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観音さまはそこにいた。 南円堂の不空羂索観音さま

世界でいちばん好きな仏像は?と聞かれたら答えに迷いますが、
「会ってもいないのに好きになった方は?」

と言われたら即答です。

南円堂の不空羂索観音さまです。

昨今の写真技術は目をみはるものがありあますが、同じ仏像でも角度やライトでだいぶ印象が違います。

数多くある仏像でも秘仏と呼ばれ、年に数回しか姿を見せてくださらない方は、まだお目にかかったことがなく、写真でしか拝観がかなわないという方も沢山いました。

南円堂は年に一度の御開扉で、しかも曜日関係なく「10月17日」と決まっていたので、かつて勤め人をしていたときは会うことがままならない方でした。

でも、とあるポスターに写っていた不空羂索観音さまのなんと美しいことか。

あえて陰影を深く作っているものでしたが、妖艶といっていい美・そして合掌するポーズの祈りの深さ、仏様のもつ魅力の多くがそこに詰まっていて、「ポスターの仏を写真に撮って」帰ったのはこれが初めてです。


初めてお目見えがかなったときの感動は不思議なものでした。

正面、横顔、横顔の後ろの方、一周回って違う側面、すべて表情が違うのです。

なぜこの方が厚い信仰を重ねてきたのか。会えないのに?お姿を拝せないのに? それはずっとながいこと疑問でした。

観光が仕事になってほぼ毎年ご尊顔を拝するようになって、ようやく不空羂索観音さまの信仰を支えるものがわかってきました。


観音さまは衆生の求めに応じて变化するといいます。

不空羂索観音様は、おひとりで無数に变化するのだと。

でもそれは正確ではなかったのです。

観音様とは、私の心に応じて变化する方だったのです。

見えなくても、会えなくても、人々は自分の中に観音を見、必要に応じて助けてくれる他人に、その姿を見出していた。

不空羂索観音さまに、私たちは日常的に会っていたのです。




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