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東京国立博物館(東京都台東区・上野駅 国宝 東京国立博物館のすべて)5/5

・東京国立博物館 平成館(東京国立博物館のすべて)
今回の東博を訪れた目的のメインであり最終段階でもある平成館。こちらも法隆寺宝物館と同じタイミングで建てられて1999年より開館した、東博の中で最も新しい施設となっている。平成館の前庭には東博の前身である帝室博物館の総長を務めた森鴎外の総長室跡がある他、東博の設立に尽力し初代館長を務めた町田久成の像が飾られている。

この人がいなければ東博はなかったすごい人

平成館は2階建てとなっている。入口から本館を思わせるような大きな中央階段が目に飛び込んでくる。左右に分かれている1階は、中央階段むかって左手が休憩室を兼ねたロビー、右手には企画展示室と考古展示室とがある。2階がいわゆる特別展をメインとした会場になっており、東京国立博物館で開催される特別展は大体がこの平成館2階で行われている。

本館を模した中央階段

今回の国宝展は東博の収蔵している国宝を全て公開するという非常に大胆な試みで兼ねてから注目度が高かった上に、各メディアで報道されていたのもあって相当な混雑。時勢柄もあって日時指定の完全予約制だったため入場人数が限られているという現状がありながらも、指定時間の前になると入口の前には長蛇の列ができている。この長蛇の列に並んで入場指定時間スタートから入るというのが一般的な鑑賞の仕方かもしれない。けれど実際には入場指定時間内であれば遅れても入場できる。あくまでも「入場指定時間」であって「鑑賞指定時間」ではないところがポイント。どちらにしても入場からの90分前後が推奨時間とされているので、スタート時間の混雑の中で90分を費やすよりも少し遅く入って空いているところから90分を費やす方法が賢いかもしれない。時間によるけれど。

入場指定時間前はこんな行列 じっくり観られる気がしない

平成館を除く館は17時をもって閉館してしまうため、入場指定時間になるまでは外で待機していなくてはならない。昼と夜の温度が違う季節柄、敷地内のベンチで待機しているのは少し肌寒いため、逆にライトアップされた館を眺めながら散策してみるのも良いかもしれない(ただし中央広場をはじめとして限られた場所しか移動はできない)。平成館の常設展示室である1階も17時に合わせて閉室してしまうため注意が必要。

夜の表慶館
夜の法隆寺宝物館

さて国宝展。中央階段わきのエスカレータで2階へ上ってすぐ左手からがスタートである。今回は全8期の会期のうち6期目。入場指定時間に合わせて入るとさすがの混雑。一つ一つの作品を眺めるのに行列ができていて作品を鑑賞するためにまた行列に並ばなくてはならず非効率なので、まずは目ぼしいものを一通り眺めてから時間を見計らって混雑の緩和を待ってみる。これが効果的で実際、指定時間スタートから30分ほど経過すると最初の展示室は閑散としはじめ、作品によっては独占して鑑賞できる。第1展示室の最初にある絵画のうち、岩佐又兵衛『洛中洛外図屏風』はさすがに独占とは行かないまでも閑散、狩野永徳『檜図屏風』や池大雅『楼閣山水図屏風』、それに十六羅漢像などは独占して鑑賞できた。

とにかく混雑の塊をいかにすり抜けるかが鑑賞のポイント。せっかくの国宝を周りのペースに配慮しながらチラ見するだけじゃもったいない。どうせ見るならじっくりと。なにしろ1回の会期で60点ちかくの作品がある。推奨時間の90分で割れば単純計算で90秒。移動時間を考慮して差し引いたとしたって、一般的な美術品の平均時間とされる約20秒前後(!)をはるかに上回る時間で国宝を鑑賞できるのである。

あッ!

隣の展示室では地獄草紙餓鬼草紙が展示されている。特に地獄草紙は印象的で、首を切られたり焼かれたりといういわゆる地獄の責め苦を草紙にして紹介しているのだけれど、「人に酒を飲ませる」「酒に水を混ぜて売る」「酒で酔いつぶして盗む」といった酒に関する項目が全て地獄行きの理由。そりゃ犯罪かもしれないけど酒飲みに厳しすぎる。酒を飲みながらこの記録を残しているのも地獄行きだろうか。飲んだ分だけ書いてます。

…うん。

つづく展示室は書について。法華経古今和歌集延喜式といった教科書で名前を見たことがあるかな、といった書や寒山拾得図などの画の展示がある。国宝といっても興味は人それぞれ。個人的には平安時代に書かれた延喜式の書簡が、裏紙を使って書かれていたというのが印象的だった。紙が少なかった時代ならでは。

第1展示室のメインとなる最後の部屋は法隆寺の宝物と考古・漆工などの工芸品。法隆寺宝物館に収蔵されている一部がこちらで紹介されている。中でも竜首水瓶が人気で、竜の首が注ぎ口になっていて、パカって口が開く形になっているユニークなデザイン。表面にペガサスっぽい謎の生き物がデザインされているのも面白い。麒麟でもなさそうだし何の生き物なのか。他にも持ち手が異様に細い銅鐸やカメラなら顔認証されそうな埴輪(ちなみに会場内は撮影不可)、それに螺鈿の装飾が美しい片輪車蒔絵螺鈿手箱(引き手まで車輪のデザイン)や、尾形光琳の八橋蒔絵螺鈿硯箱(八橋だけど橋が八つじゃない)が目を引く。

平成館は天井も綺麗なんだよ

第2展示室は残りの国宝として刀剣を展示している。三日月宗近や大般若長光など刀剣が好きな人にとっては手放しで推せる名物が揃っている。刀剣の横綱と呼ばれる大包平や童子切安綱、厚藤四郎に亀甲貞宗、観世正宗といった名の付けられた刀剣だけでも多数ある。比較的ここでは女性が多いのはさすが。刀によって刃紋が全く違うのはもちろんのこと、デザインがそもそも全く異なっていたりしてこの趣味は沼が深そう。

総長だった森鴎外は何を思う

第2展示室の後半はこれまでに150年の歴史を辿ってきた東京国立博物館を総浚いするという内容。日本における最初の博覧会は古今珍物集覧が湯島聖堂で行われたのが始まりで、東京国立博物館の発祥はこれを以てとされている。博物館は湯島聖堂から内山下町(日比谷公園あたり)を経て現在の上野公園に移転して現在にいたっている。その開館には平成館の前庭に銅像のある町田久成が多大な尽力をしたのだという。展示室では黄金の鯱の原寸大再現や水龍剣、蒔絵を施した鞍鎧や絵巻といった日本古来よりあるこれまた重要文化財を中心に当時の展示や続くウィーン万国博覧会に出展された美術品を紹介している。

帝室博物館と銘打たれた最初期は美術品だけでなく、動物園や植物園を含んだ総合的な博物館としての役割をもっていたが、関東大震災による博物館の被災を経て、動物編とは切り離して美術と歴史に特化した形で再スタートすることになった。その後は自然科学分野も分離して国立科学博物館として誕生している。動物園にかつて飼育されていたキリンの剥製も展示されている。

切手のイメージがある見返り美人

展示室の最後には新たに所蔵品に加わった金剛力士立像と、おなじみ菱川師宣『見返り美人図』が配されている。これらの作品のみ今回は撮影が可能。トイレはウォシュレット式。

また150年後に会おうね

こうして合計10時間以上におよぶ苦行の末に全ての館を余すことなく鑑賞。もちろん展示替えなど頻繁にあるし、会期外の国宝もある。またタイミングを見計らって館を絞りながら来訪したいもの。それだけの質量が収蔵されている国の誇る博物館である。

この構図 我ながらよく撮れたと思うんだ

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