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音楽書紹介「古楽夜話」(那須田務著 音楽之友社)

※インターネットラジオOTTAVAで10/20(金)にご紹介した本の覚書です。

バッハ以前の古楽を楽しむことは、聴き手の耳を飛躍的にひらいてくれる。中世・ルネサンス・バロックの音楽は途方もなく美しい音楽の宝庫であり、美術と同じように音楽に目を向ければ、幅広い視野を得ることが可能となる。
「レコード芸術」誌の連載をまとめた本書は、そのための良きガイドである。ヒルデガルト・フォン・ビンゲンからモーツァルトに至るまで、60夜にもわたる小さなエッセイには、古楽の膨大な作曲家たちにまつわるエピソードや情報が、史実に基づいた短編小説風の場面を導入としながら語られている。この趣向はとてもいい。たとえばモンテヴェルディがマントヴァ公とルーベンスについて会話している場面。肉声としてのせりふがあることで、一気に身近に感じられてくる。
こういう趣向じたいが古楽的ともいえる。そうであっただろうという確かな証拠に基づきながら、想像力を駆使して生々しい体験へと誘う行為だから。妄想が暴走しない程度に、短く収められているのもいい。
「レコ芸」の連載らしく作曲家の短いプロフィールと推薦盤も付されている。こうした初心者に優しい良心的な読み物があることは、よき音楽雑誌の条件でもあった。
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?id=210110

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