見出し画像

【ARS ELECTRONICA報告】#2 作品:Cyber Arts 2019, Computer Animation 部門

見てきた作品の紹介と、作品を見て考えたこと。#2はCyber Arts 2019, Computer Animation 部門の受賞作品から、自分が気になったものについて。公式ダウンロードページよりカタログをダウンロードできます。

ARS ELECTRONICA FESTIVALについてはこちら

Golden Nica 2019 : Manic VR

双極性障害(躁鬱障害)の人が感じている世界をVR映像で表現した作品。
双極性障害は、感情が高まり幸せな気持ちになるとき(躁)と、落ち込んでとても不安な気持ちになるとき(鬱)が交互に現れる精神障害。
作者の家族が双極性障害を患っており、実際のボイスメールや伝えられた体験をもとに製作された。躁鬱の気持ちの変化を、ルームスケール・リアルタイムで体験できるVR作品。

http://archive.aec.at/prix/showmode/62297/

###

精神障害は、本人以外は理解できないことも多く、本人も苦しみをうまく他人に説明できない。その感情の起伏を、VRで視覚・聴覚イメージを共有することで他人に伝える。

VRというとエンタテインメントや技術トレーニングのイメージがあるが、Manic VRでは他者に感覚を共有するために用いている。コントローラと頭の動きによる入力と、視覚と聴覚によるフィードバックを持つVRは、人の感覚の重要な箇所をインタフェース化できるデバイス。

VRデバイスを用いて、Manic VRのように、他者が見ているもの、感じていることを体験したり、「Home – A VR Spacewalk」のように貴重な経験を疑似体験することもできる。例えば子供やお年寄り、身障者の状況になって、施設内を歩いたり道具を使ってみたりと、他者の視点でのユーザビリティテストができる?

あらゆる感覚を共有できるようになったときに、「生の」体験の価値はどうなる?旅行やショッピングなど、移動したり見たりすることは今でもVRで疑似体験できる。ブランド製品やアクティビティのように、実際に持っている/体験した経験が価値になる?コピーではない、オリジナルの経験として。


Award of Distinction : Strings

ドット絵のアニメーション作品。オンラインRPGゲームの世界で冒険する男の子のキャラクター(アバター)が、突然いなくなった仲間の女の子(S・H・E)を探して旅をする。

http://archive.aec.at/prix/showmode/61640/

###

作中の会話では、人間のプレイヤーは英語で、S・H・Eはコンピュータの言語で、それぞれの思いを伝えようとする。プレイヤーはS・H・Eから受け取ったメッセージをどうにか解釈しようとする。

人間はコンピュータプログラムに対して親密さを感じることができる?

あるものが「意志を持っている」と感じる要素は不確定要素があること?人間とロボットの大きな違いは、人間はエラーを起こすこと。エラーによって予想外の損害が発生することもあれば、新しいものやアイデアが生まれたりもする。エラーと向き合うことで人は進化する。

岡田美智男先生の「弱いロボット」を「かわいい」「助けてあげたい」と感じるのは、ロボットだけど不安定な要素を持っているため。見た目や動き、間のとりかた、人に対するインタラクション、など。(参考:ICD-LAB

もし「不確定要素を持つコンピュータ」が日常になったとき、人間らしさ、とは?


Honorary Mention : Kids

Michael Freiと Mario von Rickenbachによるインタラクティブな短編アニメーション。群集の動きをテーマとしており、プレイヤーが一人を操作すると、周りのたくさんの人が逃げたり、ついてきたり、動きをマネしたりする。

http://archive.aec.at/prix/showmode/61911/

私たちはどのように、自分が周りの人と同じであると定義しているのか。誰が群集をコントロールしているのか。もしそれが間違った方向に向かっていたら?個の終わり/群の始まりはどこにある?何を選択して、何を強制されているのか。(descriptionより)

###

群集の動きがリアルに感じる。人と人の距離の取り方や、走る人が方向転換する動作、動物の体内のような管から出てくる場面など。

群集を感じる要素の一つは模倣行動だと思う。模倣行動は人間の生態の一つで、子供が親の行動を真似したり、仲良くなりたい相手と同じ行動をとってみたりする。模倣することで、相手の体験や感情をシミュレートし、共感しようとする。

何かと何かがインタラクションしていると、人はそこに意図を感じる、意味を見出す。(参考:Talking Eye)Kidsでは人と人の関係がプログラムされており、プレイヤーの行動に影響されて行動している。そこに意図・生き物らしさを感じる

動きのずれや波及のスピードも。模倣は、他者が動く、視覚や聴覚で認識する、反応する、それをまた別の人が認識する、の繰り返し。人間がコンピュータを操作し、心地よいと感じるために、人の反応の間を真似させる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?