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シネマの記憶008 ムンバイの熱風

 主人公ジャマールがクイズ・ミリオネアに出場。ラスト1問まで到達したところから物語は始まる。しかもラストの問題は時間切れで翌日に持ち越し。

 ところがその奇跡的ともいえる達成を面白く思わない人物の密告で、ジャマールは警察に連行され、厳しい尋問を受けることになる。スラム出身の野良犬に、難解なクイズを勝ち抜けるだけの知識があろうはずがない、どこかにインチキがあるに違いない、という嫌疑が係けられたのだ。世の中には嫉妬という愚かで恐ろしい怪物が存在する。

 警部ととももに、録画された番組を再生しながら、一問、一問、正解が得られた理由や背景がジャマールの口から語られていく。観客は、そのつど過去へ回帰していく時間旅行に立会うことになる。語られる過去には、飢餓があり、貧困があり、誘拐があり、売春があり、麻薬があり、暴力があり、宗教問題がある。それでも逞しく成長していく子供たちの姿。そこでスポットが当たるのは、主人公のジャマール、兄のサリーム、ジャマールが一途に恋心を抱き続けるラティカ。大人になったラティカはじつに魅力的。

 それにしてもスクリーンに映るインドのムンバイは、とてつもないエネルギーの坩堝だ。画面から熱風が吹出している。その坩堝のなかで、ジャマールたちは、つねに何らかの選択を迫られる。そのつど何かを選択してきた挙げ句に、現在はある。まるでクイズ・ミリオネアと同じ構造のように見えてくる。

 この「スラムドッグ・ミリオネア」には旺盛な生命力とスピード感が横溢している。冒険アドベンチャーと一途な恋物語と奇跡的なドリームが混然一体となった作品である。これほど見事な大衆性を獲得した作品は稀かも知れない。どきどき、わくわく、あっという間の2時間。

 以下はメモ。原作ヴィカス・スワラップ。この人、現役の外交官だとか。脚本サイモン・ボーフォイ、監督ダニーボイル、音楽A.R.ラーマン。(出演)ジャマール役:デブ・パテル、兄サリーム役:マドゥル・ミッタル、恋人ラティカ役:フリーダ・ピント、警部:イルファン・カーン。警部役のイルファン・カーンは、「その名にちなんで(The namesake)」にも父親役で出ているが、じつに味わい深い俳優である。

画像出典:映画.com

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