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2024年ナントでのラ・フォル・ジュルネは古楽と民族音楽がメイン。テーマは「Origine(始まり)」。

2023年のラ・フォル・ジュルネTOKYOが盛況のうちに幕を閉じた(5月4~6日/東京国際フォーラムおよび丸の内エリア)。4年ぶりの開催、テーマは原点回帰の「ベートーヴェン」、しかも好天に恵まれたとあって、客足は初日から好調だった。
公演数や展示スペースなど、例年と比べるとかなり規模を縮小した形での開催だったのは、計画段階ではコロナ禍のリスクが完全に去っていなかったことの名残りだが、ともかくクラシック音楽界最大規模のお祭りが無事に戻ってきた。

この「クラシック音楽界最大規模の」という形容は、実は最近あちこちの音楽祭で使われている。どれもそれなりの立派な理由があるのだが、ではラ・フォル・ジュルネ(以下LFJ)の何が一体特別なのか?

今回久しぶりにLFJで3日間を過ごして、それを改めて再確認できた気がする。3日間という短期間に朝から晩まで限られた空間の中で、同時多発的にたくさんの短いコンサートをおこなうのがLFJの特徴だが、そこで起こる現象は、訪れた人がコンサートの前後にこのエリアを回遊するということである。クラシック音楽を目的に休日を過ごそうと決めたたくさんの人々が、ついでにCDや本を買ったり、家族や友人たちと食事をしたりしながら醸し出す、独特の平和で静かな秩序ある雰囲気。その空気がいいのだ。

今年も、クラシック音楽専門インターネットラジオのOTTAVAプレゼンターとして、特設スタジオで演奏家や音楽関係者をゲストに迎えながら、音楽についての楽しい話をする公開番組に参加させていただいた。ジャン=クロード・ペヌティエ、福間洸太朗、アンヌ・ケフェレックと私の担当時間に来てくれたゲストは皆ピアニストだったが、彼らとベートーヴェンのピアノ音楽について話すのはとても楽しかった。
その合間に随分知らない人からも知っている人からも話しかけられた。いろんな再会があった。そんな一日を過ごしたのは随分久しぶりのことだった。

最終日には私の担当枠はなかったが、控え室でLFJアーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンと話すことができた。ルネはOTTAVAのジングルやBGMに使われているヴォーカル・アンサンブル・カペラのジョスカン・デ・プレの合唱曲を耳にすると、「来年はこういう合唱音楽をたくさんやりたいんだ」と言った。
番組でもルネは来年のLFJの本場ナントでの音楽祭テーマは「Origine」(オリジヌ=起源、始まり)だと語った。楽屋でルネと話したことも総合すると、次回はJ.S.バッハはもちろんバロックやルネサンス・中世などの古楽全般からアルヴォ・ペルトらの合唱曲、そして北欧・東欧・ロシアなどの民族音楽(チャイコフスキーやシベリウスらのルーツ)にもフォーカスしたいとのことである。

ルネ・マルタンの音楽目利きとしての最大の得意分野はピアノと古楽、そしてワールドミュージック系である。その一番面白いものを再び準備しようとしているのであれば、ぜひともナントと同じテーマで東京でもやってもらいたいものである。
スタンダードなクラシックの名曲をやることももちろん必要不可欠だ。今回私が最も心を動かされたコンサートのひとつが、ホールAでの三ツ橋敬子指揮東京交響楽団による「田園」交響曲だった。日頃クラシック音楽の公演ではあまり見かけないようなお客さんが5000人も会場を埋め尽くし、一心に耳を傾け、中には涙を流しながら聴いている人すら見かけた。この事実はとてつもなく重い。それができるのはLFJだけだ。
しかし同時に、LFJが本当の威力を発揮するのは、既知の音楽だけではなく未知の音楽への「冒険」へと多くの人と連れ出してくれる点にある。

繰り返しになるが、来年はぜひとも東京でも、ナントと共通のテーマの「Origine」(何か適切な日本語の訳語や広がりのある副題が必要かもしれない)で、質量ともにさらにバラエティ豊かな音楽の風景を展開していただければと思う。とにかく次は、古楽と民族音楽を多めで!

OTTAVAの楽屋でルネと話した際に、2016年夏に南仏プロヴァンスのラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭へと招いてくれたことについて改めてお礼を言った。するとルネは「あの本は今でも売れていますか」と言った。幸い会場の書店では、そのときの取材を元に書いた「ルネ・マルタン プロデュースの極意」(アルテスパブリッシング)が、大きく目立つようにディスプレイされていた(下の写真)。いつも会場の隅々まで見て回るルネは、それに気が付いていたようである。

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