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インタビュー記事の4つのスタイル【vol.36】

インタビュー記事といってもそのスタイルはさまざまです。今回はインタビューをしたとき、どんなスタイルの記事にするのが最適なのか、以下の4つのスタイルについてその特徴と使い方について紹介します。

1. 一人語り
2. 質疑応答
3. 対談
4. 報道

1. 一人語り 

インタビュアー(ライター)の存在を消して、インタビュイー(取材対象者)の言葉のみで表現するスタイルです。

いわゆるゴーストライターの仕事はこの部類に入ります。世の中に出ている有名人の自己啓発本などはたいていこの「一人語り」スタイルです。学者や作家など、自身で文章を書くことを生業としている人は自分で書き下ろしますが、実業家やタレントなどは書くことを本業としていないため、ほぼライターがインタビューをして文章にまとめます。

たとえば元2チャンネルの管理人のひろゆき氏のベストセラー本『1%の努力』は、ひろゆき氏自身が「自分で書いたのはあとがきだけなので内容はあまり覚えていない」と公言していました。

堀江貴文氏の著書もすべてゴーストライターによるものです。彼のベストセラーの著書『多動力』の編集を担当した幻冬舎の箕輪厚介氏は、堀江氏にインタビューすらしていないと公言しています。堀江氏のツイッターやYouTubeなどで話した内容をまとめただけとのこと。

「一人語り」のスタイルのメリットは、会話がベースになっているので、人柄を表現しやすく、親近感を強く演出できる点。そして、比較的、編集する量が少なく、短時間で簡単に構成しやすい点です。

逆にデメリットは、話し言葉が中心になるため冗長になりやすく、内容が重複することも増えてきます。そのため、最初からポイントを絞って、無駄な文章を削っていくことを強く意識する必要があります。

冗長にならないように、できるだけ小見出しを多く使ってメリハリをつける工夫が求められます。

ライターや編集者の腕の見せどころ、というか非常に力試しのしがいのあるスタイルでもあります。


2. 質疑応答 

基本的にインタビュイーの言葉がメインとなりますが、インタビュアーの質問を元に肉付けをしていきます。雑誌や新聞のインタビューにはこのパターンが多く見られます。「質疑応答」のスタイルは質問を多く挟むことで記事にメリハリがつき、飽きさせないのが最大のメリットです。会話(対話)をベースに構成するため、口語ならではのフランクな感じが出せて、わかりやすいのも大きな特徴です。

「質疑応答」スタイルの醍醐味、面白みを最大限に生かすには、全体の構成にメリハリをつけて、きれいなストーリーにするために、インタビュイーの話に合わせて慎重に質問の言葉のセレクトしながら創意工夫をします。

また、インタビュアーやメディアの方向性や好みにもよりますが、口語と文語のバランスをとるのが難しいのも「質疑応答」の特徴です。話し言葉を生かしたほうが臨場感やライブ感は出せるものの、あまりリアルな話し言葉が目立つと、薄っぺらい印象を与えたり、かえって読みづらくなったりすることがあります。

逆に口語体の雰囲気を完全に消してしまうと、インタビュー記事ならではの、読みやすさや臨場感・ライブ感が失われてしまうので、口語と文語のバランスを上手にとる必要があります。

特に企業の広報などが関わるインタビューなどは口語体を嫌う傾向にあり、プレスリリースのように無味乾燥な表現に書き直されてしまうことがあります。そのような企業(特に大企業)には事前に「インタビュイーの人柄を伝えたい、インタビューゆえの臨場感・ライブ感を生かして、読者に興味深く読んでもらえるように意識して書いている」旨、伝えておくようにしておきましょう。全面的に書き直しをされないための多少の防衛線を張る効果はあるかと思います。

聞いた言葉、話した言葉に忠実に再現するのが必ずしも良いとは限りません。最終的には読者が読んで面白いと思ってもらうことがライターとして果たすべき使命です。

3. 対談

人気のあるWebメディアでは、多く利用されるスタイルです。対談のときはたいていインタビュアーが司会進行を務めることになりますが、特に異分野の有名人による初対面の対談は、意外と話が盛り上がらないことがあります。お互いを尊重するあまり、気を使いすぎたり、様子を見ているうちに終了時間が来てしまったりするためです。

対談におけるインタビュアーの役割は、テレビのバラエティのMCに近いと言えます。あるいはお見合いの仲人さんのような立ち位置でしょうか。対談をする2人が盛り上がって面白い話をしてもらうことが目的なので、インタビュアーがそれぞれに個別に話を聞いて、対談の当事者がインタビュアーに話しているようでは失敗と思ってよいでしょう。

たとえば、近年のテレビ朝日の「朝まで生テレビ」で司会を務める田原総一朗氏は、大物ジャーナリストでありながら、インタビュアーとしては最悪の見本なので反面教師として一度見てみるといいでしょう。

昔はそんなことはなかったのですが、この数年の「朝まで生テレビ」は論客が全員、田原氏に気を使って話しかけていて、論客同士のあいだでまったく討論の体裁をなしていません。また、田原氏が全体の半分くらい自分の主張をしているため、論客は遠慮してどんどん無口になっています。

全盛期の田原氏は常に論客同士が激論を交わすようにけしかけていたので、「頭脳プロレス」とも言える激しい討論が繰り広げられていました。しかし、いまではその面影はまったくなく、田原氏一人が一方的に大声で叫び、恫喝し、自分と意見が合わない論客を封殺してしまっているため、典型的なパワハラ企業のワンマン社長の会議のようになってしまっています。

話が逸れました…。

「対談」のメリットは話す人が2人(インタビュイー)+1人(インタビュアー)になるため、上手なファシリテーションさえできれば、お互いの話が化学反応を起こして思わぬストーリーが展開されたり、リズムやメリハリが生まれたりして、読んでいて楽しい記事になります。逆にファシリテーションが上手くいかないと、お互いが遠慮して表層的な話になるリスクを孕んでいます。

そのため、事前のリサーチは念入りにして、対談をする2人の接点や対立する考え方などを深堀りしておく必要があります。そして、ドラマや映画のシナリオを書くつもりで構成をプランA、プランBといったように数パターンを事前に考えておきます。


4. 報道

雑誌や新聞などでよく使われる王道スタイルです。インタビュイーのコメントは要の部分だけに利用し、インタビュイーの主観的な視点が入ることが多くなります。

情報を多く詰め込みやすく、インタビュアー(ライター)の考え方や主張を盛り込みやすいため、長文のドキュメンタリーや深堀りしたいときによく使われます。

ただし、高い構成力や文章力が求められるため、文章スキルが高くないとなかなか手間と時間がかかります。一方、取材先が多い場合やインタビュイーに聞く時間が十分に確保できなかったり、インタビュイーがあまり話してくれなかった場合にも使える手法です。


以上、インタビューには大きく4つのスタイルがありますが、最近は「編集をしないインタビュー記事」を売りにしたメディアも出てきています。しかしながら、こういう生素材を公開することは、良し悪しはともかく、私はあまり好きではありません。

まず「編集をしない」ことの狙いやメリットがよく理解できないのと、私自身、一発録りをするスキルも自信もないからです。

最近はYouTubeでミュージシャンによる一発録りが流行っていますが、私はその緊張感がとても好きです。ローリング・ストーンズはレコードの収録もよく一発録りをしていたと言われましたが、やはり一発録りならではの荒々しさ、ライブ感、臨場感があるのです。

一発録りのインタビューがあるとすれば、「編集をしない」記事を書くには、ローリング・ストーンズのような即興力、アレンジ力、インタープレー力、構成力など、相当なハイレベルのスキルが必要になることを意味します。

作家の井上ひさし氏は著書『自家製 文章読本』で、「会話体は冗長性こそが最大の特徴。その70%までは無駄な受け答え」だと語っています。

そして、情報理論の創始者として知られるクロード・シャノン氏の言葉をこのように引用しています。 

しかし、この無駄がなくなると、私たちは命がけの緊張感を強いられる。それでは精神が参ってしまう。だからあえて70%の無駄を交えて会話する。

未編集のインタビュー記事とは、この無駄な70%も読者に読ませてしまうわけです。

たとえば、インタビューで話を聞くと、「なんです」「みたいな」「っていうか」「ますけど」「まあ」「じゃないですか」「とか」といった口語特有の表現がよく出てきます。また、おしゃべりな人ほど短い文節をダラダラとつなげ、切れ間なく話すため、文字起こしをしたときに、句点「。」が300字くらい出てこないこともよくあります。

話した口調をそのまま生かすほうが、話し手の性格や個性も伝わりやすいし、臨場感が生まれることもあるでしょう。しかし、度が過ぎると一文が300字くらいに長くなったり、同じ調子が続いて単調になったり、間抜けな印象を与えたりしまうリスクもあります。そのバランスがとても重要で、インタビュー記事では、編集のほとんどが、この冗長な口語体と堅苦しい文語体の調整作業といっていいのです。

成田幸久(プロフィール)


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