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古い友だちと。

同じ歳の友だちがいる。
還暦を迎える記念に作った手拭いを
頂いたのだった。
紺地の右に浅間山、左側に北アルプスが描かれており、
真ん中に邂逅の文字がある。
山登りが趣味だった友だちらしい柄だった。
邂逅にはめぐり合うという意味がある。
出会ったのは、小学校四年生の時のクラス替えで、
そのあと中学校の三年間も同じクラスで過ごした。
高校と大学は、頭の出来がちがいすぎて、あちらは
長野県いちばんの進学校から、有名大学へ進んで、
しばらく音信が途絶えたものの、卒業して、
ともに長野に戻ってきてから、ふたたびの交流が
今につづいている。出会って五十年。
浮き沈みの有る人の縁の中で、変わらぬ付き合いは
まことにありがたいことだった。
毎晩日本酒を酌んでいる。酒との縁が出来たのも、
この友だちのおかげだった。
それまで日本酒というやつは、飲めばかならず
ひどい二日酔いになる、不味いものだと敬遠していた。
ところがこの友だちが宮城へ出かけた折りに買ってきた、
地元の一ノ蔵という酒を飲んだところ、これが
大変旨くて驚いた。以来、日本酒に開眼して、
だらしのないヨッパになってしまった。
寝酒にウイスキーをなめている。これも友だちの
おかげだった。
イギリスに出かけたときに、スコッチウイスキーの
グレン・リベットを買ってきた。その旨さに驚いて、
以来、ウイスキーにも開眼して、だらしのないヨッパに
なってしまった。
そのように酒の道すじをつけてくれたのに、肝心の本人は、
何年か前に持病の手術をしたところ、お医者に酒を
禁じられてしまった。以前のように、ともに旨い杯を
交わしたいのに果たせないままでいる。
なまじ医者などにかかるものではないと、つくづく
思った次第だった。
この三月でながらく仕えてきた会社を定年退職する。
長野県のあちこちで仕事をして、その時々で、
くせの強い上司に遭遇したり、予想外の事故が起きたり、
気苦労かさなる出来事に見舞われていた。
二十五年前の長野オリンピック開催の折りは、
組織委員会の一員として、陰で運営を支えていた。
あのときはほんとに大変そうだったなあと、
疲労困憊していた様子を思い出す。
春からは第二の勤めに出るという。
それまで,ゆっくりひと区切りのひとときを
過ごせればと思うのだった。

邂逅の月日かさねてこの春を。



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