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漢字で感じる人間学71(私・私とは何か?)

古今東西の様々な哲学や思想がありますが、それを「私はどう生きるか?」という生き方論に適用しようとすると、結局は以下の2つの問いに集約される様に思われます。

①「私とは何か」を問い続けること。
②「死」を忘れないこと。

どちらも、どこまで行っても終わりがないような、深い世界に入っていくテーマですが、ここでは①「私とは何か?」をもうすこし深堀りしてみたいと思います。少々ややこしいかもしれませんが、ちょっとの間お付き合いいただければ嬉しいです。

今、視界に入っているものがあります。自分が部屋の中にいるとして、その周りにあるテーブル、コーヒーカップ、部屋を照らす蛍光灯などなど、色んなものが視界に入ってきます。自分という「主体」がいて、周りに「客体」としての対象物があり、それを私が目で見ていると無意識に思っています。

私たちは、この「主体」が「客体」を認識している、という図式を当たり前のものだと思っています。

しかし、目から入っている情報は、赤・青・緑という光の3原色に各々反応する視細胞があり、その目の細胞が電気信号として脳に送ったものです。それを脳で処理して、これはテーブルだとか、コーヒーカップだとかを判断しています。目で見ているものは、ただの赤がどれくらい、青がどれくらい、緑がどれくらいという情報、電気の信号にすぎません。それをあたかもそのものがそこにその様にあるように見せているのは私たちの脳がそういう処理をしているからです。

生まれたばかりの赤ちゃんは目が見えないと言われますが、まったく見えないということはなく、目では光の情報を受け取ってはいる様なのですが、ただし、その信号をどう処理してよいか分からないので、結果目が見えないということになります。

赤ちゃんも、生まれてから外の生活に馴染んでいくうちに、視覚を通して入ってくる光の情報とか、お母さんにだっこされた感触とか、そういった経験を繰り返して、外の世界に何があるのかを次第に把握していくようになります。

つまり、今身の回りに見えているものは、これまで生きてきた中で経験を重ねて、脳が外界を把握するために獲得した能力の結果です。見えているものは外にあるものではなく、自分の脳が情報処理している内部の世界です。結局見えているものは自分自身ということになります。

そして、今見えているものは、ほんの一瞬ではありますが「過去のもの」です。光の速度は有限なので、目の前にあるコーヒーカップでさえ、それに反射した光が目に入るのに一瞬の有限の時間があり、ほんの僅かですが、過去の世界です。それを「いま」構成して認識しているのは、自分の脳ということになります。

感覚器官を通して入ってきたものは、すべて自分の脳で処理され、その様に世界が解釈されます。色んな経験を積めば、その経験も加わって、外界からの情報を今の自分に最適になるように処理していきます。おそらく、その経験は量子の情報、波として蓄えられていると思われます。人生経験を積めば積むほど、波もバリエーションが増えて、脳内の反応のレパートリーが増えて、豊かな世界になっていきます。アートなど、美しいもの、きれいなものに触れる、そうした感動体験をすれば、自分の受け取る感性も美しいものになっていきます。

つまり、「何をやっても、何を見ても、何を感じてもすべて自分自身の反応。それ以外のものはない」、ということになります。 

そしてまた自分の反応もこれまで体験してきたことの波の重ね合わせなので、「今の自分が過去最高、常に最善を更新している」ということになります。

これが、どういうことにつながるのか?

目の前の人に礼儀を尽くすとか、挨拶をする、丁寧に接するというのも、自分の世界の登場人物を大切にするということ。ひいては自分を大切にすることになります。身の回りの掃除をするのも、自分の世界をきれいにするのと一緒です。「いいことをしよう」といった単なる喩え話ではなく、本当に自分の中を掃除することになる訳です。身の回りのものを大切にするのも、自分の中の世界を大切にするのと一緒です。

また、人生で出会うどんな登場人物であっても、自分の中で展開している「〇○劇場」(○○には自分の名前を入れてください)の登場人物として存在してくれています。色んな人間がいた方が話が楽しくありませんか? ちょっとくらい性格が変でもそっちの方が愛されるキャラクターなのではないでしょうか。誰かにひどい仕打ちをされて傷ついたと感じることもあるかもしれません。でも、自分がそうした経験を通して「傷ついた」という感情を手に入れた訳です。自分に新たな波のパターンが加わり、自分の世界がまた広がりました。

全部私。これを仏教では「一元」と呼びます。それに気づいたら、色んなものが動き出します。

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