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音楽書紹介「青のオーケストラ」(阿久井真著 小学館)

※インターネットラジオOTTAVAで11/3(金)にご紹介した本の覚書です。

取材の必要もあって、久しぶりに漫画を手に取り、現在刊行されている11巻をまとめて読んだ。サブスクで安く読むこともできるのだけれど、作品としての絵をしっかり紙のかたちで読みたかったので、書店で購入した。

「青のオーケストラ」は、千葉県のマンモス高校でのオーケストラ部を舞台にした学園漫画。ドヴォルザークの「新世界」交響曲や、サン=サーンスのオペラ「サムソンとデリラ」からバッカナール、芥川也寸志の「交響管弦楽のための音楽」などが題材に取り上げられ、音楽の内容や演奏解釈についても、かなり突っ込んだ内容が描かれている。

この作品で特徴的なのは、青野ハジメや佐伯直、秋音律子や小桜ハルといった主人公たちが、不登校やいじめや家庭の問題をそれぞれに抱え込んでいるという点である。その深刻さには「いまの実際の子どもたちもきっとそうなんだろうな」と気付かせてくれるようなリアリティがある。
その内面の描き方こそが素晴らしいし、音楽が彼らにとって深い体験たりうるのは、そうした人生との関わりにおいてである。

学園漫画である以上は、恋の話も出てくるが、その描写は繊細だ。第8巻で、小桜ハルが青野ハジメにヴァイオリンの毛替えをするために一緒に楽器店に行こうと誘い、みんなと一緒ではなく「2人で行かない?」と言うくだり。内気な女の子がやっとの思いで好きな男の子に対して一歩行動に出た震えるような胸の動悸と初々しさは、誰もが共感できるところだろう。

音楽とは結果だけではない。完成された演奏だけを示すのでもない。そこに至る過程の苦しさや美しさもまた音楽である。そういった意味で、この漫画は音楽的な瞬間にあふれている。
こうした漫画を読むと、クラシック音楽とは決して過去の古い芸術にはとどまらない、常に次の若い世代にとって深い体験たりうる、永遠に新しいものだと確信させてくれる。

https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091277442



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