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その一歩は世界に通じる〜【Concert】中野りなヴァイオリンリサイタル

 2021年第90回日本音楽コンクール優勝、翌22年に第8回仙台国際音楽コンクールで史上最年少の17歳で優勝した中野りな。その時から群を抜いた演奏技術の高さで注目を浴びていた弱冠19歳の若手ヴァイオリニストが初のソロ・リサイタルを開いた。プログラムはモーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」K.305、プーランクの「ヴァイオリン・ソナタ」、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番ト長調」op.27-5、リヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調」op.18。コンクールの時に取り組んだ作曲家を中心に選んだとのことだが、彼女の「今」をしっかりとみせるものになったと思う。

 1曲目のモーツァルトから、以前に比べて音の奥行きが深くなったことに気づく。音の幅が広がり、艶も増している。そして音色そのものがグッと深く、いい意味での太さ、ふくよかさがある。これは使用しているストラディヴァリウスとの相性もあるのかもしれない。2曲目のプーランクになって、その奥行きがさらに1段階深まったようだ。力強さと軽妙さのバランスが絶妙で、プーランクの個性がしっかりと表出されている。アンニュイな表情を持つ第2楽章の間奏曲では官能味すら感じさせた。恐るべき表現力だといわざるを得ない。個人的には、全曲中このプーランクがもっとも印象に残った。

 休憩後の2曲は、おそらく今の中野にとっては「攻め」のプログラムだろう。この曲だけ暗譜のイザイは、もともと持っている技術の高さに支えられた安定感ある演奏で、「現時点での」中野りなのベストだと思う。ただヴァイオリニストの聖典ともいえるこの作品の奥はまだまだ深い。今後さらに高い次元を目指して表現を磨き、ぜひさらにステップアップした演奏を披露する機会を持ってほしい。

 最後のリヒャルト・シュトラウスは達者に弾いてはいるものの、リヒャルト・シュトラウスに特有の「響きのレイヤー」がまだまだ薄い。後期ロマン派の濃厚さを表現するには、音楽上も、また人生の上でもさまざまな経験を積むことが必要なのかもしれない。おそらく彼女自身、この挑戦からは大きな宿題をもらったのだと想像する。それもまた、成長への糧となるにちがいない。

 ステージ度胸も抜群。この若さでこのテクニックと表現力は同世代の中でも頭ひとつ以上突き抜けている。遠からず世界へと進出するだろう。本公演は「最初の一歩」であり、その瞬間に居合わせることができたことを幸福に思う。

2023年6月18日、浜離宮朝日ホール。

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