「正しい」けど「失礼」なひとを殺してはならない。

2週間ほど前のこちらの記事が話題になっていますね。

いくら正しくても、失礼だと敵視され、殺されてしまう。

Twitterでも好意的に拡散したこの記事ですが、私の感想は、「現実はおっしゃる通り」だけど、「こんな組織で働きたくないし、こんな空気をつくるべきでない」です。

本文から引用します。

残念ながら「正しいこと」をそのまま伝えると、「失礼」になることも多い。
・データがこう言っています
・論理的には、こちらが正しいです
・筋が通ってないですよね
・法律違反ですよね
しかし、こういった「正しさ」を、間違っている人にぶつけても、大抵は物別れに終わる。
しかも、敵視される。

「話せばわかる」という言葉は美しいが、残念ながら、人間同士は話してもわからないのである。なぜなら、人間は失礼な人の言うことは、正しくても聞きたくない、と思うからだ。

これには身に覚えがあります(笑)
私はこれまでに2度転職を経験しているのですが、2社目の在籍期間はわずか1年。実はそのときの退職の理由の1つがまさにこの記事の状況でした。正しいと思ったことを主張したけど受け入れられず、敵視されてしまったのです(それが退職理由のすべてではありませんが)。

今思い返すと、我ながら失礼な若造だったと思うし、その時の上司を今さら批判するつもりはありません。受け手がどう思うかを考慮することはやっぱり大切だし、それを読み間違えたのは私の失敗だったなと。そういう意味でこの記事は「おっしゃる通り」です。


しかし、この経験から約10年経って、今度は組織をつくる立場、運営する立場を考えた場合には、正しいことを率直に言える空気をつくりたいし、それが必要だと思っています。

というのも、Google、Facebook、ホールフーズ など、創造性を重んじて成功している多くの企業が本音で率直なコミュニケーションを重要視していて、すでにさまざまな書籍で語られているのです。

今回は、それらを引用しつつ、なぜ本音で率直なコミュニケーションが必要で、組織としてどう取り組んだらよいのか、私なりの考えをお伝えできたらと思います。



なぜ、本音で率直なコミュニケーションが必要なのか?

この問いに答えるために、一気に3冊の本から引用します。それぞれまったく別々の本ですが、意味はつながるようにまとめましたのでので、ちょっとお付き合いください。(以降、引用の中での強調は私によるもの)

まずは、Googleの元CEO エリック・シュミットの『How Google Works』から。

 悪い知らせを報告する役まわりを避けたいというのは、最も普遍的な人間的欲求の一つに挙げられるだろう。だが、リーダーに一番必要なのは、まさに悪い知らせなのだ。良い知らせは次の日もあまり変わらないが、悪い知らせは日を追うごとにさらに悪くなっていく。だから部下が身の危険を感じることなく、トップに難しい質問を投げたり、どれほど厳しい知らせであっても報告したりすることができる環境を常につくっておくことが大切なのだ。(※1)


2つめは、Facebook COO シェリル・サンドバーグの『リーン・イン』です。

 権力と人間関係に関する心理学的研究によると、集団内で下位の人間は意見表明をためらうし、仮に表明しても留保条件を付けたり、逃げ道を用意したりするという。(中略)建設的な批判のつもりで言ったことが、単なる愚痴ややっかみととられるのではないか。意見など言おうものなら悪目立ちし、総攻撃を喰らうのではないか…。いつも私たちの内から囁くあのネガティブな声が、こうした不安を運んでくる。(※2)


3つめは、インターネット黎明期にネットスケープ を起業し、今はベンチャー・キャピタリストのベン・ホロウィッツ、『HARD THINGS』より。

 すばらしいテクノロジー企業を築くには、驚くほど賢い人々を大量に集めなくてはならない。たくさんの大きな脳を最大の問題に使わないのは、大いなる無駄遣いだ。脳は、たとえどんなに大きい脳でも、知らない問題は解決できない。オープンソースコミュニティがこう言っている。「十分な数の目玉があれば、どんな大きなバグも洗い出される」(※4)


正しい意見を率直にいうことは、上記のように議論の質や課題発見・解決能力を高めます。これに異論は出ないでしょう。さらに、社員が自分たちは大切にされている、権限を与えられている、と感じられる環境・空気をつくるはずです。逆説的に本音が言えない組織は、抑圧され、意義が感じられず、組織文化の腐敗を招きかねません。


さて、ここまでは率直なコミュニケーションの意味を述べました。しかし、元の記事を読むと、別に正しい意見をいうことを自体を否定しているわけではありませんし、ここまでの議論は「失礼」に対してダイレクトに答えていません。つまり、伝え方を工夫すれば解決する問題なのでしょうか。次項でその点を考えてみましょう。



伝え方の問題なのか?

冒頭に紹介した記事から再び引用します。

私が在籍していたコンサルティング会社で、「上司に物申す」のが非常に上手な人がいた。
彼が徹底していたのが、「相手のプライドを傷つけないこと」である。

彼は意見を言う時、相手が間違っていても、必ず「◯◯さんの言うことは正しいと思います。」とつける。
「ついでに、私の言っていることも、判断してもらえないですか?」と、相手に主導権を握らせる。

そして何より、彼は、どんな相手にでも、たとえ嫌いな上司であっても、敬意を欠かさなかった。
どんな相手でも、その人のいうことに一理を感じ取ろうとする、その仕草が、コミュニケーションを、成立させていた。

これも、受け手の側に立つとやはり正しいと思います。古典的名著、カーネギーの『人を動かす』でも、“盗人にも五分の理を認める”と書かれています。


しかし、前述の『HARD THINGS』で、ベン・ホロウィッツはこのようなコミュニケーションを“小言のサンドイッチ”と揶揄し、このような初歩的なテクニックに頼ろうとしてはならないと言っています。

 何度も繰り返すと自然らしさが消えてしまう。社員は「またボスがお世辞を言い出したな。次は小言が来るのだろう」と思うようになる(※5)


さらに、『リーン・イン』では、シェリル・サンドバーグはこのように言っています。

 相手の感情を慮る事が必要だといっても、真実を伝えるときにレトリックは無用である。(中略)「事業拡張戦略には賛成できません」といえばいいものを、「新しい事業の発足を歓迎すべき理由がたくさんあることは承知しておりますし、経営チームは投資利益を十分に分析したうえで決断したものと確信しております。ただ、この時点での新事業発足にマイナス面があることを私たちが理解しているか、自信がもてません」などという。こんなふうに言われたら、相手の本音がどこにあるのか突き止めるのは難しい。
 耳の痛い真実を伝えるときほど、長たらしい但し書きは不要である。短いほどよく伝わると心得よう。(※3)


また、伝え方を考えるにあたって、そもそも対立や摩擦に対して過度に反応することにも問題があるように思えてなりません。

昨年、米国でAmazonが買収して話題になった、ホールフーズ・マーケットの創業者兼CEO ジョン・マッキーは著書『世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー』で、こう言っています。

 対立が生じたときの対処を間違えると関係が相当こじれてしまう。ただし、適正に対処できればむしろ歓迎すべき事態なのだ。これをまったく経験しないとだれも自らを変革できないだろう。そうではなく、前向きな態度で創造的に対応できれば、積極的な変化に向けた重要な引き金になるかもしれない。ステークホルダー理論の創始者エド・フリーマンは、ステークホルダー間の対立はビジネス機会にほかならないと指摘している。(※6)


これらは少々極端な例かもしれません。この中間に位置する具合に、上手に真実や真意を伝えることを目指すべきでしょう。しかし、皆が皆、簡単にそれができるわけではないし、仮に苦手な人がいたとしてもその人を「失礼」と断じるべきでないはずです。



さて、それでは率直に意見を伝え、建設的な議論をするために組織はどうすべきでしょうか。私の思いつくがままに5つのステップを挙げてみます。


Step1: 率直な意見が必要であることを共通認識にする

まずは、これがないと話しは始まりません。現状の組織に閉塞感を感じている方、これまでの議論に共感していただけた方は、まずはメンバーに「もっと早く、もっと頻繁に本音を伝えてほしい。」と話してみてはいかがでしょうか。
また、その次に出てくるであろう「なぜなら・・・」に、この記事の内容で説明できていれば幸いです。まだちょっとしっくりこない方やもっと深掘りしたい方は引用した書籍を当たってみるのもおすすめです。


Step2: 変わるべきは、話し手よりも先に聞き手

率直な意見が重要だと述べてきましたが、当然、聞き手は本音を聞く覚悟ができていることが重要です。Step1で言った「本音を伝えて欲しい」が口先だけでなのか、本当に耳を傾け、いざとなれば変革に踏み出す意欲があるのか、社員は一瞬で判別できるでしょう。引用の(※2)のように、率直な意見が言えないのは、主に階層の下位の人たちです。報告を受ける側、つまり、上位の人たちから率先して変わる必要があるはずです。


Step3: 逸脱した行為には毅然とした対応を

本音とは裏腹に往々にして起こるのが個人攻撃です。ある問題について議論を戦わせたとしましょう。そのときに「あなたの意見は・・・のため、賛成できない」と「こんな意見をいう人は・・・だ」では天と地ほど差があります。本音を言った人の人格を否定されるようなことがないよう気をつけましょう。


Step4: 本音を話しやすい仕組みをつくる

Googleでは、TGIFというミーティングで、何の制限・制約もなく、部下からCEOや役員へのQ&Aを伝統的に毎週行っているそうです。また、Facebookもそうらしいですが、一昔前からフリーアドレスのオフィスや、社長室や役員室の撤廃が続いています。また、直近の昨年くらいから「1on1ミーティング」を導入する企業が増えています。

Step1~3でソフトの面ができてきたら、ハードの面、つまり、制度や仕組みでさらに加速させたいですね。


Step5: フィードバックループを回し続ける

メンバー間の調和と対立、遠回しでわかりにくい表現と率直で失礼な’表現、議論への参加と意思決定のスピードなど、コミュニケーションにはさまざまな ジレンマがあります。また、仕事ができない人ほど言い訳が多く、本音の議論と言い訳を履き違えられることも起こるでしょう。これらに特効薬はありません。しかし、だからこそ臭いものに蓋をすべきでなく、対話による合意形成が必要なのです。(対話についてはこちらの記事にも書きました。)また、制度や仕組みも一度設置したら放ったらかしでよいものではありません。本音のフィードバックを得ながら必要な調整をし、バランスを取り続ける必要があります。



最後に

ここまで、経営者やマネージャーなど、主に組織を運営する立場から率直なコミュニケーションの必要性について述べてきました。

正しいことを素直に伝えることは本来当たり前のはずなのに、今回紹介した多くの企業がわざわざそれに取り組み、著書の紙幅を割いています。これは、放っておくとどうしても職責や勤続年数や声の大きさによってそれを阻害されてしまうということなのではないでしょうか。

すでに論じられてきたテーマではありますが、当たり前のことと思わずに、現状を再確認するきっかけになれたらうれしいです。


一方、経営者でもマネージャーでもない方もたくさんいらっしゃると思いますが、自分には関係ないことだと思わないでほしいです。私も社長でもなければ部長でもありません。それでも、小さなプロジェクトチームや、一つの会議の中でも本音で率直な意見を言い合えるような空気を作っていきたいと思っています。冒頭に書いたような苦労は絶えませんが(笑)、議論を前に進めることや課題を解決したり、何かをつくり出すことは、それ自体が楽しいことだと思いますので。



*  *  *



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出典

(※1)エリック・シュミット.How Google Works —私たちの働き方とマネジメント.日本経済新聞出版社. 2014.P246.

(※2)シェリル・サンドバーグ.LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲.日本経済新聞出版社.2013.P111.

(※3)同上.P113.

(※4)ベン・ホロウィッツ.HARD THINGS.日経BP社.2015.P103.

(※5)同上.P317.

(※6)ジョン・マッキー.世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー.翔泳社.2014.P210.

(※)見出し画像は、(※1)と同じく、『How Google Works』のP46より



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なおゆき

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コメント2件

この記事は「率直や本音」と「正しい」が混同して展開されているように見受けられます。
引用されている文は、どれも「率直や本音」を推奨されているのであって、「正しい・失礼」を推奨しているわけではないでしょう。
「正しい」の反対は「間違っている」。つまり、「私は正しい」=「あなたは間違っている」。すると、「どちらが正しいか」の潰し合いやケンカ、派閥争いになってしまったり、国であれば戦争になってしまうわけです。
つまり、正しい・正しくないなんて、本来は決められません。牛を食べないインドでは、ステーキなんて絶対正しくありません。日本人は正しくないんです(笑)。
ですから、「率直に本音を提案すること、シンプルに」、それを「正しい」にすり替えてはいけないし、そうすると、失敗しますよ、という元記事はとてもよく理解できます。
コメントありがとうございます。正しい・正しくないについて、戦争やインドの例えは理解できます。ただし、この記事では「万人の正しさ」を議論の対象にしていません。この記事の中での正しいは、「組織が目的を達成するために適切な意思決定」くらいの意味合いと思っていただければと思います。また、この解釈は元記事の中での正しさにも同様に当てはまると考えています。
元記事のプロジェクトマネジメントでもプロジェクトの成功という目的を持って何らかの意思決定をしていますし、それによって時に残酷にも結果は現れます。「組織が目的を達成するために適切な意思決定」という意味合いでの正しさは決められるものであり、目指すべきものだと考えています。
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