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ぼくたちは「呼吸」で人生を変える力を持っている―児玉俊彦(Toshi)さん【後編】

アシュラム設立、そして「トゥリヨガ」との出会い

 ――さて、本格的に日本での活動が始まるわけですが、最初に京都を拠点としたのはなぜですか。

Toshi 実は養生園にいた時から、特に理由はなく、淡路島への移住を考えてはいたんです。でも、いきなり「淡路島でヨーガやります」って言っても誰も来ないだろうし、妻と、まずはふたりの好きな京都で実績を積もうと計画を立てました。最初は会館を借りて教室を開いていましたが、徐々にスタジオから声がかかるようになって活動が広がり、34歳で「Union Yoga Japan」を立ち上げました。

京都には結局8年滞在しました。そのころは毎年のようにインドに行っていて、アシュラムに滞在するたびに、日本にもこういう場所があればいいなって強く思っていたんです。だから物件探しもそのことを意識して行いました。すると、建物も牛舎もボロボロだけど、いい感じの場所を紹介されたんです。でも値段を聞いたら700~800万と言われて、ぼくの予算ではちょっと難しかったので、いったんその話は流れました。それが、半年後くらいに、別の不動産屋さんから同じ物件を紹介され、しかも、値段がまさに希望通りだったんですね。

――来た!という感じですね。

Toshi いや、それでもまだ決められなくて(笑)。それから半年くらい何回か足を運んでいたんだけど、ある夏の日、それまでは草ぼうぼうだった裏手の池に、蓮の花が一面にワーッと咲いているのを見たんですね。まずその光景に感動して、しかも、近くに湧き水があるよと言われ、もうここしかない、とようやく決断し、2018年に移住しました。

 ――畳みかけるような出来事ですね。改修工事はDIYで行ったとか。

Toshi 養生園ではセルフビルドのお手伝いもしていたので、その経験が役に立ちました。費用も事業支援やクラウドファンディングでまかなえることになって、いろいろな人の助けを受けながら、2019年、40歳のときに、「淡路サンアシュラム」を立ち上げました。まさに、ぼくの思いの結晶です。

――ところで、Toshiさんが、今取り組んでいる「トゥリヨガ」とはどんなヨーガですか。

Toshi 流れるような動き、深い呼吸、瞑想を重視するヨーガの流派です。肉体だけではなく、呼吸、心、そして身体エネルギーを同時に整えて、癒しやリラックス、瞑想を促していきます。「私」という存在の全体性を整えることを、瞑想的な動きのなかで丁寧に行っていくんです。従来のヨーガよりも優雅でしなやかな感じですね。

――何をきっかけに「トゥリヨガ」を始められたのでしょう。

Toshi インストラクターをしていた京都のヨガスタジオで、トゥリヨガのティーチャートレーニングコースを開催することになり、解剖学や哲学のパートの通訳を頼まれたんです。アメリカから来たヨーガだというので、最初はあまりピンとこなかったのですが、通訳をしながら、サントーシとリシという2人の先生の話を聞き、聞けば聞くほど、すっかり魅了されてしまいました。それまでハタヨーガ一辺倒できたけれど、何となく、ハタヨーガの弱点というか、何かが欠けているような感覚があったんですね。それを埋めるものがトゥリヨガにあるような気がして、創始者であるカリジに会いたい、友達になりたいという思いから、36歳の時にティーチャートレーニングを受けました。学ぶならもうこの人しかいないという感じでしたね。

――カリジさんのどんなところに惹かれたのですか。

Toshi ぼくと比較しても、カリジは10倍くらい超越した経験をし続けている、完全に悟りに入った状態だということを感じたんです。正直、トゥリヨガを初めて体験した時はそれほど実感はありませんでした。でも、知れば知るほど、やっていけばいくほど、すごさがじわじわと入ってきて。この完成度の高さは、人間が考え出したものではない、デバイン…人智を超えたところから降りてきたものなんだな、と、ひしひしと感じました。からだの動かし方やエネルギーの流し方だけでなく、解剖学的に見てもすごくきちんとできているし、今まで積み重ねてきたハタヨーガの経験をベースに、一気に道が完成されましたね。

トゥリヨガ創始者 カリジさんと(2019年)

――その後、ハタヨーガは続けられたのですか。

Toshi 両立を考えましたが、トゥリヨガではほかのヨーガを混ぜないことを推奨しているんです。選択を迫られた結果、トゥリヨガの道を選びました。一度トゥリヨガに宿る神の力や人智を超えたエネルギーの中に入ってしまったら、もう戻れませんでしたね。

――トゥリヨガと古典的なヨーガの教えは整合するのでしょうか。

Toshi 確かにヨーガには、経典というものは存在しているけれど、実際、今ぼくたちがやってるヨーガは、あくまで、その仮定の解釈に基づいています。でも、そこに書かれていない、口伝でしか伝えられてない部分がたくさんあるはずです。トゥリヨガは、その経典に書かれていない部分を含めて、今のぼくたちに合わせた形で提示してくれていると思います。もちろん細かい点では伝統的な経典と相違するところはあるけれど、大きく矛盾するものではない。本当にすごいヨーガだと実感しています。 

「息きる(いきる)力」呼吸法を多くの人たちに伝えたい

――そして、最初にお聞きした呼吸法も、2015年からティーチャー養成講座が始まっていますね。

Toshi 最初はヨーガ哲学とドッキングさせて教えていましたが、きちんと学びたいというリクエストがあって単独でクラスを作りました。そのころはあまり呼吸法の話をしている人もいなかったけど、間違いなくこれから呼吸法が必要になるとは思っていましたね。ぼくはあまり、目標とか目的とか持たないタイプなんですが、現在、呼吸法の普及にエネルギーを向けているのは事実です。

小学校での授業のあと、子どもたちに感想を書いてもらったんですが、「いい呼吸ラボのみな様、日本の子どもに、いや世界の子ども達にも呼吸はすごく大事なんだよと教えてあげてください」これを読んだ時は胸にズキューンと来ましたね。今まで考えてもいなかったけれど、もしぼくたちが、日本の教育のなかでいい例を作ることができたら、呼吸法を世界に広げることもできるかもしれない。そう思うと、これが、ぼくの使命なのかなとも感じました。今行っている呼吸法ティーチャー養成講座にしても、収益の面がクリアできたら、いっそのこと無料にしたいとも思ってるんです。今まで受けてくれた人たちに怒られるかな(笑)。

――いやいや、みんな応援しますよ! でも、今の流れでは実現も不可能ではなさそうですね。

Toshi 教育の面では、実はまた大きな動きがあって、本格的にかかわることができるかもしれません。これもお上の導きかと、運命的な流れを感じています。日本で今、一番医療費がかかっているのが「心」の問題ですよね。子どもたちも、ちょっとしんどさを感じているぼくたち世代も、みんな「いい呼吸」をするのが当たり前になれば、世の中は変わると思うんです。

子どもたちのなかにも、腹式でちゃんと呼吸できる子もいれば、肩であえぐような呼吸の子もいて、このままいったら「息(生き)」苦しくなっちゃうだろうな、と感じました。逆を言えば、呼吸ひとつでそれが改善できるんです。呼吸には自分の体や心を変える力があって、ぼくたちは呼吸を変える力、人生を変える力を持っている。そんな「息きる力」を多くの人に伝えたい。だから「いい呼吸ラボ」もオープンな場として、みんなに手を貸してもらいながら、一緒につくっていけたらいいな、と思っています。 

「呼吸法ティーチャー養成講座」では、実習だけでなく、裏付けとなる理論もしっかり学習する。

――Toshiさんの使命は「呼吸」に落ち着きそうですね。

Toshi もう少し機が熟したら、魂の目覚めといった、本質的な話をしていくことになるかもしれません。でも、呼吸は直接魂の源泉につながるものだし、呼吸を見つめる目を育むこと自体、すごくスピリチュアルなことなんですよ。ぼくが何かメッセージを伝えることよりも、みんなが呼吸を通して自分の内側のメッセージを聴くことのほうが大事だし、誰もが当たり前にしている「呼吸」の中に答えがある、それだけで十分なんじゃないかとも思います。

 ――大人から子どもたちへ、日本から世界へと、呼吸の輪がどんどん広がっていくのが楽しみですね。わたしもToshiさんから受け取ったものを自分だけでなく、周りに広げていきたいと思います。希望にあふれたお話をありがとうございました。(了)

休憩中、受講生たちと歓談。

取材:2022年9月~12月 東京

※本文中「Yoga」のカナ表記は、単独使用および「ハタヨーガ」について「ヨーガ」、それ以外を「ヨガ」としました。


児玉俊彦(Toshi)さん プロフィール

2000年独学で呼吸法、瞑想を始める
2005年インドの僧よりシバナンダスタイルのヨーガを学びヨガ指導を始める
2009年 インドにあるYogaSchool(Kaivalyadhama)にて 上級ヨーガ教師育成課修了
2013年 UnionYoga japanを立ち上げ活動を始める
2016年 Tri Yoga Basic 公認ティーチャー認定
2019年 淡路サンアシュラム 淡路島にOpen
2022年 いい呼吸ラボでの活動開始

現在の活動
・淡路サンアシュラム代表
・TriYoga Seeds共同代表
・ヨーガクラスの主催・指導
・哲学講座の講師
・呼吸法講座の講師
・ワークショップの開催
・ワークショップや養成講座の通訳

淡路島での自然の中の暮らしと、ヨガ的な生き方を求め淡路サンアシュラムを立ち上げ。自身のヨガ的生き方の追求とそこに集う人達への 健康面と精神的な成長のサポート。特に近年はTriYogaの素晴らしさと呼吸法の大切さを伝えることを二本の柱として活動を進めている。


「いい呼吸法 無料オンラインクラス」
毎週火曜、朝6時から、ZOOMまたはYouTubeライブで呼吸法レッスンを無料で受けられます(要Facebookグループ登録)。

Union Yoga japan ホームページ
呼吸法講座やトゥリヨガなどの各種ワークショップ、淡路サンアシュラムについての案内はこちら。

◆2023年3月から、TriYoga Teacher養成講座がスタートします。


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