見出し画像

西日に浮かぶ女子寮〜春

私の人生はちょっと変形気味です。
その始まりはここ。
学生3割、社会人7割の異色な女集団。
我が青春が面白かったのはココのせいもある。

某とんかつ屋は
自社でバイトする学生も入寮可と知り
私は徒歩5分で学校に行ける
この会社の寮
を選びました。

部屋は学生同士。
それ以外は社員と共同。
配属のバイト店は大阪の繁華街。
アベノ地下街、南海、ナンバ、京橋、梅田


寮に到着した日の夜、
バイト学生は茶の間に集合。
門限や決まりの訓示が始まる。
相撲部屋の親方みたいな寮母さんは、
仏像顔で長椅子に腰掛けていました。

そこに20歳位の女性が帰って来ました。

明るい茶髪の巻き髪を後ろで1つに結び、
クルっとした目、色白ポッチャリスカート
寮母さんは彼女を見ると閻魔になりました。

「あんた、今日遅番じゃろ」
「変わったんですぅ」
「変わったら変わった言わんといけんじゃろ」
「うわ、も〜またや、ええやん」
「食事作る人がおるのじゃから。急に帰っても食べるもんはない」
「いいもん、外で食べるから」
「そんな無駄はいけん!あくせく働いとるのにから、ここで食べなさい」
「だって、ない言うたやん」
「ないよ、あんたが言うて行かんからいけんのじゃろ」
「そやったら、どうすればええんよ、も〜いじわるババぁ!」
「また憎まれグチきいた!お茶漬けやろう思うたのにやらん!」
「あ、お茶漬けほしい。ごめんね、寮母さん」
「うるさい!いま学生しゃんと話しとるんよ!』
「あ、今年のコぉ?こんばんはぁ、難波だれ?」


私の同室の子が手を上げました。
「あ、うち一緒〜、よろしく〜じゃあね〜」

お姉さんはスリッパを鳴らし廊下の向こうへ。

寮母さんの訓戒再開です。
バイト店への通勤は当分
同店の社員と一緒に行くこと。
寮母さんにババぁと言ったのは
マミさんと言う人でした。

寮母さんは声を強くして言いました。

ここは男子寮もあるけんど、
いっさい出入りは禁止じゃから。
学生しゃんは心配いらん思うとるけど。
ロクでもないのがおるけ、
そんなもんに絶対かまわんこと。
破ったら出てってもらわにゃならんよ。
親御さんからお預かりしとる大事な子じゃけ。
きっちり守りんさい。ええね。

そこにマミさんが部屋着で来ました。

「マミちゃん、あんたもな、いけんよ」
「なにがぁ?」
「男にきぃつけなさいいうこと」
「またそれや、知らんもん、そんなん寮母さんに関係ないやろ」
「関係ないことあるかい、あんた」
「なんか恥ずかしいからもうええやん、お茶漬けちょうだい」

マミさんは両手をぷらぷらピグモンみたいにゆらしました。
「うるさいよぉ、この子は」
寮母さんは自分の部屋からお茶漬けのりを持ってきました。

部屋に戻った私たちはサラッと爆弾発言のマミさんに感動でした。
同室のチアキは面白い先輩で嬉しそう。
私はどんな人と一緒なのか気になりました。

パジャマに着替え、私たちは
リビングで記念写真を撮りました。
なぜ、その姿で撮ったか理由はわかりません。

覚えているのは写真を撮り終えた頃、
率直に言って顔はお多福、しかし後ろ姿は
オカッパを巻いてハネさせた髪、いわゆる
ベティちゃん似の人が戻った事です。

寮母さんが声をかけました。
「おかえり。Hさん、明日から学生しゃん頼むわな、この子じゃけ」
そう言って、私が名前を呼ばれました。

「よろしく。わからんことあったら聞いてな。 ほな、明日な」

ニコリとした細目のマスカラが重たそうで、
でも声がしっとり綺麗で、
洋画の吹き替えならばヒロインです。
エースを狙えのお蝶夫人です。ああ、
顔を見ない方がいいパターンと思いました。
ゆっくり歩く姿がどこか変なのですが理由はわからない。

次の日、私たちは一緒に
地下鉄御堂筋線に乗りました。
たまにHさんが私の出身を聞いたり、
大阪は初めてか、学校はいつから始まるのかと聞いてくれる声がやはり、
ヒロイン級の美声。しっとりしてるのでした。

数日後、寮母さんがこっそり教えてくれました。
梅田のグランドビル店は他の店とは格が違う。
だから梅田は配属する人を選んどるんよ、と。

面接もせず遠方から書類一つで入る私を選ぶ理由がないでしょうし、
お多福ベティさんを見ると、寮母さんの話は甚だ疑問でした。

4月。阪急グランドビル28階。
スモックか春霞が大阪の空をたゆたい、
窓の外一帯の空間がサクラ色っぽく、そこから
造幣局の桜並木を眺める花見の景色は店の売り。

Nさんの美声は店でも美しく、
お客様やセット場に朗らかに響きました。
客席の合間を歩く姿にやはり
何か異を感じていたら
ある時、はたと気がついた。
胸を突き出し、
案外美しい足がゆっくり後から付いてくる。
左右の客席を見つつ首をふって
乱れもしないパーマヘアを整える。
。。。フェロモンが歩いている

頭ガチガチの私と対照的な梅田組ふたり。
私はやがて、疎ましがられるようになるのですが、それはまた。
愛すべき私の大阪暮らしでした。

最後までお読みいただきありがとうございます。



この記事が参加している募集

新生活をたのしく

いただいた、あなたのお気持ちは、さらなる活動へのエネルギーとして大切に活かしていくことをお約束いたします。もしもオススメいただけたら幸いです。