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読書遍歴と自動車趣味とフィッシュアンドチップス

多分あんまりアピールしたことはないが、池田は緩い英国好き。多分その原点は小学生の時に学校の図書館で借りて読んだコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズだと思う。なんというか地名や通りの名前に惹かれるものがあった。ただこの時の英国への興味は一度心の奥にしまわれる。

多分、現在の池田を形成する一番大きな要素は文章好きで、幼少時から「あんたはお菓子の箱の裏だろうが、服のタグだろうが、文字が書いてあるとなんでも読むのね」と母に呆れられていた。

小学生になると、ごく自然な流れとして読書好きになる。だから図書館は学校だけでなく地域の図書館もよく利用したし、父親もよく買い与えてくれた。父が適当に見繕って買ってくるのはポプラ社の「子どもの伝記全集」。

学校の図書館では江戸川乱歩からモーリス・ルブラン、コナン・ドイルという、少年向けミステリーの流れ、地域の図書館ではジュール・ベルヌ、アイザック・アシモフ、アーサー・C・クラーク、ロバート・シェクリイあたりのジュブナイルとSFのあたりを彷徨って読んでいた。今にして思うと、多分、当時実家で取っていた毎日新聞の日曜版に連載されていた石川喬司の「IFの世界」に引っ張られて、福島正実の影響が大きかったのではないかと思っている。

本読みではあるけれど、基本路線としてあんまり純文学志向ではなくエンターテインメント志向。中学生以降は、角川ビジネスにまんまと乗せられた。横溝正史、森村誠一、大藪春彦、片岡義男と角川書店のあのビルの鉄筋の1本くらいはボクの財布から出ているというくらい貢がされた。当時、本屋の文庫本コーナーに並んでいるこれらの作家の本は全部読破済みだった。

この時の大藪春彦と片岡義男からクルマ&バイク趣味に入る。母方の祖母の証言によれば、すでに幼少期にはすれ違うクルマの名前を全部言ったとのことなので、多分元々素養はあったのだろう。読書が内なるどこかで眠っていた種子を発芽させる要因になったのではないかと思う。

発芽した自動車趣味は大藪春彦の影響でスカイラインGT-Rに始まって少しずつ趣味性を高めていき、気づいた時には英国車好きに収まっていた。時系列は少し飛ぶが、後にネコ・パブリッシングに入社して、24歳でケーターハム・スーパーセブンを買ったのをきっかけに、こっちも読書歴のコナン・ドイルと化学変化を起こして、その先に英国好きへと続く道が待っていたのである。


英国を代表するスポーツカー「オースチン・ヒーリー・スプライト」。トヨタ博物館にて筆者撮影

ちなみに社会人になってからの読書もいわゆるエンタメ王道で、歴史小説なら山岡荘八、吉川英治、司馬遼太郎、津本陽、浅田次郎と、これもよく考えるとポプラ社の偉人伝の影響が大きい気がする。池波正太郎とか五味康祐とか柴田錬三郎とか永井路子とかの市井の人々を多く描く作家はあまり読んでいないような気がするのだ。三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。

実は10代の終わりから20代の始めにかけて、文学系同人誌とかに書いていたりしたが、そっちの話に飛ぶと全然先に進まないのだが、隠しているわけではないので触れるだけ触れた。

読書は、冒険小説やミステリー、エッセイ、評論、ラノベと広がって行き、四十代半ばで老眼になると、読書習慣がバッタリ途絶える。そこからはもう読むより書く方にスイッチして行くのだ。書くには色々調べるので、読む方法は紙から、検索性の高いwebになって、作品を1冊読むと言うよりは、必要な情報を集める読み方に変わって行ったのだと思う。

読書の話はここまで、ようやくフィッシュアンドチップスの話に移るのだが、本の話の締めくくりとしてせっかくなのでおすすめの本を3作品だけ挙げておこう。

信長 (新潮文庫) 文庫 – 1999/11/1 秋山 駿 (著)
新潮版は絶版だが、朝日文庫版が2022年に再販されている。

蒼穹の昴全4巻セット (講談社文庫) 文庫 – 2010/3/4 浅田次郎 (著)

裂けて海峡 (新潮文庫) 文庫 – 2004/8/28 志水 辰夫 (著)

ということで、読書を下敷きにしつつ、クルマ好き、英国好きの池田が出来上がって行った。

英国好きに関しては林望の影響は結構大きいかもしれない。英国を代表する食べ物と言えば、まあフィッシュアンドチップスだろう。個人的にはランカシャーホットポットを挙げたいが、あれは日本で食える店がない。というかむしろあったら教えて欲しい。

さて、例によって原稿を書き上げた朝、無性にフィッシュアンドチップスが食いたくなった。幸いなことにフィッシュアンドチップスなら都内に食える店はいくつもある。んで食い道楽仲間のSNSに「フィッシュアンドチップスが食いたい」と魂の叫びを残したら、仲間のひとりがビッグニュースを提供してくれた。「松屋銀座の英国フェアでフィッシュ&チップス出てるみたいですよー」。

調べてみると、全英フィッシュアンドチップス大会で優勝した『フィッシュシティ』という店が出店しているらしい。これは行かねばと、徹夜明けのまま銀座へ。幸いなことにウチから電車で30分。ただし8階催事場での開催とのことなので、多分イートインスペースは期待できない。実際はフェア全体で共用の椅子なしの高い丸テーブルが2つ3つあったにはあったが、あれをあてにして行くのはあまりにも運任せ。多分相当待つだろうし、食っている間も後ろの人にじっと見られる。なので持ち帰った。せっかくの揚げたてをもったいないが30分後ならまだほんのりと暖かいだろう。

銀座松屋の8階催事場。到着時は1人待ちでちょっと心配するくらいだったが、揚げ上がりを待つ間にそこそこの行列ができていた。しかしこのキャプションの仕様はセンター合わせが気持ち悪い。ちゃんと字詰めが変えられる仕様にならないものか

値段は正直お高い。レギュラーとラージがあるがラージだと2160円。レギュラーでも1836円もする。言ってはなんだが英国では決して高級な料理ではない。そもそもで言えば皿に盛る料理ですらない。The Sunとかの安っぽいタブロイド紙をクルクルっとメガホンの様に丸めたところにフライドポテトをザラザラっと雑に流し込んで、上から巨大な魚のフライをブッ刺し、立ち食いかせいぜいそこらのベンチで食うもの。

イメージとしては日本で言うたこ焼き程度の料理である。ちなみに魚はハドックかコッドでどっちも要するにタラ科の魚。白身魚のフライなのだ。ちなみに今回提供されているのはハドックで説明書きには「北海の大西洋タラ」と書かれていた。

フィッシュアンドチップスも偉くなったもんよのう

要するにちょっとお上品とは言い難く、大衆的で下世話な食べ物。だからThe Sunとかが似合うわけで、日本なら東スポか、あるいはデイリースポーツかな。いや最近のクオリティだとむしろ日経の方がぴったりくるかも。下品さにおいて。

さて、皮肉はそこそこにして、立派な箱に入った揚げたてのフィッシュアンドチップス。食ってみたらこれが美味い。タラの身はしっとりホクホクしてて、たぶん下味は付けているのだろうけれど、舌の感覚としては魚の自然な塩味と甘みがあって、衣の具合も良い。結果として見事な仕上がりだ。ちなみに衣はテイクアウトで30分後なのでサクサクとはいかないが、味をかなり薄めにしたケンタッキーのテイクアウト30分後のチキンの衣くらいのテクスチャー。

揚げ物として具材と衣の全体に調和が取れている。衣の存在感が強すぎないからタラの味が引き立つし、かと言って存在意義がないほどではなくきちんと脇役を演じている。そしてそこそこ大きな揚げ物なのだけれど、油でウェッとならない。全体に揚げ物として大事なそれなりのさっぱり感がある。

付属のタルタルソースもなかなか良い。正統派はソルトアンドビネガーなので、賞を取ったような店なのにタルタルが付いているというのは少し意外だったのだけれど、今回のタルタルは良しとする。

味がとんがっていない。酸味の強いキユーピーと比べると味の素のマヨネーズは酸味抑えめだが、それと比べてもまろやかなマヨネーズがベースになっている。ピクルスも味が弱め。とんかつにソースの時の様な味付けのシーズニングというよりは、コクを足す役割を果たしていた。ちなみに付属には6つ割りのレモンとビネガーの小袋。

ラージというほどデカいかと言われるとまあ日本サイズだが、これはラージを選んで正解。むしろ2つ食えといわれたら多分食える。ただジャガイモは2人前は要らない。こっちは揚げ置きだったので、ヘニャっとしていて油感が強かった。なのにこちらに関しては日本サイズというには量が多い。

ということでこの英国フェア27日月曜日までの開催。最終日は撤退のため早仕舞いなので要注意。誰かが行きたいと言ったらもう一度行くかもしれない。

ちなみに当時フェアで買ったのは、他に全英パイ協会のアワードでチャンピオンになったというブルックルビーズ・パイのパイを3種。チーズ&ポテト(756円)、スモールモー&ブルー(羊肉とブルーチーズ)(837円)、ビーフミンス&チェダーチーズ(837円)で。ミンスパイは美味かった。これはも一度買ってもいい。他は言うまい。

パイは英国を代表する食べ物なのにチャンピオンがこの程度でいいのかなぁ

もうひとつ、なんか会場の雰囲気に呑まれて思わず買ったのがヘブリディアンスモークハウスのスモークサーモン。中でもウィスキー樽で作ったチップで燻したピートスモークドサーモン(125g1990円)の美味さよ。食い終わると口の周りが鮭の脂でベタベタになるくらいの脂の乗り。少し強めだけれど過ぎない塩味と香り。サーモンの風味とスモーキーな香り。幸いなことにこれは三越とかの通販でも買える。ただ送料込みのせいなのか値段は3000円くらいする。日本に代理店があるようなので、多分他にも卸しているはず。これはまた買おう。年末年始に妹夫婦にも食わしてやりたい。

普通にスーパーで売っているスモークサーモンだって結構するのでむしろお値打ち

ということでね。実は英国好きの友人にフィッシュアンドチップスの情報を流したら折り悪しくバケーションで海外にいるらしく、絶対に食いたかったと悔しがったついでに、noteに実食記を書いてくれと頼まれたので書いたのが裏話。

まあたまにはこういうエッセイみたいなのも、本業に差し障りが出ない程度に書いて行こうと思う。

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