見出し画像

レモンが光った渡り廊下

わすれられない勝負がある。

高3春、最後のインターハイに向けて
体育館を半面ずつ使う、
バレー部とバスケ部の主将。それが彼と私。

彼がスパイクを打つと仲間が掛け声をあげ、
コートの脇を通って彼は元の位置へ戻る。

私は私で、ディフェンスをした後、
ゴール下でリバウンドを取り、
ドリブルしながらコートの脇を通る。

隣り合わせのコートサイドは、
片想いの私の、一番大切な場所だった。

そしてついに、
練習帰りの下駄箱の前で、
私は彼に交際を申し込まれた。
嬉しくて全身が踊り狂った。

でも鬼監督は、選抜優勝のために
主将は恋をするなと私に命じた。

わずか半月の交際で私の恋は終わり

練習で歯を食いしばることと
ユーミンを聞いて泣く日だけが増えた。

体育館は、つらいことばっかりになって、
それを感づかれないように、
バレー部が隣にいる時ほど、
優勝優勝を連呼して私は仲間に喝を入れた。

合い間にそっと、隣を見ると、
私の存在など全く意中から消えた彼が、
鮮やかなスパイクを決め、
仲間とハイタッチして輝いていた。

別れてひと月。
悲しくて、なんの救いもない。

なんで?

そう思って、渡り廊下で
私は足元のピータイルを見ていた。

前髪から汗が滴り落ちてくる。
腕でぬぐっても、次々と汗が噴き出して、
一緒に涙がブワっと出そうになって、

だから、
渡り廊下の水道で顔を洗って
それをまた袖で拭いて、
ふと見ると、
向こうから外練習に向かう彼がくる。

いつも通り、私は彼の存在を無視する。
ああ、やだ、こっち来る・・・斜めにうつむく。

そしたら
オイって声がした。

え?って顔をあげたら、
何かが飛んできた。

差し込む日差しで目がまぶしかった。
けど、反射的に受けとったのは、
黄色いレモンだった。

ふりむくと、彼がこっちを向いて
がんばれって、そう言って
グランドに消えた。

逆光で一瞬消えたレモンは、
私の大切な黄色い魔球になった。

そして選抜は優勝し、
高校バスケの夏は終わった。

もみじの秋、高3だけで行く卒業登山で、
私は彼と一緒に山に登っておりた。

これが高校3年間の部活で
わたしだけがもらったVサインだ。

ここまで読んでくださってありがとうございました。私を支えてくれたユーミンを添えます。


この記事が参加している募集

部活の思い出

いただいた、あなたのお気持ちは、さらなる活動へのエネルギーとして大切に活かしていくことをお約束いたします。もしもオススメいただけたら幸いです。