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黒澤明「隠し砦の三悪人」

三船敏郎主演の昭和33年(1958年)公開の日本映画(東宝・139分)です。

ジョージ・ルーカス監督が『STAR WARS』を制作するにあたって、黒澤映画の影響を強く受けたという話はよく知られていますが、中でも『隠し砦の三悪人』の影響は大変大きいものだったようです。

レイア姫は雪姫様、C-3POとR2-D2は太平と又七がモデルになっているそうです。

時は戦国時代。国境を接する秋月藩・山名藩・早川藩が舞台。
山名との戦に敗れた秋月藩の侍大将・真壁六郎太(三船敏郎)と、秋月家のお姫様(上原美佐)、そして雑兵だった農民の太平(千秋実)と又七(藤原釜足)が、秋月家再興のための大量の金を携えながら、国境を越えて落ち延びるまでの物語。

まずは着物ともいえないボロをまとったリアルな太平と又七の姿に驚きました。
農民の太平と又七は、恩賞目当てに、家を売り払って具足一式を取り揃えて戦に参加。しかし何もしないまま秋月は破れ、具足一式を取り上げられた上に死体処理をやらされ、国に帰る途中だったようです。

これからどうするんだよ~、お前のせいだぞ~、顔も見たくない、こっちくるな! などと醜い言い争いをしています。

いったんは仲たがいをして別れる二人ですが、それぞれ落ち武者狩りにあったり、国境付近で銃撃を受けたりと、武士階級の前で農民は虫けらのような扱い。そしてそれぞれ捕らえられ、焼け落ちた秋月城に集められて再会。けんか別れをしたくせに、体いっぱい喜び合います。そして二人は同じような境遇の、ほとんど褌一丁姿の最下層の大勢の男達と共に、天守閣の地下に埋まっているといわれる埋蔵金を掘り出す苦役に従事させられます。

しかし真夜中に男達は決起。見張りの兵を数で押し切り、逃げ出します。
この城の石段を大勢の男達が駆け降りるシーンも必見です。このスケールの大きさと躍動感。エキストラとはいえ昭和30年代の日本人男性の身体能力の高さが感じられます。この方々は農業や戦争なども当たり前のように体験した世代ですから、農業すら体験したことのない令和の日本人とはまったく違うのでしょうね。

自由の身になった太平と又七は、偶然、金の延べ棒が詰められている木の枝を見つけて喜びますが、それを見ていた屈強な男に見とがめられます。
男は真壁六郎太と名乗りますが、太平と又七は、みすぼらしい身なりを見て、「あの有名な秋月藩の侍大将の真壁様? うそでしょ。山賊か木こりでしょ」と信じません。
そして真壁に動向を問われ、「秋月と山名の国境は警備が厳しくて通れないので、いったん早川藩に入って秋月に帰還するつもりだ」と答え、真壁も「そうか、その手があったか」と高笑いします。

この真壁のいで立ちも、下は今でいうショートパンツのようなもの。たくましい太腿や二の腕があらわで、肩や胸元の筋肉も隆々です。
手塚治虫の漫画によく似たキャラクターが出てきますが、もしかするとこの真壁のいで立ちが元なのではないかと思いました。(画像は『火の鳥』)

いや、普通に考えて、このスタイルにいきつくのか?(笑)

しかし身なりはみすぼらしくても、漂う威厳はやはり武士。最初、演技がオーバーなんじゃ?と思いましたが、これは武士を演じているからなんだな、と思いました。武士はつねに背筋を伸ばし、堂々としていたのでしょうね。

そして脛を守るために巻く脚絆(ゲートル)の大切さを、この映画を見ていて痛感しました。岩山をよじ登る時、地面に伏せる時、脚絆がなかったら大怪我して動けなくなっているだろうな、と思うシーンが目白押しです。
特に太平と又七役の方の役者根性には驚きます。今の役者さんで、ここまでやってくれる方がいるのかな? 

そして岩山にある秋月の隠し砦に向かうのですが、そこに現れたのが、秋月藩の家督を受け継ぐ16歳の雪姫様。
雪姫様もショートパンツ姿です。斬新です。そしてやはり姫としての威厳が違います。プライドがあって気高く、気が強くて見る目も確か。凄いです。鞭をパシパシ打つ姿、乗馬する姿、などなど、とにかく美しくてカッコいい。ここでも、こんな日本女性は令和の時代には絶滅したんだろうな、と思いました。

古い映画を見ていると、今は見ることが出来なくなってしまった日本の良さを痛感します。

武士階級と農民階級の身分の差、というものも、とてもはっきり描いている映画だと思いますが、令和の日本人は、総農民階級といえるのではないかと思いました。感情を表に出さない武士に比べて、人間味あふれる愚かな農民階級の太平と又七。とても共感しましたが、でもこれでいいのでしょうか?

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