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kindle出版しました

いつも読んでいただきありがとうございます。
kindleで新刊を出版しましたのでお知らせします。
一般向け(男性が多くてお互いへの気持ちが若干熱めですがBLではない)のごく薄い本です。
シナリオの学校の課題だった、アフリカが舞台の現代ものとSFのシナリオ2作(課題は「湖」と「窓」)を、小説にリライトしました。結構小説らしく書き直せたと思っています。
5月目安に200円くらいで紙の本にもする予定。
美しい本になる予感がする!

ダーウィンの箱庭・夢を紡ぐ人々
https://amzn.to/3laK5QO

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今回は一般向けをイメージしていたので、日本画を勉強されたお友達の飯島波奈さん(https://87am.amebaownd.com/)に表紙をお願いしました。
小説を読んでいただいて、イメージで描いていただきました。アナログをスキャンしたものです。
いつもとまた雰囲気が違っていいですよね。

あらすじと舞台になったヴィクトリア湖周辺の写真、冒頭サンプルです。
この冒頭の、朝みんなタライを頭に乗せて歩いている光景は、見たときすごいなあと思ったし、でも正面からカメラを向けるのは憚られて、私の心の中にだけ残っています。

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 初めてこの地を踏んだとき、この光景を見たときの感動はどれくらいだったか。
 各々頭にたらいを乗せた女性と子供たちが、ヴィクトリア湖に向かって埃に満ちた大地を歩いている。このあたりの朝の風景だ。
 ケニア・ヴィクトリア湖畔。
 自分自身の頭にもたらいを乗せ、すっかり日常となってしまった今でも、毎朝言葉にならない思いがつきあげてきて、和泉は思わず涙が出そうになる。
 生きている。
 たいした量が運べるわけではない。もちろん、衛生的なわけでもない。水中には住血吸虫もいる。それでも、これがなければ生活はできない。雨でも晴れでも、体調が悪くてもよくても、一日でも欠かすことのできない、この規則的な営み。それをくりかえすことで、ごくシンプルな、その思いが新たになる。
 湖の端にたどりつくと、ひざまずいて水を汲む。
「イズミ!」
 子供の声がして、和泉は声の方へ振り返った。幼くてもルオ族らしい、艶やかな黒檀のような肌に面長の顔立ち。顔なじみの少年、オコスだ。
「グッドモーニング」
 和泉が挨拶すると、オコスは笑顔になって駆け寄ってきた。
「レター!」
 少年はポケットに手を入れると、封筒を取り出して和泉に差し出した。元は白かったのだろう。しかし、その封筒がたどった長い旅路を示すかのように、その封筒の角は丸くなり、だいぶ汚れていた。
「エロカマーノ」
 ルオ語で礼を述べると、和泉は封筒を受け取った。
 この地では郵便物は戸別配送していないから、郵便局にある私書箱にまとめて届く。とはいえ私書箱を借りているのも会社くらいだ。和泉の場合は、オコスの小学校を宛先にさせてもらっていた。
「日本から? 誰?」
 覗き込むオコスは興味津々といった様子だ。和泉は封筒を裏返す。タイガ・サカキ、とローマ字で綴られている。
「弟だ」
「弟? 名前は?」
 和泉の脳裏に、ふわりと不機嫌な弟の顔が浮かんだ。記憶にある彼は、いつも不機嫌そうな顔をしている。
「大河。来週来るって」
「楽しみだな! タイガ! どういう人?」
「俺とは正反対だよ」
「仲良し?」
「うーん、どうだろう?」
 答えづらい質問だった。仲良しと言わなければこの少年は心配するだろうが、それでは嘘になる。和泉はしばらく考えて、話を逸らした。
「早くしないと学校に遅れるよ」
「はーい」
 次々と湖に来た女性たちが、水を汲んで去っていく。和泉とオコスも一緒に湖の水をたらいに汲むと、頭に乗せた。
 重いものは頭に乗せるのが一番なのだ。一番バランスが取れるから。
 元気に去っていくオコスを見送りながら、和泉は心の中で呟いた。
 あいつは、俺のことは嫌いだろうな。

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こちらの作業をしていたので、エブリスタの更新はちょっと滞るかもしれません。すみません。
あちらでもいつもスターありがとうございます!

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