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ペヤンヌマキ氏脚本・演出、ブス会第8回『The VOICE』@西荻がざびぃを観て...

1)はじめに

ペヤンヌマキさん率いる『ブス会』のお芝居、ブス会第8回『The VOICE』@西荻がざびぃを観劇。

ペヤンヌマキさん演出のお芝居は、ペヤンヌさんが溝口真希子さん時代からのポツドールの番外公演『女のみち』(女シリーズ)あたりからずっと観ていて大好きな作家さんであり舞台であったのだけど、その後、仕事やら色々なことに忙殺され芸事からしばし離れざるを得ない事情もあったりで、ずいぶんご無沙汰になっていました。ま、人生色々あるわな…

しかし今回、偶然流れてきたSNSで、ペヤンヌさんの新しい試みとしての舞台が開かれていることを知り、また、その舞台のテーマが自分と同じ区域かつ、同じ区民目線での問題提起(杉並区内の都市計画問題)であったこともあり、これは観ねば!案件となりました。


2)本舞台の美術・音楽・登場人物

今回の舞台の会場先である@西荻がざびぃ。
西荻窪駅北口を出て北側にまっすぐ伸びる商店街一直線に歩き、善福寺川を越えて少し行った先にあります。
初めて訪れた場所でしたが、入り口で靴を脱いであがる会場は、ペヤンヌマキさんをはじめとするスタッフの方々が暖かく出迎えて下さり、客席との距離感が心地よく否応無く期待が高まります。

さて、いよいよ開演っ!
先ずはペヤンヌさんの観客への舞台挨拶が始まり、やがてそれが舞台上の”モノローグ”へと変換され自然に物語へとつながっていく…その様子はとても軽妙で否が応でも冒頭から吸い込まれていきます。

本公演の音楽はすべてライブ演奏!
ピアノからヴィオラまですべて単独で手がけられる向島ゆり子さんの演奏が鮮やかでこれまた舞台に華を添えていきます。

舞台のしつらえはとてもシンプル。
観客と舞台が地続きの平土間に一本のしめ縄が相撲の土俵周りをぐるりと取り囲むよう半円に弧を描きます。そして、そのしめ縄の中央部分に置かれた建物の構造上の梁(ケースによっては厄介な構造)を、今回の舞台のシンボルでもある”樹木”として見立てている以外、目立った装飾はありません。
(ポスターやフライヤーにはこの”樹木”がイラストで描かれています。)

また、舞台の壁、床、天井はすべてウッディーなブラウン系なので、それぞれの役者さんのテーマカラー?、まるで特撮部隊を彷彿させるかのようなカラフルな衣装が舞台に映えます。以下がそのカラー割り当てと役者さん達の役柄です。(記憶違いがあるかもしれません。ご了承下さい)
おひとりで何役も演じている役者さんもいらっしゃいます。

★グリーン(高野ゆら子さん)
・役柄1)寡婦女性(女学校卒・齢75歳)
  ・杉並区内の都市計画問題で立退を強いられる当事者で反対派
・役柄2)政治に目を向けることに目覚めたアイドルグループ推しの女性
  ・杉並区内の都市計画問題で立退を強いられる当事者で反対派
  ・都市計画の詳細が知らされないまま、計画が進んでいることに憤りを
   感じている

★ピンク(罍陽子さん)
・役柄1)アイドルグループ推しの3人組のひとり
 ・猫飼い、仕事は接客業(業種不明)
 ・都市計画反対活動にのめり込む友人2人に違和感と疎外感を感じている
・役柄2)行政からの委託業者(測量者)のひとり

★アッシュ(異儀田夏さん)
・役柄1)お蕎麦屋さんを営む夫婦の妻
 ・杉並区内の都市計画問題で立退を強いられる当事者で反対派
 ・都市計画の詳細が知らされないまま、計画が進んでいることに憤りを感
  じている。
・役柄2)アイドルグループ推しの3人組のひとり
 ・ファンクラブに加入している

★純白(斜めにブラウンのストライプが1本)(天羽尚吾)
・役柄1)地方から西荻窪へ上京してきた大学で『街づくり』を学ぶ学生
 ・スケートの羽生結弦氏のような透明感と中性的な雰囲気を併せ持つ
・役柄2)アイドルグループのひとり
・役柄3)行政からの委託業者(測量者)のひとり

★ブルー(古澤裕介さん)
・役柄1)戦争体験者で夫の突然死を目撃した卒寿の女性
・役柄2)アイドルグループのひとり
・役柄3)猫(ミーちゃん)
・役柄4)理髪業の高齢男性(杉並区内の都市計画問題の当事者のひとり)

★レッド(金子清文さん)
・役柄1)蕎麦屋を営む夫婦の夫
 ・元公務員(ソーシャルワーカー)、早期リタイヤし蕎麦屋に転職
・杉並区内の都市計画問題の当事者であり反対派
・役柄2)アイドルグループのひとり


以上、6名の役者さん達がそれぞれ、ジェンダーも世代も人間をも超越した演技を披露していきます。ほとんどの役者さんが複数の役柄を演じるこの舞台ではその演じ分けの違いを堪能できます。また、ペヤンヌさんは猫飼いとのことなので、飼い主と猫(猫のみーちゃんに扮した古澤裕介さんと、飼い主の罍陽子さんの掛け合い)のシーンはもの凄くあるある感で共感至極でした。


3)本舞台への期待と不安

今回のお芝居のテーマである「杉並区内の都市計画問題」は、杉並区以外の他の自治体、例えば、世田谷区の下北沢や、港区の外苑前駅周辺の土地開発同様に現在進行中の案件であり、シリアスかつ、デリケートな部分を多分にはらんでいます。ゆえに、ともすると、クリエーションの向かう先が、個人の信条や政党、思想云々といった領域の匙加加減次第で、カラーや方向性が限定されてしまう可能性もありそうで、鑑賞前から、その辺りをどうまとめるんだろうか…、と少し気になっていました。

というのも、ペヤンヌマキさんが、今夏(2022年)に行われた杉並区・区長選の立候補者:岸本聡子氏(現杉並区長)に密着撮影し選挙戦に至るまでの日々を映像化されていたこともあり(映像ドキュメンタリー作品:『○月○日、区長になる女。』)、会場には見事初当選を果たした岸本聡子区長も観客として駆けつけており、また、そのサポーターと思しき方々の参加も多くみられ、今回の会場内の雰囲気は以前の『ブス会』やポツドール時代の観客層とはかなり異なる雰囲気だったからです。

もしかしたら、たまたまその日、その時間帯だけがそうだったのかもしれませんが、落ち着いた年齢層(シルバーエイジ世代)も多く、シックなコンサバ系のファッションに身を包んだ方々が多かった印象を受けました。

実際に、開場前に入り口前で入場待ちをしていると、「岸本区長の密着ドキュメンタリーを撮っていらした方のお芝居だから、ワタシ、絶対見たいなって思って…、だから今回、人生で初めてコンビニでチケット買って観に来たんです〜」と話しかけてくださる方や、「区長さんが舞台にいらしてくれたから、会場の雰囲気がよくなりましたね〜」といった感想を公演後に添えてくれるような区長サポーター的な方々もお見かけました。

もちろん、そういった動機もありだし感じ方は人それぞれ。ですが、自分には、推しの議員や政治家が来てくれたからといって(実際に今回の芝居の台詞のなかにも、"推し"の議員や政治家といった趣旨のものがあったので引用させて頂く…)、お芝居の雰囲気がよくなったかどうかの判断のしようもなく、また、そういう感覚や捉え方って、ある種の権威性に付随する感覚ではないだろうか…といった戸惑いもあり、どんだけ区長のこと好きやねん!凄いわ〜とちょっとフツーに驚いてしまいました。それだけ、現在の区長の人気が高く周囲に支持されているといった表れなのかもしれません。実際、2階にある会場へ駆け込んでいらっしゃった岸本区長が観客席の端っこ(全席自由席)の最後尾にそっとお座りになるご様子からも、ステキな方なんだろうなっということが伺えます。ステレオタイプな議員や政治家の捉え方になるかもしれませんが、ギラギラとゴルフ焼けしたニヤケリズムでお付き武官を従えドカっと上席に座り込む輩とは明らかに一線を画します。

ですが、自分は、三権分立の法則ではありませんが、政治や行政の場(組織も人も含めて)を自分達の目で確かめ、見張り続ける目を養うことも市民の責務じゃないかと考えてしまうタチなので、”推しの議員や政治家”といった感覚には正直ピンと来ませんでした。もちろん、自分達の声を届ける議員や政治家に一票をという考え方には理解できますが、信頼と信用における意味が異なるように、市民の代表者として肩書きや役職を預ける人物に対して、市民は盲目的にならず、ある種の冷静さを持って接する必要があるのではないでしょうか。たとえば、『恋は盲目』っていう言葉じゃないですが、”推し”への愛が強くなると、”推し”の欠点や矛盾点にはそっと目をつむってしまう傾向ってありますからね…

そんな思いも重なり、お芝居が始まる前から、(もしかしたら、私が芝居から離れていた間、そして、withコロナの数年間を挟んで、これまで自分が惹かれていたペヤンヌさんの『女シリーズ』にあったような、ヒリヒリした女性の、いや、人間の業のようなヒリヒリした芯部をゴリゴリとあぶり出し、笑いと涙に変えていくあの感触とは少し塩梅が違ってきているのかもしれない…)と、ちょっぴり不安にもなっていました。

その一方で、そもそも過去作は今回の舞台のテーマ性とは全く異なるわけで比較なんざナンセンスであり、かく言う自分も同じ区民として、三代前からずっと西荻窪に縁がある当事者として、以前からこの周辺の都市計画問題には少なからず感じるものがあり、ペヤンヌマキさんがこの問題を一体どの様な切り口で味付けしていくかに興味がありました。なので、開演前から、これまでの観客層とは様相の異なるとってもポリティカルな会場の雰囲気に少しあたふたしつつ、舞台のスタートを楽しみにしていたのでした。

それゆえに、もし今回のお芝居の着地点が、御用学者ならぬ、御用メディアのような面持ちで、”推し”の目指す思想や世界観へと一直線に(反対、または賛成の一方向を目指して)発信されていくものなのであれば、きっと自分は深いため息と重い足取りとともに家路に向かわなければならなかったのかもしれません。理由は、みんながおんなじ方向見ている世界観って、それはそれで怖くもあり、それらのリスクや落とし穴について、私たちは嫌というほど幾度となく、歴史という教科書のなかで見てきたはずではないでしょうか。

ですが、自分の不安は杞憂に終わったようでした。
本作のエンディングへと向かうプロセスは、区政が行う「都市計画問題」に対する反対や賛成といったそれぞれの市民の意見(The VOICE)がとても誠実に回収されており、市民が見ている方向(未来)は(今回の舞台のシンボルである)樹齢75年の樹木の幹の向く方角と同じくみな別々で、一様には向かない…といったリアリティーの余白が感じられる演出だったからです。
総勢6名の役者さんがそれぞれ交差することなく自分の顔の前だけを見て、各々の声(VOICE)を発信していく様子は指揮者不在のオーケストラが奏でる不協和音のなかに時おり重なる声の音色がミラクルに響きあい共鳴していくようで正に圧巻でした。

そしてラストは、高野ゆら子さん扮する齢75歳の女性を中心とする市民が、樹齢75歳の樹木の前に集い、さえずる鳥の名前を言い合ったり、他愛のないスモールトークを始める姿で終わります。それはまるで、金子みすゞ氏の ”鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい” の詩のセリフを彷彿させるようで、この舞台のタイトル『The VOICE』の真意が深くからだの深部に響いた瞬間でした。


4)都市計画問題解決へのリアリティ

ですが、やはり1点だけ気になる点が残ります。というのは、一般的に、都市計画の話には総じてお金の話がつきものだからです。いわゆる、立退料的なことです。今回の脚本では、そういった現実的なトピックに関しては全く話題にされていません。あくまで”市民の声”が中心の作品なので、ロジスティックな箇所まで話題を広げるとクリエーションの焦点がぼやけてしまうリスクが生じるからかもしれません。ですが、賛成と反対といったような二項対立の対話が避けられない議論や、そういうテーマであればあるほど、ノンフィクショナルなトピックの提示は議論を深める対話のソースとして十分に機能するのではないでしょうか。

実は先日、港区の外苑前駅周辺の都市計画により、住み慣れた外苑前徒歩3分のヴィンテージマンションから他所へ引っ越した友人がいます。友人は、何十年も住んだ部屋を引き払うことには一抹の寂しさと多大な労力があると話していました。ですが、それなりの立退料が支払われたこともあり、その友人からは反対の声を聞くことは全くありませんでした。実際、こういった事案を目の前にした際、自分の年齢や状況、そして体力によって、妥協できる代替案として金銭云々の捉え方は人それぞれかと思いますが、立退料の査定は当事者にとってそこそこ優遇された裁量で算出されるように思えます。

突然の「都市計画問題」によって、自分の部屋や家、そして環境が失われたり故郷から退去しなければならないといった事案に直面することは心中穏やかなことではありません。ましてや、今回のお芝居に登場する市民の声に挙げられるように、”当事者を置き去り”にした状態で勝手に物事が決められ進められることは大変遺憾であり、大きく声をあげ是正すべき問題だと実感します。それゆえに、今現在、自分達を取り巻く状況がこんな社会だからこそ、そういうときに守ってくれたり自分の意見を代弁してくれる議員や政治家を”推し”として、繋がりたいといった気持ちを抱くのも自然なことかもしれません。


4)おわりに

大人の事情がこの世には山のようにあることを知ってしまった自分には、対話すべき双方が持っているカードを等しくテーブルに上げなければ進められない議論と見つけられない答えが存在すると考えています。

今回、舞台に登場するお蕎麦屋さんを営む女性は、「私は高齢だし、この先、店を失ったらどうやって食べていったらいいかわからない…」といった主旨の不安を述べます。確かにその台詞を額面通り受け取ると、身勝手な都市計画に市民が一方的に翻弄されているかのように見受けられるのも事実です。ですが、実際には、そんなことには陥らないような立退料が算出され当事者に支払いわれていくといったケースも存在するわけで、こういったリアリティー抜きの議論だけでは物事を正確に把握し議論することは限界があるのかなあとも思うのです。特にポリティカルなテーマに切り込む場合には、ソースやデータについて、いち個人でもネットを駆使してリサーチが可能な社会においては…

だからこそ、先ずは、双方の声『The VOICE』を聴くということ。
私の受け取り違いかも知れませんが、今回のペヤンヌマキさんの作品からは、そういったメッセージを受け取り解釈し本テキストを終えたいと思います。
次回、第9回ブス会では、何者にも左右されないペヤンヌマキさん自らの声が再び届けられることを楽しみにしています。

あと、これは本テキストとはあまり関係ないことかも知れませんが、
自分は、同じ女性の映画監督であれば、レニ・リーフェンシュタール監督よりも、アリス・ギイ監督の方が好みかなと…
総じて、自分ごととして考えさせられる良作品に出会えました。
ペヤンヌマキさん、ブス会の皆さま、ありがとうございました。


▶︎第8回ブス会『The VOICE』2022/11/24-27 @西荻窪ざびぃ
 ・脚本・演出:ペヤンヌマキ
 ・画像引用:https://busukai.com/stage08/


▶︎参考資料

『○月○日、区長になる女。』


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