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【Opera】オッフェンバック『美しきエレーヌ』(演奏会形式)

 東京芸術劇場のコンサートオペラVol.9はオッフェンバックの傑作オペレッタ『美しきエレーヌ』。オーケストラ付きの原語上演は日本初演だそう。オッフェンバック、ものすごい多作なのに日本では『天国と地獄』と『ホフマン物語』ぐらいしか知られていないので、もっとオッフェンバック作品が日本で上演されるといいのに、と思っている私としてはこの企画はとても嬉しい。今回は東京芸術劇場のコンサートホールでの演奏会形式上演。お芝居の部分は、エロス(キューピッド)に扮した声優の土屋神葉の語りに任せ、歌手たちは原語歌唱に専念するスタイルがとられた(台本と構成演出は佐藤美晴)。

 結論からいうと、やはりオペレッタは芝居があってこそ、だなあと痛感した。特にオッフェンバック特有の、リズムに乗った流れるような音楽は、芝居と地続きになっているからこそ魅力を発揮する。土屋のナレーションは面白いのだが、いかんせん長すぎるので、「セリフを長々と聞く→ちょっと歌→またセリフ→歌」というブツ切りの印象になってしまった。この作品、ギリシャ神話の徹底的なパロディなので元ネタの神話を知らないと面白さが半減、ではあるが、細かい神話の内容や、さらにはオッフェンバックの作曲の背景の説明までは必要なかったと思う(プログラムにはパリスの審判についての短い文章も掲載されていたし)。台本をもう少し刈り込んだほうが、オペレッタとしてのテンポ感が活きたのでは。

 歌手の中ではアガメムノンの晴雅彦が、やはり一日以上の長あり。歌も、演技も、ちゃんとオペレッタしていた。タイトルロールの砂川涼子は、初のオペレッタ、しかも彼女にしては音域の低い役に果敢に挑戦したと思うが、全体的に響きがやや散っていたのが気になった。パリスの工藤和真は美声のテノール。高音も安定しており聴きごたえ十分だったので、今後はもっともっと舞台経験を積んで多彩な表現を身につけてほしい。辻博之指揮のザ・オペラ・バンドは相変わらず芸達者で、ノリ良く、かつ品も良い音楽を表現。合唱のザ・オペラ・クワイアは今回のために集めた精鋭メンバーとのことだが、声量も十分で演奏を支えた。

2024年2月17日、東京芸術劇場コンサートホール。

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