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再会

夜勤の長い一晩が明けて、駅までの道を歩いているといつもの派手なゴミ捨て場に見覚えのあるぬいぐるみが居た。

たぬきのぬいぐるみ。

そうそう、どこにでも売っているものではないはずだ。彼に間違いなかった。

ぽんすけ。

僕が4歳の時、そのぬいぐるみは叔父の彼女がプレゼントしてくれたものだった。

僕はその人とは二回だけ会ったことがあって、ぬいぐるみを貰ったのは最初に会った時だった。

叔父が遊園地のストラックアウトで高得点を出して手に入れた景品だった。それを彼女へプレゼントしたのだ。

叔父と歳の離れた彼女はすごく大切そうにそのたぬきのぬいぐるみを抱いていたのだけれど、僕はそれをすごく羨ましそうに見た。

夕飯にも手をつけず、ただそのたぬきのぬいぐるみばかり見ていた。

その人は「いいよ、欲しいんでしょ、あげる」と言って僕にそれを渡して、「この子は、ぽんすけだよ」と言った。

叔父はよく恋人の変わる人で、その人ともいつの間にか別れてしまったようだった。

僕はぽんすけを寝る時は必ず抱きしめ、旅行にも連れて行き、他人には触らせず、すごく大切にしていたのだけれど、引っ越しを繰り返しているうちにいつの間にか無くしてしまっていたのだ。そのことが妙に気になったのは大学生の頃だったが、ここ最近は思い出すこともなかった。

そのぽんすけが、いまここに、目の前に居る。

僕があんまり立ち止まってゴミ捨て場を見つめているので通行人が訝しげにこちらを見て避けていった。

ゴミ捨て場の前に住んでいるお婆さんが腰を信じられないくらいに丸めて打ち水をしていた。

「お婆さん、このぬいぐるみ、昨日まで居ませんでしたよね、どうしたんですか?」

しかし、お婆さんは聞こえなかったようで答えずそのまま家へ戻ってしまった。

ぽんすけ、、、

僕はぽんすけに触ろうとして、手を伸ばした。

次の瞬間には、僕はゴミの花に囲まれていた。くたりと体は動かない。
通行人は僕を見ることなく目の前をただ通り過ぎていった。

柔らかい体に頭を委ねて、ただそこに座り続けるしかなかった。何もすることはできなかった。

それが僕は妙に性に合ってるような気がして、なんだかほっとしたまま、そこで何かを待ち続けた。

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