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輪島塗りの器を。

このところ、日本や世界のあちこちで地震が起きている。
二日前には、台湾で大きな地震が起きたばかりだった。
元日に起きた能登半島地震では、暮らしている
長野もずいぶん揺れたという。その日は群馬の
草津温泉に滞在していて、熱めの湯と酒に癒されていた。
地震が起きたとき、すっかり酔いつぶれていて、
まったく気がつかなかったのだった。
心配してくれた友だちからのメールで、地震があったと
知った次第だった。なんとものんきなことだった。
金沢に大学時代の友だちが住んでいる。
心配になってラインを送ったら、尋常ではない様子を写メで
送ってきた。その後、テレビで被災地の様子を観たら、
あちこちの被害の大きさに唖然としてしまった。
現場に行かなくても、復旧に相当の時間がかかると
うかがえた。軒並み崩れた家屋に、焼け野原になった町に、
気力を振り絞ることがどれだけ大変か、被災者のみなさんを
思うと涙が出てしまった。ほんとに微力ながらでも、
気持ちを向けていたいことだった。
善光寺門前にギャラリー夏至が在る。品の好い御姉妹が
営んでいる店で、そのときどき、洋服や着物、器などを
展示販売されている。この三月、輪島塗りの漆器展を
開くと案内が届いた。福田敏雄さん、高田晴之さん、
土田和茂さん、お三かたの展示会で、三人とも、工房が
大きな被害を受けたという。
現在も二次避難先から数時間をかけて自宅に戻り、
片づけを行っているといい、そんな中、無事だった作品の
出展にこぎつけたのだった。今展での売り上げは、
出来るだけお三かたに渡すという。
仕事を終えた夕方、開催初日に足を運んだ。
お盆にお椀に小皿に片口など、どれも静謐な佇まいで、
眺めていると気持ちが静かになってくる。
母が介護施設に入居したあと、空き家になった実家の
片づけをしていたら、台所の戸棚から、未使用の会津塗りや
木曽塗りの漆器が出てきた。自宅に持って帰り、
ふだんの食事に使っているから、漆器には馴染みがある。
輪島塗りの漆器に触れるのは、初めてのことだった。
酒好きだから買うなら酒器でしょ。よくよく眺めて、
福田敏雄さんの酒盃を買わせていただいた。
軽くて手触りも馴染み、酒を酌むたびに、能登に思いが
向くことだった。

杯重ね漆器の町の春思う。





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