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土の仕事は。

客商売をしている。お客さんの中に、
何人か畑仕事をしているかたがいて、毎年
夏になると、食べきれない分の野菜を分けて
くださるのだった。
トマトにきゅうりになすなど、独り暮らしの身に
有り余るほどの量を持ってきてくれるから、
毎日野菜ばかりを食べる日が続く。
ようやく冷蔵庫の中が空いてきたと思うと、
また別のかたが持ってきてくれるから、
あおられるように食べ続けている。
ところがこの夏、いちどしか野菜を頂かなかった。
こんなことは珍しいと思っていたら、
この夏の雨不足が原因だった。
畑に水が足りなくて、野菜が育たなかったと
みなさん口をそろえてこぼすのだった。
たしかに梅雨どきから夏の盛りにかけて、長野は
ほんとに雨が降らなかった。
台風やら線状降水帯やらで、遠く北や南の町で
大きな被害が出ていても、雨雲が長野だけを
避けているかのようだった。
それでいて、この夏の暑さは尋常ではなかった。
気温が35度、6度は当たり前の日が続き、
畑の土も干からびてしまったと想像がつく。
毎年こんな暑さがつづくかと思うと、土仕事を
されているかたの気苦労も、絶えることが
ないのだった。
厄介なのは天候だけでなく、獣も同じだった。
山の町で畑仕事をしているかたたちは、猿や猪や
ハクビシンに畑の作物を食われるとこぼす。
昔に比べて、人里に現れて畑を荒らしていくことが
ずいぶん増えたという。うっかり遭遇して
襲われてはかなわないので、畑に行ったら
用心しながら作業をしているという。
坂城町で葡萄を作っている友だち夫婦がいる。
生食用とワイン用の葡萄を作っていて、生食用の
葡萄は東京の有名なレストランや菓子屋で扱われるほど
上等な品だった。
先日、SNSを覗いたら、思わず胸が痛くなった。
毎年収穫の時期を迎えると、獣たちの被害に
あっていた。
今年はこれまでよりも大量の被害にあってしまい、
連日100房もの葡萄が熊に食われているという。
少しでも収穫しようと畑に行ったら、熊に
遭遇したといい、販売数の確保が出来ないために
オンラインショップの販売を中止するというのだった。
1年かけて栽培してきた結果が何も残らないのは
ただただ残念ですの台詞に涙が出てしまった。
つらい気持ちで実りの秋を迎えるのは、
なんともやるせないことだった。

やるせなき思い抱えて葡萄棚。




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