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データで紐解く 特養の医療アクセス|改善の鍵は《配置医師との契約内容》

国内に1万施設以上ある特別養護老人ホーム(以下、特養)は、医療ニーズの高い要介護者を多数受け入れる施設です。一方で特養は、十分な医療体制が整備されていないと指摘されている施設形態でもあります。
今後も要介護度の高い利用者が増加していくと見込まれていますから、特養における医療体制の強化は喫緊の課題だと考えています。

今回は社会福祉法人若竹大寿会 常務理事の竹田先生をお招きして、リアルなデータを紐解きながら、その実態と対策について詳しく探ります。



竹田雄馬
社会福祉法人若竹大寿会 常務理事・緩和ケア医

幼い頃より高齢者施設でのボランティア活動をしてきた経験から、施設スタッフや利用者は家族同然。ケアの現場に強い思いを抱き、医師を志す。
横浜市内の民間社会福祉法人で最も多種類の介護保険サービスを提供する「若竹大寿会」にて、緩和ケア医として勤務する傍ら、最善のケアと現場スタッフのやりがいの両立を目指してコロナ対策や施設医療を推進中。

青柳直樹
ドクターメイト株式会社 代表取締役医師・皮膚科医

医師として診察する中で、重症化した搬送患者や軽症ながらも通院するケースを目の当たりにし、医療と介護の間に深刻な溝が存在することに気づく。
複数の施設訪問を経て課題解決の必要を感じ、一念発起。デジタル技術を活用しつつ「持続可能な介護のしくみをつくる」べく、ドクターメイト株式会社を創業した。

配置医師(嘱託医)制度の問題点

青柳:医療アクセスの課題が指摘されている特別養護老人ホームのリアルについて、若竹大寿会の竹田先生と一緒にお話しできればと思います。同じ医師であり介護の現場にも詳しい先生とお話できることになり、非常に楽しみにしていました!

竹田:こちらこそ! ドクターメイトのサービスにはいつもお世話になっています。今日は私たちの法人のデータをお示ししながら、意見交換などできればと思っています。

青柳:大変心強いです。ではまず、国としても医療介護連携という言葉を打ち出してきたタイミングですが、6つの特別養護老人ホームを運営をする上でどんな医療的な課題、影響がありますか? 先生の視点を伺いたいです。

竹田:特養制度の一番の課題かもしれないと思っているのが「配置医師制度」です。この制度は介護保険制度ができる前に作られて、そのまま見直されていないんですね。当時は要介護度3以下の方でも特養に入れましたが、直近ですと特養の要介護度は平均3.98と言われてます。いわゆる療養病院の平均要介護度が4.3ですから、病院並みのケアを必要とする方が終の住処として特養を選ばれている状況で、明らかに重度化していることがわかります。

青柳:おそらく当時の価値観ですと、お看取りを含める終末期医療は病院に任せるべきという論調でしたよね。

竹田:その通りです。ですが現代では「本人のニーズに合わせて、施設の中で穏やかに過ごせた方がいいんじゃないか」という考え方にシフトしてきてますので、より生活に根ざした最期を迎えるために、そろそろ見直すべきだと思いますね。

具体的にお話ししますと、医師も看護師もケアスタッフも同じ事業者内で賄われてることが多い病院や老健と違って、特養では配置医師という制度を取っています。しかしこの配置医師は常勤医師がメインではなく、近隣のクリニックや在宅医療機関から往診に来る嘱託医が多く、週一回程度の非常勤なんですよね。この「所属をまたぐ情報共有」が非常に難しい。人や事業者、立場によって報酬などの解釈が異なるので現実的な認識がなかなか合致せず、意思統一がしにくいんです。

青柳:おっしゃる通りですね。医療と介護って、報酬の制度も別々じゃないですか。管轄も医療は医政局、介護は老健局で分かれているし、共通言語もない中でどうやってコミュニケーションを取っていくのかが重いポイントになってくると思います。ひとことで「連携」といっても、ここを解決しないと現場にとって負担ですし、利用者の方にとっても思わぬ問題に繋がりかねません。

竹田:そうなんです。配置医師っていうのは「入所者の健康管理」が主な職務内容なのですが、この言葉も曲者。健康管理ってどこまでを言うのか、診療の頻度、責任範囲、診療報酬などが明確に提示されていないんです。

青柳:どこまでやってくれるかが、ドクター個人の裁量によって変わってしまうということですね。いつでもなんでも対応するよ、という方ならいいですけど、そうでない方も当然いっぱいいますので。制度でしっかり定義できていないから個人の判断に委ねられちゃってる、というのは問題かなと思いますね。

竹田:さらにこの配置医師は内科医であることが多くて。そのほかに施設で求められやすい皮膚科や精神科といった医療ニーズには対応できなくて、どうしても外部受診に頼らなきゃいけないっていう状況が多いですね。だからこそ、ドクターメイトは大変素晴らしいサービスだと感じています。

青柳:ありがとうございます。病院では高度細分化する医療に合わせ、複数の専門ドクターが協力して一人の患者さんを見ていくチーム式の医療体制を取っているのに、介護となると一人の内科医にすべてが集中してしまう現実がありますよね。

そういう現状だからこそ、当社のような医療相談サービスを通じてオンラインで全診療科と繋がることには価値があると思っています。より総合的な医療を介護の現場に提案できたり、配置医師(嘱託医)の負担を軽減できたり。第三者視点的なところから医療と介護のコミュニケーションを円滑にして、より持続可能な形での医療介護連携を実現したいと考えて、日々取り組んでいます。

竹田:ひとくちに医療介護連携と言ってもドクターの経歴や得意不得意、医療アクセスの地域差なども出てきます。オンラインで繋がれる全国の医療機関・医療従事者を大きなチームと考えながら相互に補い合うシステムはすごく大事なことだと思いますし、施設格差を無くすという面でも大事になってくると思いますね。

青柳:先生からそういったお話を聞けて嬉しいです。制度的に診療点数は同じでも、地域によって医療環境は異なるからこそ、どこでもアクセスできるオンラインの仕組みづくりには意味がありますよね。

竹田:はい。制度を見直したり、各施設で新しい仕組みを活用しながら、いい医療介護連携の形っていうのを模索していく必要があるんだと思っています。当法人でも医療介護連携に向けてすべきことを再定義する必要があると考えていまして、私たちが最重要点として見直しているところは、外の医療機関や薬局との契約内容なんです。

青柳:制度ではなく契約内容であれば、施設ごとの工夫の範囲で改善できそうですね。ぜひ詳しく聞かせてください。


配置医師との契約で変わる、入院率と看取り率

竹田:医療アクセスや医療介護連携を考える上で、外部との契約内容というのがどれだけ経営に直結するかというデータを紹介したいと思います。施設では「いかに満床に近づけるか」というのがすごく大事になってきますが、施設利用者が入院してしまうと空床が出る問題があります。

2021年度には法人全体の入所者816人中344名、つまり42%が入院しました。1回の入院が23日だとしたら、入居者の2.7%が常に入院していることになり、当法人にとっては年間1.2億円の減収となります。入院による経営的なダメージは小さくないわけですね。

このデータの信頼性を確かめるために2022年10月にも全施設で調査したところ月に965万円、入院での減収がありました。この数字に12をかけて年間減収を概算すると約1.2億円になりますので、やはり信頼できる数字だと分かります。施設によっては、入院が原因で損益分岐点に達していなかったところもありました。

また後期高齢者の入院単価は一日あたり34,073円となっていますので、実は入院で当法人から見えるだけでも、年間2.7億円の医療費が社会保障費として支払われていることになります。

しかも入院時には退院に備えて施設のベッドも確保しておりますから、実は社会保障費がダブルでかかってしまっているんです。つまり社会的にも大きな損失になっていますから、やはり施設において経過措置や治療ができる医療レベル、または医療ニーズに対応できる仕組みが必要になると思います。

加算という視点で見ても問題があると思っていまして。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの施設であれば、初診料・再診料・往診料・管理料などの加算がすべて取れるんです。ですが、特別養護老人ホームではこの辺りの管理料を介護報酬から出すっていう決まりになっているんです。「加算が支払われていないから、特養では対応できない」という現場があります。

報酬の考え方も特別養護老人ホームの特殊な部分でして、実は介護報酬から医師に報酬が支払われているんです。介護報酬の中で特養の医療対応分が支払われ、その一部を配置医師に「嘱託料」としてお渡しする形なのですが、この嘱託料には定めがなく、相場もないのが問題になっているんです。

本来だったらやったらやった分だけ評価されて診療報酬をもらえる医師ですが、配置医師だと施設とのブラックボックスの契約の中で報酬が決まってしまう。だからこそ引き受け手がいないし、契約の中に盛り込まれていないからという理由で、困った時の電話相談・緊急対応・お看取りなどの追加依頼ができない、なんてこともすごくたくさんあります。

嘱託料と外部受診と入院率の関連についてのデータも実際出してみたんですけど、やはり嘱託料をしっかりお支払いして連携をした方が外部受診も入院率も減り、看取り率は向上します。

青柳:「看取り率」っていうのは、看取り期に入った人が本当に施設で亡くなった割合のことでしょうか?

竹田:いろいろな定義がありますが、私たちが使っているものは「全退所者のうち、施設で亡くなった人の割合」を看取り率と呼んでいます。終末期に入院になるなどして施設以外の場所で亡くなった場合、看取り率に含まれないという考えです。

青柳:なるほど、そうなると例えば救急搬送されて病院で亡くなった方や、入院になってそのまま病院でお亡くなりになった方は含まれないということですね。

竹田:その通りです。話を戻しまして、医療アクセス状況の影響が施設においてどれぐらいあるのかを知るために、横浜市内の全特養に対して横浜市立大学との共同アンケート調査を行ったんですが、やはり訪問時間が多ければ多いほど、ちゃんと連携して診察をしていればいるほど、看取り率が高くなるということが分かりました。

当法人においても同じで、入院や外部受診は少なく看取り率が高かった施設では、医師が週に5日来ていて、一人当たりの嘱託料が8,100円支払われていました。また別の施設では困った時は非常に高い嘱託料を支払いつつ、いつでも医師とオンライン相談ができる契約を結んでいました。そういう形で困ったらいつでも診てもらえる体制を作っていたんです。

一方で入院率が高くて看取り率が低い施設というのは、診療の頻度が少なくて嘱託料も少ないという共通点がありました。このように、嘱託料も委託内容も見直す必要があるということが分かったわけです。

青柳:施設側が医師に十分な支払いをしてしっかりと連携できる施設のほうが、入院も外部受診も少ないということですね。あまり多くのコストを払うことに抵抗のある施設も多い印象ですが、通院や入院はスタッフへの負担になりますし、なにより入居者さんに非常に負担が大きい。

竹田:入院によって廃用症候群が進んでしまったり、認知症のある高齢者だと入院に伴って周辺症状が悪化したり、せん妄をきたして拘束されてしまったりする例も多いですよね。退院した時には寝たきりになってしまうケースがあり、本当に大きな問題になっています。

青柳:入院を減らすことで、ご利用者の負担やスタッフの負担も減らすことができ、しかも施設の運営にもいい影響があるとなれば、しっかりとした医療介護連携体制を構築する価値は大きいと感じました。目先のコストは高そうに見えても、最終的に健全な施設運営ができるということですね。

お看取りについても同様に「やりたいけども医療介護連携が充分でないので、現場の不安が大きくて踏み出せない」という話を多く聞きます。これから介護現場での看取りがより強く求められてくる文脈を考えても、医療介護連携の重要さは切っても切り離せない要素となりますね。

竹田:その通りですね。データを見ても、しっかり医療費や嘱託料を払った施設の方が看取り率も高いということがわかります。


医療介護連携がもたらすメリットは日本社会を変える

竹田:まとめになりますが、特養の医療アクセスを強化することで、施設内で検査・治療というのが可能になりますから、入院を減らせます。そうすると、医療費というのが大きく削減できます。これは社会的にもそうですし、ご本人単位でも医療費の請求額は減ります。

さらに救急搬送の費用も削減できますし、施設看取りが増えれば終末期病院での医療費っていうのも削減でき、住み慣れた場所で最期まで過ごし穏やかに亡くなる体制というのを作ることができるわけです。

施設にとっては入院による空床が減ることで経営状態が安定しますし、外部受診による入居者と職員の負担を同時に軽減できますから、離職防止にも繋がってきます。

医療介護連携を強化することで、運営者としても、経営サイドとしても、運営や経営を安定させられる。
複数のメリットがありながら、社会保障費というこの国の大きな問題に対して、継続可能性の観点で大きく貢献する領域なのではないかなと思います。

全国老施協でも、「日常的な健康範囲」がどこまでなのか明確化して診療報酬の対象にしたりだとか、配置医師以外にも往診やオンライン診療を診療報酬の対象にするのが必要なんじゃないか、と言っております。制度を根本的に見直しながら、社会全体の最適化を考えていく必要があると思っています。

青柳:貴重なお話ありがとうございます。医師であり介護施設の運営者でもある先生からの話を受けて、これからさらに医療介護連携が重要になってくると確信しました。

我々としても、医療介護連携への取り組みが「持続可能な介護のしくみをつくる」というミッションに繋がると考えていますので、より邁進していきます!

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