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「何系でもない」宣言をしたネオ家系の筆頭

「上ラーメン」三浦家@金町

 高校生の頃はラーメンよりご飯もの(定食とかカツ丼とか牛丼とか)の方が圧倒的に好きだった。
 80年代後半にはまだ、埼玉県民である僕の周りには美味しいラーメン屋がなかった。専門店らしきもので見当たるのは「くるまやラーメン」「どさんこラーメン」くらい。いわゆる町中華の昔ながらの醤油ラーメンとかはあったのだけど、どうせラーメンを食べるなら「くるまやラーメン」の味噌ラーメン一択って感じだった。くるまやの味噌はご飯のおかずになるラーメンだったので、ラーメンを食べに行っていたのか?白飯のおかずとしてラーメンを選んでいたのか?は微妙なところではあるが。
 吉祥寺とか荻窪とかなら昔ながらの美味しい名店がすでにあったのだろうけど、埼玉からラーメンを食べにそこまで行くなんて考えすらなかったし(渋谷に服を買いに行くだけでも僕には月に1度あるかないかの大きな行事だった)、その頃は東京ウォーカーみたいな雑誌もまだ誕生してなく、インターネットがあるわけでもないわけで、情報そのものがなかったというのもある。

 大学に入った頃からTVチャンピオンのラーメン王などで一気にラーメンブームが起こったのだが、僕がラーメンを好きになったきっかけの一杯に、今はなき六角家のラーメンが挙げられる。今まで昔ながらの中華そばしか食べたことない人間が、初めて家系を食べる衝撃を想像して欲しい。油が1cmくらい浮かんでいるスープという恐ろしく体に悪そうなビジュアル。油膜で湯気のたたないそれを口にする恐怖。味噌ラーメンが濃い味ラーメンの代表格だと信じていた人間を一口で黙らせる醤油豚骨というスープのパンチ力。初めての刺激的な体験だった。しかもそれが悪魔的に旨い!

 大学がその近所にあったため、大学に通う=六角家に通うような生活になった。ただその頃から行列の店だったので、授業とのタイミングが合わないと並べない。食べたいけど食べられない禁断症状に震えて眠る夜が多々あった(どんだけヤバいラーメンなんだ)ことも今は懐かしい。

 それから月日が経ち、あらゆる町がラーメン激戦区になっていき、多種多様なラーメンが各地で食べられるようになっていく過程で、家系はたまにしか食べなくなっていったのだが、最近僕の中で家系熱を再点火させるきっかけのお店が誕生した。それが金町の三浦家。

 武蔵家総大将がわざわざ開いたお店だけに、味は特級品。好みは分かれるところではあるが、僕は三浦家が現在家系の頂点じゃないかと思っている。いや、それもちょっと違っていた。

 三浦家は家系を捨てて何系でもない宣言をしているらしい。

 武蔵家よりもまろやかで優しくそれでいてパンチのあるスープ。鶏の旨味を味わえる豚骨とのブレンド感。六角家も当時は他の家系より柔らかいと言われてたと思うし(うろ覚え)きっと僕は家系タイプの中ではまろやかタイプが好みなのだろうな。ももと肩の2種類のチャーシューはどっちも絶品。細切れの燻製チャーシューも美味。なんというか、スープや麺や全ての食材を全部ブラッシュアップし続けて、家系が進化した形=三浦家になったんだなと思った。開店当初よりは食材高騰の都合で値段が上がったけど、ノーマルラーメンなら一杯850円。このクオリティで! 当然、家系の流れはあって、ご飯は無料。もちろんご飯も食べちゃうよね!

 三浦家の旨さに家系熱が目覚めたものの、問題はその三浦家だ。そりゃ人気出るのもうなづけるけど、並びすぎじゃない? ここ金町だよ?

 開店からしばらくは夜の営業もやっていて、まだなんとか通えたものの、15時までの提供になったことで絶望し、最近は17時までやってるけど、日中は仕事行ってて金町にいないから、結局土日くらいしか食べることができない。で、その土日ともなると大行列すぎて、心が折れる始末。
 食べたいのに食べれない中毒症状は中高生の恋わずらいのごとく胸を締めつけすぎて深夜にコンビニへとひた走り、中本のカップラーメンで刺激を癒すというデブまっしぐらな堕落した生活に僕を追いやった。人間を堕落させるブツを取り扱っている点で、ある意味、三浦家は反社に近い。麻薬ではないけど、麻薬的なラーメンだから、そのうち店の前に「ねえ、お願い! 一口でいいからすすらせて~」と血走った目のラーメン廃人が殺到する可能性だってある。しかもそれは僕かもしれない。

 そんな三浦家が3月から夜に「とんこつ みうら」を始めるらしい。家系は15時まで、18時からとんこつ。三浦家のとんこつって! 期待が膨らみすぎて既に知恵熱が出てきた。しかも、深夜2時までやるらしい。僕が金町で深夜に食べるものがない問題を一気に解決してくれる神の一手まで与えてくれるというのか!

 あ、ちょっと待って。深夜まで大行列ってことはないですよね? ねえ?


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