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第22号(2023年3月22日)万国の軍人よ、湾岸戦争という幻想から脱却せよ!(2月期)

皆さんこんにちは。第22号では2月期の最新のドローンにまつわる現代戦の話題と論文をご紹介します。



目には目を、ドローンにはドローンを!~制空ドローンのすゝめ~

概要
Modern war institute に2024年1月5日掲載(記事本文
原題 ”DON’T BRING A PATRIOT TO A DRONE FIGHT—BRING FIGHTER UAVS INSTEAD”

要旨
 ドローンの脅威は、現代戦においてますます巨大になりつつある。このドローンの脅威に対抗すべく、対空砲から対空ミサイル、電子戦システムといった様々なカウンタードローンの取り組みがなされているが、それぞれにデメリットが存在する。カウンタードローンにおける解決策は制空ドローンの導入である。 

開発中の制空ドローンの一例

 制空ドローンの登場は、戦争における航空機の発達の歴史を踏まえると自然な流れと言える。航空機は、導入の最初期においては偵察・監視用途に用いられた。その後、地上攻撃という任務が航空機に付与されるようになり、航空機は地上部隊への脅威となった。その地上部隊への脅威に対して、飛行中に敵の飛行機を撃破するための制空戦闘機が生まれた。ドローンも飛行機と同じように、その用途を偵察・監視から地上攻撃へと広げつつある。ドローンが地上部隊への脅威になりつつある今、制空ドローンの誕生は論理的なステップである。
 制空ドローンを開発する上で、3つの注意すべき点がある。1点目は、制空ドローンは安価かつ実質的に使い捨て可能であることだ。自律型ウイングマンのような制空ドローンの取り組みは既に進んでいるが、こうしたドローンは従来の航空機への対抗手段であり、大型かつ高価である。低コストな脅威には、低コストな防衛能力が必要となる。
 2点目は制空ドローンには、高い自律性が求められることである。最低でも人間の介入なしに、哨戒ルートを飛行し、敵を探知し、通報することが求められる。相手が無人機であることを踏まえると、自律性とターゲティングに関する法的・倫理的問題は大きくならないはずである。

ウクライナ軍が投入した試作対空ドローン

 3点目は制空ドローンを戦場の環境へと統合させて運用することである。まず制空ドローンは、ドローンからの防衛を必要とする地上部隊が保有すべきである。制空ドローンの登場により、空域管理のための新しいルールが必要になるだろう。また制空ドローンを、防空システム全体に組み込む必要がある。防空担当者は、システムがどこに配置され、どのような能力を有しているかを把握し、防御を最大限に同期させるべきである。

コメント
 以前紹介したように既に制空ドローンが現実化しつつある。この論文は制空ドローンの誕生が、ある意味歴史的必然性であると喝破し、その必要条件について述べた興味深いものだ。制空ドローンは安価かつ実質的に使い捨てでなければならないという主張は理解可能であり、そうなると搭載火器による迎撃よりも、体当たりによって撃墜するという手法が主になるのではないかと推測する。ここでも質より量(ある程度の質)は確保するという現代戦における方針がまた現れてくる。 (以上NK)

 「制空ドローン」は原文だとAir Speriority Droneとなっていたので、「敵ドローンを撃破し、航空優勢を確保するためのドローン」となりますね。FPVドローンのようなドローンからシャヘドやビーバーのようなドローン、更にはTB2みたいなドローンまで様々なタイプのドローンが空域を行き交うようになりました。
 それぞれ得意とするシーンが異なるため、脅威をよく分析し、それらに応じたドローンで対抗させるべきでしょう。特に現代戦ではいまだに低高度域が穴になっている一方、相対的に高高度からの攻撃の方が優位性が高いのが一般的であることに変わりはありません。
 多層に広がった空域で漏れなく航空優勢を獲得するとともに友軍相撃や離着陸時等高度帯が大きく変わる際の事故をどう防ぐかといった点は、今後より緻密に考えていく必要があると思います。その際、電子戦等のノンキネティックな戦い方も考慮する必要があるでしょう。
 …自分で書いていて、うわー現代航空作戦の指揮官はやりたくないなあと思ってしまいました。戦場に展開するアセットが増えるということは、それだけ注意すべき情報量も爆増します。この状況では恐らくAIを活用したり、ATOの精緻化(課題となっている統合運用時の網羅性――各軍種間の協力は言うまでもありません)や情報の集約をしないととても人間の脳みそではパンクしてしまうと思います。
 どのようなドローンを作るか、そしてそれをどのように使うか、既存の兵力とどう組み合わせるか、どのように軍全体に適応させていくか、国家の総合力が試される重要な話題だと思います。 (以上S)

ドローンと機械学習の合わせ技によって地雷源は怖くない?米陸軍の新しい地雷処理の取組み

概要
Defense One が2024年1月9日に発表(記事本文)
原題 : ”Mine-spotting drones and tracked robots: The Army’s efforts to breach minefields with tech” 

要旨
 米陸軍が地雷源を突破するために、ドローン等の無人アセットを使用しようとしている。米陸軍第20工兵旅団は2023年12月に、地雷源といった障壁を突破するためのいくつかの手段を実験する機会を設けた。実験の指揮を取ったスコット・レイバーン少佐によれば、これまでで最大の進歩は、地雷を発見するために使用するドローンによってもたらされたという。 
 実験では、SkyRaiderやAnafiが使用された。そうしたドローンにはLiDARといったセンサーが搭載され、地雷が敷設されている可能性があるエリアをマッピングした。レイバーン少佐は、地雷を識別するためには複数のセンサーを組み合わせることが必要だと指摘する。

ウクライナのドローンがサーマルで発見した地雷

 ドローンが得たデータは、海軍研究所製のSORIDsシステムのようなソフトウェアを使って分析する。こうしたソフトウェアは、機械学習によってどのような種類の地雷があるかまで特定可能だという。地雷や鉄条網といった障壁の排除には、S-METやEMAVといったUGVが使われた。例えば実験では、EMAVに地雷除去用のロケット発射装置を搭載することに成功している。今後の課題としてレイバーン少佐は、こうしたUGVに慣れるための操縦時間とシステムに関する経験が必要だと指摘している。

コメント 
 米陸軍未来司令部ジェイムズ・レイニー司令官の「敵との最初の交戦で血を交換しないことが、道義的責任である」という発言が、記事内で紹介されていた。レイニー司令官の発言は、現代戦でドローンが必要な理由や、今回の記事で紹介されていた地雷処理にドローンが使われるべき理由を簡潔に説明している。 

米陸軍未来司令部ジェイムズ・レイニー司令官

 記事内では、部隊は1機のドローンにセンサーをどれくらい載せるかというジレンマに直面したと指摘されていた。そのジレンマとは以下のようなものである。1機のドローンに乗せるセンサーが多ければ多いほど、敵の地雷源の範囲が迅速になる反面、ドローンが大型化し撃墜されやすくなるリスクを抱える。反対にドローン1機につきセンサーを一種類を載せる場合は、ドローンが撃墜されるリスクは減るが、複数のドローンを飛行させ、それらのデータを合成させる必要が出てくるというものだ。このジレンマはまさに集中と分散のジレンマである。現代戦を戦うものは、やはり集中と分散のジレンマから逃れられないのかもしれない。このジレンマに対する答えとしては、センサーを分散させ、ドローンが損失した際のリスクを最小限にするのがいいのではないかと考える。 
 加えて機械学習で敷設された地雷の種類を特定できるというが、どのように機械学習を活用しているのだろうか。地雷敷設には、空中投下する場合や、地面に埋められている場合も存在する。空中投下された地雷は、地表に露出しているため、画像認識が有効かもしれない。しかし地中に埋められた地雷はどうやって発見するのだろうか、そしてそのプロセスの中でどのように機械学習が使われるのだろうか。その点が気になる。(以上NK)

 NK氏の疑問に関しては、恐らく各種センサー情報のパターンと実際に埋まっていた地雷の種類の組み合わせを学習させていくんじゃないのかなと推定しています。日本も陸自では地雷処理車も運用していますが、しらべてみたところ非常に大型(装甲戦闘車両と大差ない)で、これは確かにウクライナのような現に戦争が行われている地域では運用が大変だと感じました。
 特にドローンが飛び交うようになった現代では、大型で騒音が激しく、熱源を有するというのは的にしてくれと言っているようなものです。この他に他国の支援のために地雷除去ロボットを複数開発していますが、こちらも複数の装置を必要とする仕様だったりして、戦後の運用を想定されていると思いました。
 ウクライナでも地雷除去ロボットやドローン が開発されていますが、以上を踏まえると、運用環境に適した、壊れた際のコストを気にしなくてよい、効率的な器材を投入する必要がありそうです。(以上S)

韓国の統合ドローン部隊が示す無人アセット前提の編成改編の可能性

概要
The Defense News が2024年1月23日に発表( 記事本文
原題 "South Korean official touts fledgling drone command as global model"

要旨
 韓国は、このほどドローンに関する様々な機能を統合司令部の元に集約した。北朝鮮が2022年12月26日にソウルの大統領府近くの飛行禁止区域に敵システム1機を侵入させたことを受けて、尹錫烈大統領はドローン関連の能力と即応態勢を急速に強化することを指示した。その一環としてドローンを使用した防勢及び攻勢作戦を行う統合司令部が設立された。
 この部隊は陸海空軍と海兵隊で構成され、南北境界線に近い抱川(ポチョン)を拠点とし、国防省と合同参謀本部議長の管理下にある。統合ドローン部隊は、偵察だけでなく電子戦、心理戦といった作戦も行うという。
 イ・ボヒョン空軍大将は、国内各軍の教育カリキュラムを標準化し、部隊の展開に関する安全基準を設定する任務も担っていると述べ、こうした韓国の取り組みを参考にすることを勧めた。

コメント
 どの大きさのドローンを対象にしているのか詳しいことが記載されておらず、何を目指したどんな軍なのかが気になるところですが、統合部隊がドローン運用を実施するということは恐らく様々な規模のドローンを取り扱う(そのうちUSVやUGVも?)ものと推測されます。
 新しいアセットの運用に際して、集約化された単一司令部が作戦指導を行うことは、陸海空海兵隊の各軍種で統一された運用思想の元ドクトリンや新たな戦術の開発が捗る等の伸展性が期待できます。
 ただドローンが主役になっても完全に有人アセットがなくなるわけではなく、むしろロイヤル・ウィングマンのように如何に人間と連携して目的を達成させるかが肝となるでしょう。そういったことから、プロフェッショナルである各軍種から切り離すとデメリットもあるのではないかと考えました。今後の「ドローン部隊」の活躍に注目です。(以上S)

 韓国のドローンに対する取り組みは、2022年の北朝鮮によるドローン侵入から加速化していったがその速度には目を見張るものがあると言えよう。その中でも、今回取り上げた軍種間統合ドローン部隊の設立は世界初の取り組みである。なおウクライナにおいてもこの度統合ドローン部隊が結成されることになったとのニュースがあるが、詳細は続報待ちである。
 このドローンの統合運用に関しては現在2つの潮流が存在する。まずは単一軍種内での統合である。一つの軍種の中で統合ドローン部隊を作るやり方で、例としては米海軍第5艦隊TF59がある。このTF59は第5艦隊内に編成された無人アセットの運用に特化した部隊であり、UAV, USV,UUVを集中運用している。もう一つが軍種間統合であり、今回の韓国軍が例となる。
 現在はどちらの方式も存在するが、各国でドローンの運用がさらに進んでいけば統合のあり方もどちらかに収斂していくのかもしれない。(以上NK)

万国の軍人よ、湾岸戦争という幻想から脱却せよ!

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