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経営者のDX認知率が44%に、経産省の強力な優遇措置などが奏功か

シェアボスが2021年9月に行った調査にて、国内の会社経営者・役員における「デジタルトランスフォーメーション」という単語の認知率は44.11%に達しました。

2020年5月調査時点での20.38%から2倍以上に増加しており、企業経営陣における認知は急速に拡大しています。

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経産省主導の制作が奏功か

企業経営者にDXが注目されるようになった理由としては、経済産業省が2020年からDX銘柄として税制優遇を含む推進措置をとったことが影響していると考えられます。

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出典 : 経済産業省

この優遇措置は大企業のみならず、中小企業や行政機関も含む広範なもので、コロナをピンチではなくチャンスと捉え、リモートワークやデジタル技術の導入による効率化・生産性向上を強く後押しするものです。

個人的に気になったものをいくつかピックアップします。

AI/データ/クラウドなどを対象とした研究開発の促進

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データ・AI活用・クラウドといった広範な領域における優遇措置は、控除上限の引き上げや控除率の引き上げや適応範囲の拡大がなされました。

これは事業会社だけでなく、データやクラウドをビジネスとして提供するソリューションベンダーにとっても市場拡大・ビジネスポテンシャルの向上という意味でポジティブな影響を与えると考えられます。

M&Aによるイノベーション取り込みの円滑化

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また、税制優遇とは少し違いますが株式交付制度を用いたM&Aの株式譲渡税課税タイミングの繰延制度が新設されました。

大企業におけるDXの課題に、そもそも推進するデジタル人材の不足や、デジタル推進を外部ベンダーに丸投げしていることによる固定化された情報格差が存在していました。

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このようなジレンマを解消する上で、短期的な成果が見えやすいM&Aはイノベーションの取り込みと人材不足解消、カルチャーの変革などを低いリスクで有効であると考えられます。

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大企業がイノベーションを獲得するための選択肢ですが、M&Aを苦手とする日本企業で主流だった事業開発やアクセラレーションは、成功した場合のリターンが大きい一方で、時間がかかる上にリスクも高く、費用対効果が読みづらいというデメリットもありました。

デジタルトランスフォーメーションの選択肢としてM&Aがもっと認識され、活性化することはスタートアップ市場全体も含めた活性化につながると期待されます。

デジタル人材獲得に向けた優遇措置の拡大

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DX・経営改革に向けた人材採用に向けた税控除の適用範囲も拡大しています。

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デジタル人材は、高まり続ける需要に対して人口減少による人材不足が人口統計より危惧されており、これまで日本企業が行ってきたような新卒一括採用・終身雇用を前提とした育成では時間がかかる上、前述のようなリーダー層・中堅層が不足するという抜本的な問題を解決できません。

中途採用も含めた人材獲得に優遇措置がつくことは、デジタル人材の流動性を高め事業会社のベンダー依存度を下げる上でも有効であると考えます。

また、流動性が高まることでデジタル人材がより自身の市場価値を自覚し、自らスキルアップに励むことで潜在的には国内人材の能力底上げにつながることも期待されます。

中小企業のデジタル化促進

中小企業向けのデジタル化促進施策が新設されたり、拡大している点も国内企業全体の活性化につながると考えられます。

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M&A、雇用、ソフトウェアも含む設備投資に対してそれぞれ優遇措置が新設・拡大しています。

筆者の個人的な感覚からも、資金繰りに余裕のない中小企業は目の前の雇用を守るため、長期的な視野に立ったデジタル投資の優先度を下げざるを得ない状況になっています。

コロナ禍もあいまって、そのような苦しい状況にある中小企業にとって、リスクの低減やソフトウェア購入に対して優遇措置が取られることは現状打破のために大きな後押しとなるでしょう。

押印義務の見直し

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細かい話に感じられますが、行政サイドから押印義務の見直しが推進されるのも国内商習慣をトップダウンで変えていくために大きな変革であると感じます。

ハンコ文化については、電子承認技術などが急速に進歩する一方で、大企業の商習慣やビジネスマン個々人の現状維持バイアスなど潜在的な問題でなかなかスタンダードにならないという課題がありました。

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行政レベルでこのような音頭が取られることにより、企業の意識が変化し、業界全体の後押しになることが期待されます。

その他

取り上げた以外でも、国際商取引やエネルギー関連、日本の基幹産業である自動車関連など、様々な領域でデジタル化推進を後押しする優遇措置が取られています。

終わりに

今回は国内経営者におけるDXの認知率向上を切り口に、背景となる政策について取り上げてみました。

先日の記事でも書いたとおり、「DX」という曖昧なワードと近年急速に求められる変革のプレッシャーに戸惑っている企業経営者は多いことかと思います。

DXレポートでも「デジタル変革ができない企業は時代に取り残される可能性」などの強いワードが示されていますが、バズワードに振り回されず自社のDXのあるべき姿をしっかりと見つめ、適切な投資判断ができる企業は文字通り「ピンチをチャンスに変える」ことができるでしょう。

米国はスタートアップエコシステムをベースとしたイノベーションがGAFAのような急成長企業を生み出し成長を遂げました。一方で、日本では高度経済成長期に培ったアセットにレバレッジをかけることでより成長するといった大企業主導の異なる成長戦略が有効であるとも言われています。

国家でも、企業でも、うまく言った事例を表面的に真似るのではなく、自社の強みやアセットをしっかりと見つめ、自分たちなりの成長戦略を描くというのが基本なのだと思います。


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