マイナス金利解除と経済成長

 欧米ではインフレによる景気の過熱を抑制するために金利を上昇させる政策が行われている。
 翻って我が国日本では先日やっと日銀がマイナス金利を解除するとの声明をだしたものの金融緩和は続けるという。

金利を上げるのかい?上げないのかい?どっちなんだい?

植田総裁の発言を受けて、株高、円安に反応しているので、市場は、日銀が金利を上げないと判断したようだ。

賃上げと物価の好循環の見通しがついたと日銀総裁はいうが、雇用者の7割が存在するといわれる中小企業では賃上げは難しいようだから、金利を上げたら景気は失速するだろうことは経済の専門家でなくてもわかる。

みずほ証券の丹治倫敦チーフ債券ストラテジストも、中小企業が日銀の想定する水準の賃上げを実現するのは簡単ではないと指摘する。
日銀の短観や厚生労働省の新規求人数のデータを分析した結果、大企業より中小企業の方が人手不足感があるにもかかわらず、求人数は伸び悩んでいるという。
「政治や大企業主導の『官製賃上げ』に中小企業がついていけず、そもそも求人を諦めている可能性がある。現状の賃上げのペースですら、経済の実態からするとやや過剰とも言える」と話す。

NHK 日銀 マイナス金利の解除を決断 好循環の実現は【経済コラム】2024年3月23日23時08分

 
 日経新聞はマイナス金利の解除を盛んに持ち上げ、「企業部門では収益性の高い企業や事業に好機が訪れ、経済の新陳代謝につながるとの期待もある。」とか「金利復活が企業の収益拡大の重荷になり、人手不足を背景とした積極的な賃上げの流れに変化が出てくる可能性がある。賃金上昇ペースの企業間格差が広がれば転職を誘発し、雇用の流動化を進める好機にもなる」ともてはやしている。

 また、経済の専門家の中には、低金利が長期化すると経済成長率が低下し、金利を上げたらむしろ景気は浮揚すると考えている人もいるようだ。

金利が下がった瞬間は設備投資は大きく二倍近くに急増する。中途略 低金利状態が続くと時間とともに設備投資は減衰し、緩やかな成長経路に収束する。

担保を持たず、新しい技術やアイデアだけを持っている新興企業は、・・・金利が下がると資金繰りが苦しくなるのである。

金利が低下すると技術的優位性が覆ったときに損害が大きい一番手の企業は、技術開発費を大きく増やすがそれを見た二番手三番手の企業は激しい競争になることを恐れて投資を控えるようになる。この結果、一番手の企業は独占度を高め、二番手以降の企業はシェアを減らしてしてしまう。その結果経済全体では市場の集中度が高まって独占の弊害により全体的な生産性の成長率も低下する。そのため経済成長率も低下するのである。

日本の経済政策 小林慶一郎著 中公新書


 原因と結果を取り違えてるようにしか思えない。
 金利を下げている経済状況とは景気が低迷している世の中だろう。好景気であるはずがない。そんな世の中でモノが売れてるはずがない。モノが売れていないのは、消費者の可処分所得が低いからである。少ない所得の中で消費者が失敗しないように購買しようとすると、ブランド力のある一番手企業に集中するか、もっとも価格の安いノーブランド企業商品である。二番手以下の企業は熾烈な価格競争に巻き込まれ、モノの値段は確実に下がっていく。企業の収益は下がり、労働者の賃金を下げ、さらに消費者の可処分所得が下がり・・・。これがデフレスパイラスの構造だろう。
 デフレが続いているすなわち物価が上がっていないから金利を上げられないだけで、金利の低下が経済成長を阻害しているわけではない。

 経済成長ができなかった原因はほかにある。

 経済が成長できなかったのは、デフレスパイラルに陥っているときに、消費者の可処分所得を増やす政策を実施せずにむしろ可処分所得を減らす政策を実行したからに他ならない。すなわち1989年導入以来断続的に増税を繰り返してきた消費税と社会保険料率の引き上げに伴う、国民所得の公的負担割合の上昇が経済成長を抑制している大きな原因を占める。
 加えて、財政不安をことさら喧伝して、社会保障制度の持続化の可能性に疑問を持った国民が将来不安に備えて貯蓄に走っているからである。

 日本は世界に類のない健康保険制度を整備し、世界一の長寿国になった。それが高齢社会を実現した。本来ならば喜ばしいはずなのに、国民は老後に不安を抱え貯蓄に走り、これまた世界一の貯蓄高となっている。これが消費を低迷させる原因となっている。
 政府が本来しなければならない政策は国民に対して安心安全な暮らしを保障することであるのに、むしろ不安をあおり不安に駆られた国民がさらなる景気低迷を呼び込んでいるのだ。
 これがいつまでたっても景気低迷から抜け出すことができず、ほかの先進国がGDPを伸ばす中で日本だけがずっと同額のGDPで推移したからくりだ。

 

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