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生き延びてください

 noteを書くようになって、過去の自分の日記を読み返すことが増えました。
 私は途中、日記を無くしたこともありましたが、社会人になって1年目途中くらいからの日記は残っています。
 日記を読んで「ああ、こんなことで悩んでたんだな」とか「うわあ、これは思い違いをして責任転嫁してるぞ」とかいろいろ思うところがあります。「いろいろ思うところがある」というか、ほとんどが昔の失敗を眺めて「わぁ、失敗してるなぁ」と思うことばかりです。他責、自虐、勘違い、杞憂、的外れ、失敗etc.
 そもそも私の日記の書き方は、毎日書いているわけでなく、何か特に書きたいような出来事が起こったときに書いているので、そこに残っているのは何かしらの事柄が発生した時なので、余計にそう思うのかもしれないのですが。

 悩んだり失敗したりしていた当時は「なんでこんなことが起きるんだ」「なんで俺はこんなに駄目なんだ」と苦しんでいましたが、今振り返ってみると、失敗したり悩んだりしたことは、今の私が今の私でいるために必要な歩みだったな、と思います。
 もし仮に私が当時起きていたような失敗を経験せずに今まで生きて来ていたなら、きっと今よりももっと薄っぺらい人間になっていたと思います。そして今よりも人の苦しみに共感できず、人のために何かしようという思いも抱けなかったでしょう。環境改善活動に取り組もうという気持ちも、仏道修行に励もうという気持ちも生まれていなかったに違いありません。
 あの数々の失敗はあの時の私にとっては必要だったのでしょう。

 ただ、その過去の失敗において、周りの人に迷惑や心配をかけたり、相手の気持ちを考えずにした言動で傷つけてしまったことだけは、後悔してしまいますが……。


 私にとってあの数々の失敗が必要だったのと同じように、人それぞれにおいてその人生に必要なことは違うのでしょう。
 ある人が悩み、迷っている時、傍から見たら「なんでそんなことに悩むの?」と悩む必要が無いことに悩んでいるように見えることがあるかもしれません。また、「こうすればいいのに」と解決策を言ってしまいたくなる時もあるかもしれません。
 でも、その人にとってはその悩みや迷いをすぐに解決することが大事では無いかもしれません。そこで十分に悩み、迷い、時に失敗して傷つくこと自体が、その人が本当の意味で前に進むために必要なのかもしれません。
 ネガティブな経験を体験することが、必ずしもその人の人生を暗くするとは限りません。

 荒川修作という建築家がいました。
 戦時中、空襲の中、ある少女と逃げていたそうです(その少女が親族の誰かなのか、逃げている途中に出会った子なのかは失念しました)。しかし逃げている最中、少女は荒川修作の腕の中で亡くなったそうです。
 その時荒川修作は「こんな悲しいことが二度とこの世の中にあってはならない」と強く思い、戦後、「死なない建築」を掲げて独創的な建築を制作していきました。そして養老天命反転地などを制作し、多くの人に多大な影響を与えています。
 荒川修作が体験した深刻な悲劇が、その後の彼の創作人生を強く動機づける出来事となったのです。

 
 今、鬱や様々な出来事によって人生が最悪のように感じている方々も多くいらっしゃるでしょう。しかし、その人生最悪の時期を乗り越えられたなら、もしかしたらその最悪の時期こそが貴方自身の人生を支える出来事になるかもしれません。その最悪の時期こそが貴方の今後の人生を輝かせるかもしれません。その最悪の時期こそが貴方にかけがえのない大事なものを与えてくれるかもしれません。
 人生はどう転ぶか分かりません。私も鬱になった十数年前は、その日一日を生き延びるのに精いっぱいで将来に希望など欠片もありませんでしたが、その後何とか生き延びて、その経験があるからこそ今がある、と思えています。

 大事なのは生き延びることだと思います。どんなに最悪の状況でも今日一日を生き延びること。今日を生き延びたなら、明日も生き延びること。
 最悪な気分を無理に上向きにすることはありません。無理にポジティブになることもありません。自虐思考を止める必要もありません。自傷行為と他人を傷つけることはしない方が良いですが……しかしそれらが必要な時期もあるかもしれません。命が無くならない程度に抑えるなら、それらも良いかもしれません。

 とにかく生き延びることです。生き延びて生き延びて生き延びれば、いつかその経験が活きてきます。
 ただ、自分の心に正直に言うと、貴方の最悪な経験が本当にその後の人生に活きるのか、私は分かりません。私は全知全能でもないし、貴方の人生について何も知らないからです。
 でも、それでもあえて言います。

「最悪な時期の経験は絶対にその後に活きてきます」

 それだけは、嘘だと言われようと私は言い続けなければならないと思っています。私が最悪な時期を生き延びて今あるからには、言い続ける責任があるとも思っています。

 

 令和4年の日本の自殺者は21,881人。20歳未満の自殺者は798人です。
 死ぬほどの苦しみを耐えて生き延びることができたなら、その人達の言葉はどれほどの重みがあったことでしょう。どれほどの人を救うことができたでしょう。

 今から、苦しみの最中にいる人に向ける、最も酷な言葉を送ります。



 生き延びてください。





 本日は以上です。