打ち合わせが思ったより早く終わった。六本木にいる。もちろんランチを食べていこうと思うのだけど、六本木は店が多すぎて迷ってしまう。ラーメンなら「入鹿TOKYO」「銀座 篝」「天鳳」「くろおび」、とんかつでも「豚組」「イマカツ」など選択肢がありすぎる。

　選択肢がありすぎるというのは、ストレスになるらしい。スティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグ、オバマ大統領の服やイチローのカレーなどが有名だけど、選択を減らせば精神的な消耗を減らすことができると言われている。
　何食べようかと迷い選ぶ行為も本来ストレスになるということだ。それを楽しみにしている僕にとっては、そこまでストレスは感じていないのだけど、六本木で何食べよう？　と迷ってみて、なるほど、ストレスになるというのが少しだけ理解できた。

　そこで、あえてあてもなく道を歩いて、気になる店に飛び込んでみようと思った。幸い時間に余裕もある。

　六本木には意外と神社仏閣があるのだと知る。ミッドタウンガーデンから道を渡ったところに、龍土神明宮　天祖神社がある。ビル街に突然杜が現れるので、こんなところに神社？　と思ってしまうが、なんと南北朝時代から続くお社だという。ここは先日完成したばかりの映画のクランクイン前のお祓いでも来た場所だ。一応、完成したことを報告しに参拝しておこうと思った。ちなみに、ミッドタウンガーデンもこの天祖神社も六本木のパワースポットらしい。これは良いことがありそうな気がする。

　天祖神社の前の道を六本木駅の方へと向かう。そういえば、この道ってあんまり通らないよな。夜営業のお店が多いからかも。そんなに距離があるわけではないので、すぐに外苑東通りに着いてしまう。その、少し手前に「ビストロChick」があった。ここは確かにいつも人で賑わっているよね。悪くないかもと思うのだが、グルテン制限中なのでパスタ以外のランチを選ぶとすると、ロールキャベツか鶏もも肉のローストになる。うーん、どちらにしようか？　と悩んでいると、「チック」の隣のビルの１Ｆに出ていた看板に目が止まった。
　牛さがり定食。
　看板を見ると、焼き魚定食か牛さがり定食の２種類だけのランチをやっているらしい。なんか良さげだな。こだわっている感じがする。ここに入ることにしよう。

　お店は３階にあり、小さなビルなので階段で上がるしかない。
　３階に着くと、入り口はちょっと高級そうな小料理屋の佇まい。ドア上には一枚板の看板に「ひろ庵」と書かれている。思った以上に高級な店っぽいぞ。隠れ家的な雰囲気で、これは発見かもしれないと思った。

　店内に入ると広めの白木のカウンターが広がる。先客が一人いて、店主と談笑していた。
　店主に誘われてカウンターに座る。カウンター上に、お昼献立が書かれた紙が貼ってあった。やはり牛さがりと焼魚がメインらしい、その肉魚ミックスというのもある。牛さがりもノーマルの他、多めとダブルというバージョンもあったが、ノーマルの牛さがり定食を頼むことにした。
　注文をすると店主はカウンターの奥の厨房スペースの方へ調理のために入って行く。

牛さがり定食　ひろ庵＠六本木

　定食はお盆に乗せられて提供される。
　牛さがりは表面だけを焼いたミディアムレア。温泉卵と切り干し大根、漬物、ご飯、味噌汁が定食のセットだ。

　味噌汁がやっぱり旨い。牛さがりは食べやすく一口大にカットしてある。このあたりがお箸で食べる和食の心配りだよね。さっそく牛さがりを一切れ食べてみる。思った通り香ばしい表面と肉肉しい赤身。赤身部分も柔らかい。かなりさっぱりしていて旨い。今度はわさびをつけて一口。やー、これも当然旨い。入る前に思った通り、こだわりの食を提供しているのが伝わってくる。そういえばサガリとハラミは同じものだと思っていたけど、少し違うらしい、ハラミよりももっとさっぱりしていて柔らかいのがサガリだと知る。

　温泉卵でTKGにしながら、さがりのわさび乗せをおかずにして食べる。実際、上品な味なのだが、このお店の雰囲気というか割烹のような広いカウンターのせいか、一層上品な味に感じる。最後にちょっとしたデザートまで出てくるのだ。なかなか贅沢な気分になるランチだった。

　お店を出て、またも僕の偏愛が顔をのぞかせる。さっぱりしすぎていて、肉を食べた腹の重さを感じない。肉の量はそこそこあったのだけど。
　なんだろう、いっぱいは食べられないけど、カルビとかサーロインとかもっと脂のあるお肉の方が僕は好きなのだな、なんならガーリックソースとかぶっかけた方が好きなんだな、と思ってしまう。言ってみれば、バカ舌な僕にとってはジャンクさが足りないのだ。いや、こういう上品な和食のお店なのだから、それが当たり前なのだけど。味覚が子供なもので…。

　ただ女性や筋トレする人にはかなり良さそうなお店だと思う。旨いし、高タンパク低脂肪だし、隠れ家的な雰囲気も上品だし、そこそこ肉量あるけれど足りなければダブル（２６００円）にすれば、結構な量になると思われるしで、普通に考えるといいことづくめなお店なのだ。