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音楽書紹介「パリの音楽サロン」(青柳いづみこ著 岩波新書)

※インターネットラジオOTTAVAで10/13(金)にご紹介した本の覚書です。

現代のようにコンクールが若手アーティストの登竜門としての役割を担うようになる前は、サロンこそがスターが生まれてくる場であった。

パリがヨーロッパ文化の首都だった頃、サロンは、音楽だけに限ってみても、ショパンからフォーレやドビュッシーやラヴェルやサティ、フランス6人組にいたるまで、若い芸術家たちが認められ成長していくための魅力的な空間となっていた。
そのしきたりや雰囲気はもちろんのこと、たとえばマラルメやヴェルレーヌやランボーやツルゲーネフやコクトーやプルーストといった文学者たちが音楽家たちとどうかかわっていたのか。その中心にいたサロンの女主人たちをとりまくさまざまな人間関係が本書では豊富に紹介されている。
美術や舞踊なども含めて、あまりにも多すぎ、複雑に絡み合う登場人物たちに目眩がしてくるが、それがサロンの実相でもあるのだろう。ところどころに挿入されている青柳さんの実感あるコメントにむしろホッとさせられたりする。親切なことに巻末には人名索引がついているので、気になる人物からあたってみるのもいい。
たとえば19世紀の傑出したオペラ歌手だったポーリーヌ・ヴィヤルド(1821-1910)は、ショパンとサンドに近い音楽史上の重要人物であり、ツルゲーネフとも親密な関係にあった。そのポーリーヌが「友情」こそがカップルが長続きする秘訣、と述べているくだりは興味深い。
芸術が介在しながらも恋愛や献身や嫉妬などが入り乱れる人間関係のさまざまなエピソードは面白い。そこから伝わってくるのは、サロンを形成する人々にはそれぞれの揺るぎない美意識があり、それが人生でもっとも大切な誇りとエネルギーの源になっているということだ。
https://www.iwanami.co.jp/book/b628055.html






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