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『涙が止まらなかったKYOTOGRAPHIE。』



KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭2023。

テーマは《BORDER=境界線》です。

『あなたには自分のBORDERが見えているだろうか。
KYOTOGRAPHIE 2023では、そのBORDERを可視化してみたい。その境界線は、自分で作ったものか、他者によって作られたものか。それは超えるべきものか。もしかしたら、自分の「思い」によって変えられるかもしれない。2023年、KYOTOGRAPHIEで《BORDER=境界線》を巡る旅に出よう。』

《BORDER=境界線》をめぐる旅。
今回は京都市の有形文化財に指定される、
八竹庵に行ってみました。

大正15年、
室町随一の豪商「四代目 井上利助」が
当時、最先端の技工と流行を取り入れ、
贅の限りを尽くし完成させた京町家。

和と洋が折り重なるような設計に、
建築史における時代の断片が垣間見える
歴史的に貴重な町家建築です。


そこで…
軽く《BORDER=境界線》を超え没入した世界。

ただ茫然として、
流れる涙を止めることが出来ませんでした。

写真記者である松村和彦さんの
『心の糸』。

「1997年元日
 妻と私の心の糸が切れた日でした
 呼びかけても何も応えてくれません
 しばらくして私を「お父さん」と呼びます
 配偶者としての夫でなくなりました」

淡々とした文章で
日々のことが描かれ
心象風景が映し出されて行く世界。

認知症を患う本人、家族、周囲の人々が
長期に渡って取材され…
一つ一つの出来事が
ただ事実として淡々と重ねられて行きます。

その乾燥した日々の積み重ねの中に…
文章としては書かれていない深い慟哭があり、
家族の想いに胸が詰まりました。



目の前にいる家族が
少しずつ
家族ではなくなって行く様子。
そして、それを見守る家族…

いつも新聞のスクラップをしていた重夫さん。
ある日、
新聞記事を
うまく切り抜くことが出来なくなりました。

それから数日後、
行方不明になった重夫さん。
暮らしていた街の竹藪で
遺体となって発見されました。

そこは、
重夫さんと奥さんが
初めて新居を持った家の近くだったそうです。

どんな想いで、そこに行ったのか。
そこで誰を待っていたのか。
遺体が発見された時の家族の想いは…

46歳で
若年性アルツハイマーと診断された下坂さん。

ネットで調べても恐ろしいことしか出て来ません。
でも…

「“認知症になったら終わり”と言う考えは
 間違っていた。
 世界は白黒ではなく、光と色に満ちていた。」

《BORDER=境界線》を超え
目の当たりにした世界。

胸に迫って来る、
その衝撃を咀嚼しながら会場を出ます。

町家の玄関で
初夏の萌えるような鮮やかな緑が
目に飛び込んで来ました。

でも…

そこにある日常は、
今までと同じようで、少し違って見えました。





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