Black Treasure Box4

「フィラデルフィア」から最寄りのS駅へ向かい、そのホームで2度目の奇行を演じた。
鉄道警備員に事務所に連行されてもおかしくなかったはずだが、誰も彼も私を遠巻きにしながら呆れ、嘲笑するばかりで、私の行動そのものを妨げようとする動きは何もなかった。
それもこのふざけたアプリの仕業なのかどうか。
ともかく、私はやってきた電車に乗り込み、次の目的地であるT駅へ向かうことができた。

T駅の駅ビルでは、イベントスペースで変身ヒーローものアトラクションが予定されているようで、多くの親子連れが集まりつつあった。
好都合。
そう言っていいものなのか分からないが、少なくともその時の私は好都合ととらえた。

開幕を待つ無人のステージには、司会進行用のものだろうマイクが設置されていた。
スタッフとなにやら打ち合わせをしていた制服の警備員が、ステージに駆け寄る私に気付いて、制止するようなことを何か言ったようだった。
それでもやはり、私の行動を止めようとはしない。
驚くほどあっさりと私はステージにあがることが出来た。

始まるの、と多くの子供たちのキラキラした目が私に向いた。
あわてて客席に集まってくる親子連れもいた。
そんな人たちに心の中で詫びながら。
いや、そんな風に思いもしなかったろうか。

私はマイクの電源を入れ、またあの言葉を叫ぶため大きく息を吸い込んだ。

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