見出し画像

【みーなり、ちちなり|沖縄タイムス唐獅子② 2011年8月8日掲載】

*これまでに執筆した記事を振り返っています。 

昨年(2010年)1月、文化庁派遣の文化交流大使に任命されて英国を訪れていた、野村流古典音楽保存会師範の喜瀬慎仁先生のワークショップへ参加する機会があった。その時に初めてお会いした喜瀬先生はチャーミングな方で、その人柄で参加者を多いに魅了した。指導をしながら唄の意味や歴史などを説明していただき、上達の秘訣として語られていた何げない一言から印象に残った言葉がある。 

「みーなり、ちちなり」。見て、聞いて学ぶという意味。そして「人と比べないこと。比べるなら昨日の自分」ということ。それは、琉球古典音楽に初めて触れる人たちにとっても、人生の教訓として学べる要素があった。 ロンドンでの公演終了後に、喜瀬先生に街を案内しながらお話をする機会があった。その時に、学生の頃は西洋音楽に憧れていたが、そのうちに唄三線に沖縄の誇りを感じ、没頭するようになっていったという。教員時代に、学校教育の一環として子どもたちに伝統芸能の組踊を鑑賞させるように働きかけたことも話されていた。そういえば、私も中学生の頃だったか組踊を見せられた記憶がある。当時は全く意味が分からなかったけど、今になって改めて見てみるとその素晴らしさに感動し、喜瀬先生が学校で働きかけてくれたことに感謝した。 

同じものを見ても、その時々やタイミングで、受けとり方は変わってくる。組踊のゆっくりとした動作と一つ一つのしぐさに感情が込められていることを感じた。かつて琉球では唄と踊りと言葉が一体であったということを知り、その奥の深さに感動した。 

見るもの、聴くもの、周りの環境に人々は多大な影響を受ける。沖縄で生まれ育ち、地域に根付いた唄や踊り、生活に根ざしたものを知らないうちに、体と感覚で心に染み込ませていたことが、どんなに大切なことであったか、数十年たって異国の地で気付いたのである。 

先週のキジムナーフェスタで、その喜瀬先生と世界のトップダンサー安藤洋子さんとのコラボレーション作品があった。琉球と西洋文化、古典と現代アートが混ざり合う、異色の組み合わせに衝撃を受けた方も多かったようだ。鑑賞したみなさんの感想が興味深く、私はそれを聞きながら二度楽しむことができた。

沖縄タイムス唐獅子2011.8.8掲載

◼️ロンドンでのワークショップhttps://youtu.be/RLVE3mmccqM
◼️ロンドンでの公演https://youtu.be/sfTL8b_Bmpo

追記:組踊は、喜瀬先生のような教員の働きかけもあり、県内の中高生は学校単位で全員観ているものだと思っていましたが、実はそうではないことが数年後に分かりました。先生が関心が無いと、組踊の鑑賞機会が無い学校もあり、年代や地域よっては観たこと無い人もいるので、中高生の時に少なくとも一度は鑑賞しておくことを推奨したいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?