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上野の森美術館(東京都台東区・上野駅 深堀隆介展 金魚鉢、地球鉢。)

年明けの上野駅。アメヤ横丁をはじめとした年始のセールで人だかりが多くある。そんな中、上野公園も日常の半分くらいではあるもののそれなりに人出がある。ミュージアムが休館となるこの時期、上野の森美術館だけは開館しているために訪れたわけだ。

開催されているのは深堀隆介展。金魚の絵を確立した作品で評価を受けている絵師。もともと日本画や西洋画には特別な秀でたものがなく試行錯誤していた中で、部屋の中で飼っていた金魚を描いてみたことから開眼した金魚絵。酒枡などに透明樹脂を流し込み、固まったその表面に金魚の絵を施し、その上からさらに透明樹脂を流し込み、またその表面に絵を描く。その作業を何層にも重ねて立体的にする、という気の遠くなるような作業の元に作られた金魚絵は、まるで本物の金魚が水の中で泳いでいるような精緻を表しており、ため息が出てくるほど美しい。

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入場してすぐに酒枡に泳ぐ金魚をメインとしたシリーズ「金魚酒」が出迎えてくれる。初期の作品と近年の作品とがある。近年の作品になればなるほど平面的な作品から立体的な作品へとなり、そのリアルさに拍車がかかっている。金魚の他にも水草や落ち葉なども施されていて本当に生きた金魚が泳いでいるようである。

正月ということもあるのか親子連れも多く訪れている。余計な知識なんて不要でとにかく目で見て楽しむことができるのがとても良いのかもしれない。最初にあった金魚酒コーナーの次は制作過程の映像が流れており、どういう風にしてその繊細な作品が作られているのかを学ぶことができる。

次のコーナーではアクリル絵の具を使用して木のパネルや段ボールに描いた金魚の絵や、和紙に金魚の絵を描いた書、あるいはTシャツや木彫り熊の咥えている鮭が金魚になったものなど、いろいろな形での表現が展示されている。この作風に至るまでの紆余曲折も本人が解説しており、背景を感じ取りながら鑑賞することができる。

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基本的にはほとんど撮影はできないのだけれど、新作として絵といくつかの金魚酒を撮影することができる。もちろん現物でないとわからない光の加減などがあるので実物を観るのがベストなのは言うまでもない。

2階に上がってさらに様々な形の金魚絵が登場する。酒枡だけでなく、それこそ陶器やカップ、椀などの日常で使うようなものにも金魚を泳がせる。弁当箱や木桶、柄杓にまな板、金魚はどこでも泳ぐのである。それがまた面白い。

金魚や浮草の描写の他にも圧巻だったのは金魚のフンや空気の泡までもが表現されているということ。本当に金魚鉢の中を覗いているような感覚になる。

興味深いのが春夏秋冬それぞれの季節を表した連作ともいえる作品群で、春は桜の花びら、夏は藻、秋は枯葉、冬は雪と氷といったような再現までなされており、それが絵だということを忘れてしまいそうになる。他にも桶の中に浸かったスニーカーの周りを泳ぐ金魚など(これは樹脂に本物のスニーカーを沈めて描いたらしい)、どういう手法なのかが一概に想像できない技巧で描いているのが驚嘆の一言。

モデルである金魚は生き物である以上いつかは死んでしまう。その時に想いを込めて繊細にスケッチしてきたことがこの繊細なタッチの絵を生み出すことに少なからず影響しているようで、そこには深堀氏の金魚へ懸ける想いが凝縮されているかのようである。少なくとも仕事と割り切っていない生き物への愛情が感じられる。

そこから作風は新たな展開を迎え、金魚の鱗だけをピックアップした作品や、アニメ絵のような作品なども表現している。アニメ絵になると感情らしいものが見えてくるのでそれもそれで別の味わい方ができる。

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さらに大きなインスタレーションである「方舟」(大きな養殖桶のいろんな場所に金魚を泳がせた作品)や、夏の金魚すくいをイメージさせた「僕の金魚園」など、作品はあらゆる表現方法へと広がって行き、一生分の金魚を味わった展覧会であった。最後のインスタレーションの隅に本人のサインとメッセージが残っていてそれも可愛らしい。

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トイレはウォシュレット式。グッズショップでもこれらの作品の写真やカードの他に、飴に金魚をあしらった金魚飴などもあり、見た目を楽しませてくれる。

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