくか注視していく必要があると思います。
(以上S)

ロボット犬に軍艦のダメコンを担わせる実験ー米海軍はハロの夢を見るか?ー

概要
C4ISRNET に9月23日掲載(記事本文
原題 "Navy researchers test robot dogs for ship maintenance"

要旨
 
米海軍研究所では、ゴーストロボティクスが開発したロボット犬”Vision60”を航海中の軍艦のメンテナンスに活用する実験を行っている。
 艦船では狭いスペースや空洞での定期的な清掃・メンテナンスが求められる上、艦内にははしご等、車輪付きの無人アセットでは乗り越えられない障害もあることから彼らに白羽の矢が立ったようだ。ハッチをあけるためのアームを取り付けることができるなど、Vison60は容易に改造が可能であるものの、任務を全うするにはソフトウェアも含めたロボット全体の再構築が求められている。
 実験チームは将来的には、火災の中でも行動できるように改造し、ダメージコントロールに長けたロボットを開発したいと語っている。

コメント
 
ゴーストロボティクスのVision60は、航空自衛隊やアメリカ空軍では基地警備のために使用されたり試験されたりしているが、船上でのメンテナンスに使用するというアイデアは初めてみたものである。記事でも指摘されているように、船上では4足歩行の利点が活かされるだろう。
 実はVision60の実機を某所で見たことがあるが、船上で使うには少々大きいのではないかと思う。空母で使用する分には問題ないかもしれないが、駆逐艦には向かないだろう。今回の実験を活かして新しい機体を開発するのか、商用ベースの他の機体を改造するのかはともかく小さめのロボット犬が必要となるだろう。
 ロボット犬によるダメージコントロールというと、映画スターウォーズの劇中でR2-D2やガンダムOOのハロが戦闘中に宇宙戦艦の修理に向かうシーンを想起する。SFの世界が現実になろうとしている。戦闘中のダメージコントロールは人間が行うにはリスクが大きすぎるし、記事で指摘されている強襲揚陸艦ボノム・リシャールの例のようにそもそも人間が活動できないことも想定される。さらには少子化の進行等の要因から人的コストは上昇している。そのような中こうした取り組みは一層進められるべきものだろう。
(以上NK)

 世界的に艦船の乗員確保が危ぶまれている中で、既存のロボットを活用する取組は良いイノベーションを生むのではないかと思います。特にそのまま使うのではなく、任務達成のために必要な機能を自分たちで付加して開発していくスタイルはお手本にしていく必要があると思います。
 ただここで必要になってくるのが、自分たちでニーズを満たす具体的な技術を研究し、具現化するマネジメント力と技術力です。特にロボティクスはオープンソースで気軽にカスタマイズに取り組めると謳っていますが、それは翻って言えば、自分たちでニーズを拾い上げ、それを実現するプログラム等を開発し、関連システムにインテグレーションさせる必要があるということになります。今防衛省における研究開発の場は「一言さんお断りの店」のようになっていますが、「オクトーバーフェスト」のように、様々な人々による気軽なコミュニケーションの場のような機能が求められていくのではないでしょうか。
 ただ、vision 60は約1700~2000万円ほどと、類似の他者製ロボットに比べて大変高価です。米軍が本当にvision 60を制式化するのか、それとも安価なロボットに切り替えて実用化させるのかは注視していく必要があるでしょう。もしかするとvision 60を採用するよりも、兵士の取り回しや外注のしかたを工夫した方がコストを削減できるかもしれません(苦笑)(以上S)

中国製ロボット犬によるM72LAW射撃を試験する米海兵隊

概要
Southwood が9月28日に投稿 (記事本文

要旨
 米海兵隊員が様々な無人兵器を試験する様子が 公開 された。
 この中でロボット犬(Robotic Goatと表記)がM72LAWの射撃を行っている。このロボット犬は驚くべきことに中国製 Unitree GO1とみられ、米軍が各国の民生テクノロジーを研究していることが推察される。

コメント
 ロボット犬は様々なメーカーが開発しており、民間への普及度合いは微妙であるものの、動画やメディアで一度は見たことのある方は多いと思います。
 米軍で中国のUnitree製のロボットを見ることになるとは!と大変驚きましたが、やはり実際に使ってみないことには分からないことも多いのだろうと思いました。自衛隊がこうした活動をしよう!としても予算やルールの絡みからなかなか難しいのですが、世界のロボティクスが分進秒歩とも言うべき進歩を遂げている中、相手は日本の法規制や自衛隊の内規なんて知ったことではなく、常に我々の常識の外から攻めてくるものです。そしてこれはどのような分野でも通じる話だと思います。相手のイノベーションをいち早く取り込み、なるべく自分たちの常識の幅を広げ、備えていくことが国家の安全保障に繋がるのではないでしょうか。 (以上S)

米・サウジが過去最大規模の対ドローン演習を開催

概要
BREAKING DEFENSE が9月14日発表(記事本文
原題 "US, Saudi Arabia conduct ‘biggest, most complex’ live fire CENTCOM c-UAS exercise"

要旨
 9月8日から12日にかけてサウジアラビアの演習場において米国とサウジアラビアの対無人航空機システム(C-UAS)演習が行われた。レッドサンズ統合実験センター所長のロバート・マクベイ大佐はこの演習を「最大かつ最も複雑な対UAS実弾射撃演習」と呼んでいる。参加者数、採用される対UASシステムの数と種類、交戦するUASターゲットの数と種類共に過去最大の規模となった。今回の演習では、米中央軍内で部隊レベルでのアジャイルな技術開発を担当するTF39が参加し、CARPE Dronvmという名のアプリケーションや弾薬補給のための自律型UGVが投入された。
 演習ではサウジアラビア空軍のF-15とアメリカ軍のAH-64アパッチ攻撃ヘリコプターが協力して無人機に対処する戦術がとられたとのことである。

コメント
 
今、米中央軍が熱い。中央軍においてはドローン、対ドローンシステムの開発を部隊レベルでアジャイルに進めるための任務部隊が多数組織されている。米陸軍ではTF39,米海軍ではTF59,米空軍ではTF99がこの任務にあたっている。そのため中央軍管内でのドローン関連の動きには今後も目が離せない。
 演習内で使用したCARPE Dronvmというアプリケーションは一体どのようなものなのか非常に気になる。おそらく敵・味方のドローンを識別してその情報を共有するためのアプリケーションなのではないかと推測している。
 また、今回の演習で使用された弾薬補給用UGVは今後は実際の作戦においても使用されることが検討されている。このUGVがどのようなものなのかも気になるポイントである。
 サウジアラビアと米国はこのような形で演習を通じて新たなシステムや戦術を実験している。こうした演習を日本でも開催できることを望む。
(以上NK)

ドローンとウクライナ軍の進化

ここから先は

13,614字 / 5画像
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?