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頼もしき後輩

 以前会いたいと言ってくれていた大学の弓道部の後輩にお盆に会ってきました。 

 彼は今、父親から山関連の仕事を引き継いで行っているそうで、私が山仕事をしているということで連携できるかもということで話を聞きに来てくれました。

 彼はなかなかいろいろな経歴を経てきた男です。ピアノを弾いたりバーテンダーをやったり小説を書いたり、本人も全部覚えていないくらいの遍歴です。
 彼と会うのは6年ぶりくらいなのですが、6年前の私は、彼がいろいろ仕事を転々とするのを見て「何がしたいんやろ」くらいにしか思っていませんでした。しかし今回彼に会って分かったことがありました。彼はいわゆるクリエイター気質の人なのです。
 彼の中に何か表現したい、形にしたいという気持ちや感情のようなものがあり、それの表現の仕方を探していろいろな仕事を点々としてきたのだと思いました。

 それが私に分かるようになったのは、私がnoteを書くようになったからでしょう。
 私はnoteで言葉を使って自分の思いや意見を表現しています。クリエイターというにはおこがましい程稚拙な内容ではありますが、自分のことを表現することで、「表現者」と呼ばれる人の気持ちが少し分かってきました。そのため、彼の内にある「表現したい」という欲求を感じ取ることができたのだと思います。

 そんな彼が今、父親から引き継いで山に関わる仕事に携わっているのでした。仕事内容としては、山中にあるインフラの維持管理であり、具体的には周辺の草刈りやそこに至る道の整備です。
 彼はその仕事を父親から引き継いで間もないので、勉強しながらとのことですが、引き継ぐにあたり、請けている仕事を言われたままするのでなく、付加価値を付けて自分の会社でしかできない質の仕事にしたいと語っていました。

 彼は自分の夢について非常に力強く語る男で、部活動をしていた時も自分たちの代の目標となる試合について想いを語る姿は熱く、こいつならやってくれると思わせる勢いがありました。
 それは部員たちにも伝わっていたのでしょう、彼は主将として見事に目標とする大会の優勝を勝ち取りました。

 そんな彼が、山には可能性があると語っていました。まだ具体的には見えないが、山での仕事はもっと展開できる可能性があると言っていました。
 彼の仕事は簡単に「草刈り」と呼ばれますが、ただ草刈りだけではありません。管理しているのはインフラに関わる施設なので、急な災害や事故があった時は、その会社の職員がその施設に調査・修理に向かわなくてはなりません。その時、そこに至る道に倒木があったり、草刈りがちゃんとできておらず蜂の巣などが草むらに隠れていたりすると、その施設に迅速に辿り着いて復旧することができなくなります。
 そういう障害が起こった時に施設に問題なく辿り着けるように周辺の整備・管理をするのが彼の仕事です。
 世間はAIだのITだの言っていますが、それらの基盤を支えているのは物理的な施設ですので、その施設に不具合があればそれらも機能しなくなります。彼が担っている仕事は、その機能を維持するための大事な仕事なのです。

 彼は仕事を引き継ぐ中で作業に取り組むうちに、今軽視されている山には、実はとても大きな価値が眠っているのではないか、と感じ、そしてそれを見つけることをしたい、と言っていました。
 それを聞いて私は「なるほど、私がしたいのは山から新しい価値を見出すことではなく、かつての日本人が知っていて今は忘れてしまっている山の価値を再発見することだな」と気づきました。

 『土中環境』の高田さんがおっしゃっていることですが、昔の日本人は里山に象徴されるように、自然とうまく付き合う術を知っていたと言います。現代社会のように自然を破壊し、自然から収奪する方法ではなく、山も豊かにし、その豊かさからの余剰を分けてもらうという絶妙な塩梅を昔の日本人は心得ていたそうです。
 そして私も、その昔の日本人が心得ていた塩梅を復活させたいという思いがあります。
 もちろん、現代日本とかつての日本では社会状況もインフラの状況も異なっているため、全く同じ方法を採用してもうまく行かないでしょう。今の社会に適した方法にアレンジする必要があります。それは、知らない人が見たら「新しい」方法に見えるのでしょうが、本質は「復古」です。かつての我々の先祖が行っていた偉大な方法を改めて現代の世によみがえらせるだけなのです。
 私が山仕事において行いたいことはそういう方向性なのだ、と彼と話していて気づきました。

 彼との話でもう一つ興味深かったのが、彼の父親の話です。
 彼の父親は脱サラして故郷に戻り、そこで草刈りの仕事などを始めて段々と周りからの信頼を得て仕事が広がって行き、インフラの施設の管理を任されるようになったそうです。その彼の父親の格言に「あせらない、あわてない、あきらめない」という言葉がありました。
 彼の父親が初めてインフラの施設に関わる仕事を請けたときは、単に「草刈りの仕事」として請けたそうです。しかし、彼の父親は言われたことだけをするのでなく、草刈りをする中で気づいた周辺の異常も逐一報告し、改善をするようにしたところ、その仕事の丁寧さを買われて施設周辺を含めた管理を任されるようになりました。
 「あせらない、あわてない、あきらめない」という言葉には、一つの仕事をただ早く終わらせようとするのでなく、上記のように一つ一つ丁寧に作業に向き合い、真摯に仕事を果たそうとする意志が伝わってきます。
 長く現場で仕事を続け、信頼を得てきた仕事人としての重みを感じました。

 そんな風に彼との話はたいへん盛り上がりました。また、彼の受け持つ仕事において私と連携できるかもしれない点も見えてきました。


 彼との再会は、山仕事への希望と私の具体的な仕事の二つの方向で明るい話題を提供してもらえたのでした。
 私と会おうとしてくれた彼に感謝です。


 本日は以上です。スキやコメントいただけると嬉しいです。
 最後まで読んでくださりありがとうございました!