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待ち合わせの相手

ネットで最近、やりとりしている人がいる。

ハンドルネームは「も」さん。以前、女性限定のトークイベントに参加した時に同じ会場にいた人で、共通の趣味は酒場巡り。留学生だそうなので、おそらく同世代。行動範囲も似ているので、今度日の出町で一緒に飲みましょうということになった。


当日を迎え待ち合わせ場所に着いたが、「も」さんはまだ来ていないようであった。

五分過ぎた。


DMを見るとメッセージが来ている。

「もう着いてます!黒いコートですか?」

「そうです!もさんどこいらっしゃいますか」

「すみませんわかりにくくて。足下です!」


え、と思い足下を見ると、平仮名の「も」が落ちていた。

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意味がわからず、しばらくその「も」を見ていたが、急に怖くなった。


まさかと思いながら恐る恐るDMを再度見ると

「『も』です〜!」

と送られてきていた。

「え、どうしよう」

と思わず声が出た。


流石に話しかける勇気はなく、

「どうしたらいいでしょう」

とまたDMを送った。


DMが届いた。

「拾ってください!笑」


「も」さんが、まさか平仮名の「も」そのものだとは思わなかった。留学生と言っていたがどういうことなのだろう。宇宙人?もしかして宇宙人だろうか。「も」さん、一体何なのだろう。何者?拾う?ここまでどうやって来たのだろう。どうやって酒を飲むのだろう。そもそもどうやってツイートしているんだろう。


私は突然訪れた非日常の世界に恐怖を感じながらも、手を伸ばしその平仮名を拾おうとした。


「すみません遅れて!」


後ろから声をかけられた。

「『も』です!田吾作さんですよね??」

「あ、そうです・・あれ?」

そこには同世代くらいの女性が居た。赤いコートの似合う可愛らしい人だ。海外の出身だとわかる訛りがあった。


振り返って足下を見たが、そこにはもう何も落ちていなかった。


「あれ・・・、田吾作さんもうお酒、飲んでたんですね?」

「ああ、そうなんですよ初対面の人緊張しちゃうんで・・笑、 すみません」

「いいですよ笑、行きましょう行きましょう。ちょっと歩きます。いいですか?」


私は飲み干したストロング缶の新作を潰し、駅のゴミ箱へ捨てた。


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