クマゼミ死ぬほど追いかけ回した話。

今回は受験の話。

今は、こうやって高収入&高学歴のエリート向け、文化レベル”鬼”のブログを書いたりしてんだけど、高校のときは完全に落ちこぼれてた。

まぁ、高2まで、机の下でPSPでウイニングイレブンしたり、システム英単語のカバーにジョジョの奇妙な冒険を仕込んで読んでいたり、授業をまともに受けていなかったからね。多分、 ベンゼンの環状構造式書いた数よりも、アドリアーノでミドルシュート決めた数の方が多いもん。そんでもって、PSPもジョジョの奇妙な冒険も先生に見つかって没収された。三者面談のたびに没収された漫画やゲームが返ってきて、おかん(呼称:ウヴォー)からビックバンインパクト食らってた。

高3になってから焦っても手遅れってやつ。真剣に授業を聞いてみても、ちんぷんかんぷん。理系なのに数学が特にダメだったっぽい。中学まで仲良しだった点Aが、複素数平面とかいう奴と仲良しになって「虚数2+3i」とかよくわからん座標に行ってしまったあたりで、完全に置き去りにされたよね。虚数ってなに?数字がホロウ化してる?3の隣についてるiって?え?斬魄刀?っていうくらいには高3のときでもBLEACH読んでた。

そんな感じで、高3の夏前くらいに、模試の結果を見ながら、担任と面談したんだけど、そんときに進められたのがAO入試ってやつ。話を聞いてみると、自分が高校の時に研究した「生物」もしくは「化学」の研究結果を提出して、その成果を教授の前で発表する。その試験をパスしたあとセンター試験の指定科目で7割を越えれば合格というもの。これ聞かされた時、これならいけそう!ってなんの根拠も無しにガッツポーズしたもんね。その足で生物の先生(あだ名はウッシー)に相談しにいった。

ウッシーにAO入試の話をした時、先生はまず僕にやる気があるのかを問いてきた。「この入試を受けてくるのは大抵、生物部に所属していた生徒。部活ですでに研究していることを持ってくる。それを君は3ヶ月ほどで用意する必要があるんだよ」って。

いやいや、ウッシー!やるよ。やるしかないのよ、こちとら、賭博黙示録カイジの読みすぎで、自分の人生張りたくてしかたないのよ。倍プッシュよ!倍プッシュ!いつでもエスポワール号に乗る準備できとるわいって。

そんな感じで、スラムダンクの豊玉高校の北野さんが「ラン&ガン」語る時くらいの熱意で、意気込み伝えると、ウッシーも「おぉ、そうか!」みたいな感じになって、研究テーマ決めてくれるってなって。3日後くらいにウッシーが研究テーマ考えてきてくれて、そこから研究始めようという方針になった。最高じゃん。ラン&ガンや!ラン&ガンで受験したるんや!って。豊玉魂に火がついたよね。

3日後、ルンルン気分でウッシーのとこに研究テーマ聞きに行った。受験戦争から解放された気分で行ってたから、もうねスキップしてたわ、多分。職員室もコービー・ブライアントばりのフェイダウェイの動きで入っていってたわ、多分。

職員室でウッシー見つけて、「ウッシー!研究テーマなんでしょう!なんでもやりまっせ!犬でも、猫でも、うさぎでも研究しまっせ!」ってな感じで話しかけたら、ウッシーから一言。「クマゼミ」って返ってきた。

え?なになに。クマゼミ???犬とか猫とか哺乳類、、じゃなくて。昆虫?もうこっちは花畑牧場行って美味しい生キャラメルの作り方を研究する準備できてたんですけど。田中義剛と牧場物語始めようかなって思ってたんだけどってなって。ウッシーが丁寧にクマゼミにした理由を説明してくれた。

「動物や微生物の研究は実験器具が必要なので難しい」「教授に興味を持ってもらうテーマにしたほうがいい」「クマゼミが今、大量発生しているニュースがよく出てるから、テーマとして教授に興味を持ってもらいやすい」「あと、自分が昆虫が好き」以上の理由で決めたらしい。いやいや、もう絶対最後じゃん。最後が決め手じゃん。そういやウッシー、授業中も昆虫の話とかよくしてたわーって。

正直、虫は結構苦手だったけど、背に腹は変えられん、クマゼミで天下とったるわい!ってな感じで。次の日から、クマゼミを追いかけ回す夏が始まった。

進研ゼミや代ゼミで「夏は受験の天王山だ」みたいなことが多分言われてるけど、同じゼミでもクマゼミ界はそれじゃ通用しない。「夏はクマゼミ採集の天王山だ」。これだよ。受験勉強なんてしてるやつは、クマゼミ界じゃ通用しないよ。だって、クマゼミ採らないと大学行けないからね。クマゼミ or DIE。もう、クマゼミ採集初日からこういうマインドだった。僕は、青チャートとシステム英単語をカバンに入れるのをやめて、代わりに虫かごとノギスをカバンに入れ、虫取り網を持って、学校に行った。

学校行ったら、友達はみんな笑ってた。あいつ、クマゼミで大学行くらしいぞって。文系のクラスのやつらもわざわざこっちの教室まで来ていじりに来てた。でもね。そんなの関係ない。こっちは豊玉高校の北野さんマインド入ってるから。

”わいの高校生活はラン&ガンや。高校のたった3年間でできることなんか限られとる。全部やろう思てもムリや。そやから僕の受験は、クマゼミ8にウイイレ2くらいのもんや。そらあ批判もあるけどな。そんでええのや。”

からかいに来た友達には多分こういうこと言って返してたわ。

ちなみに、研究はクマゼミの体長を調べるって単純なもの。クマゼミの体長ってだいたい4〜5センチくらいなんだけど、大量発生している年の個体の体長ってどんなもんなのか、あと夏の初めにでてくるやつと終わりにでてくる個体で体長が変わるのかって研究。必要なものはとにもかくにもサンプル数。クマゼミを制すものが受験を制すってこと。単純明快☆

学校がある日は、適当な時間に1〜2時間ほど抜け出して、近くの公園でセミ採って返ってくる。土日はボーナスタイム。捕まえ放題。24時間フィーバータイム。「CR花の慶次」のテーマ曲「よっしゃあ漢唄」が流れてる。もうね、慶次が松風(愛馬)に乗りながら槍持って突撃してるシーンを完璧に再現してた自信あるわ。ママチャリに乗りながら虫とり網持って爆走してる高校3年生は、もうどっからどうみても傾奇者。

クマゼミってでかい分動き遅いから、比較的捕まえやすいセミなのよ。同じ木にアホみたいに何匹も止まってるし。だから捕まえるのはそこまで苦労しない。一番の問題はとにかくうるさいこと。そこが問題。虫かごに入れても鳴き続けてんの。ジィジィジィジィ!!ジィジィジィジィ!!って。ずっと少女時代の「Gee」のサビ流してんのかって感じ。パステルネイル ナチュラルメイク ゆるふわカール 恋ハセヨって感じ。

採集したあとは、もう虫かごがちっちゃいラジカセみたいになってる。30匹くらい詰め込んだ虫かごはほんとにうるさい。なんなら、そこらへんで浜崎あゆみの歌を爆音でかけてるヤンキーと変わらないくらい迷惑。

そうしてると、出てくんのが公園にいる正義感の強い子連れの主婦ね。「あんた、それ1週間で死ぬねんで。逃したりぃや!」とド正論ぶっこんでくる。いや、こっちもクマゼミ捕まえまくってる理由を説明したいけど、ぜったい理解してもらえないから説明できないのよ。「大学行くのに、とにかくクマゼミが必要で、要するにクマゼミ or DIEって状況なんです!」説明して信じてくれる初対面の主婦いる?そういうときはね、もうただただ謝る。すみませんって。虫かごに大量のクマゼミ詰め込んで、炎天下の中汗かきながら必死に謝る。悪いことはしてないと思う。けど謝る。もうね、これが一番つらかった。

僕は受験のため、大学に行くために、なぜか必死にクマゼミを採っている。そしてそれに遭遇した主婦は激怒している。必ず、かの邪智暴虐のクマゼミ採りの若者を除かなければならぬと決意している。こんなストーリー展開、太宰治でも書けぬ。絶対そう思う。

そういう逆境を乗り越えて、多分3ヶ月で300〜400匹くらい捕まえた。あとは、捕まえたクマゼミの体長の集計をとる作業だけ。集計とってみて、まさかまさかの衝撃的事実。ほぼ全ての個体が4〜5センチくらいだし、時期によってもほとんど変化なし。クマゼミ、まさかのめっちゃ規格統一されてた。たぶんUSBの規格の方がブレあるってくらい、ほぼどの個体も一緒。

私が無能なばかりに・・・!!ただ、いたずらにセミを死なせ・・・!!ヤツらの正体を・・・!!突き止めることができませんでした!!なんの成果も!!得られませんでした!!

やだ、進撃の巨人第1巻の調査兵団キース団長のセリフ、ほぼそのまま使える。。泣きそう。。。そんな状態で、調査結果をウッシーに告げた。

でも、ウッシーはめっちゃ優しかった。「変化が出ないという答えも間違いなく1つの答え」的なこと言ってくれて、そっからウッシーが神の手腕で、めちゃくちゃいい感じの研究レポートにしてくれたのよ。もうね、そんときはほんとに神に見えた。

そんな感じでレポート出したらまさかの”書類審査合格”。次は教授の前でプレゼンだって。もう、試験受かる気しかしなかった。ライバルたちは3年間エアコンが効いた部屋で顕微鏡とか覗いているだけだろ?こちとら3ヶ月でどれだけ汗流したと思ってんの?どれだけHARUTAの革靴擦り減らしたと思ってんの?って外回りばっかりやってる現場主義の営業マンが持ってそうな自信だけはあった。

試験当日はポスター形式で発表したんだけど、面接官だった教授も結構興味深々で聞いてくれた。発表中にわかったんだけど、どうやら、この教授も昆虫好きだったみたい。ここにもおったわ!昆虫好きが!

研究に対する教授からの質問は、おおむねウッシーが事前に考えてくれた想定問答と、クマゼミの基本知識はウィキペディア見ながら全部頭に叩き込んだおかげで、それっぽく返すことができた。むしろ、「研究で調査を進めるにあたり、一番苦労したことはなんですか?」って質問してきたときなんて、「公園で知らない主婦にクマゼミの命の尊さを説かれたことです」って返したら、教授腹抱えて笑ってた。この勝負、もらったな。そう思ってた。

教授が退出したあと、他の受験生とポスターを発表しあう時間を与えられたんだけど、そこで完全に自分の認識が甘かったことに気づいたんだよね。他の子の発表内容がすごすぎたもん。同じ生物分野の研究で受験していた生徒の発表が「野生のメダカの養殖のメダカの遺伝子構成の違いについて」とかで、使っている機材がなんか名前がよくわからんもんばっか並べられてたし、意味わからん実験方法とかが記載されてた。こちとら使用機材「虫とり網」「虫かご」「ノギス」の3点セットのじゃーい!研究レポートは小学5年生でも読める用語しかはいっとらんわーい!となって、ここで完全に自分が場違いであることを認識したわ。

あぁー、もうこいつらのこと完全になめてた。どうせ「ミドリムシ、点描で書いてみた」とか「プレパラート50枚一気に割ってみた」とか、なんなら「BTB溶液、一気飲みしてみた」みたいなクオリティだと思ってたけど、全然違った。

一人だけ、発表内容かぶいてたら、みんなめちゃくちゃ真面目なことを金と時間かけて発表してきたってたわけ。きっつー。え、むしろなんでこの内容で書類審査、僕通ってたの?ってなった。もうね、半分酸欠。だれか、水上置換法で酸素持ってきてつって。

そのあと、家に試験結果が届いて、案の定落ちてた。そこから、割と普通に勉強しはじめて、地方の国立大学行って、卒業して、右脚折ったり、ポリープなったり、うんこ漏らしたり、同棲してた元カノに幸せの差を見せつけられたりしてるってわけですわな。

あれぇ…?クマゼミより、大きな声で泣けそうな気がするんですけど。

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